9-C 個性はどこで出すか?
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a 解法のパターンを覚える b 個性は隙間を探す c 思考の枠組みで個性を出す
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解法のパターンを覚える
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●けっきょく設問の形式は、これで4種類となりますね。
■そうだね。
- 1 短文テーマ型
2 課題文読解型 3 資料分析型 4 題名型
という4種類と言うことになるね。
●それぞれの解き方を覚えていないといけない、というのはけっこうメンドイですね。」なんて全然意味が分からない! それに題名だけ。手抜き問題じゃないですか?
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小論文にも解法のパターンがある |
■そんなこと言うけど、数学の問題にはいくつもの解法のパターンがあるだろう? 数学はその解法のパターンを覚える暗記科目だ、という説があるくらいだ。それに比べれば小論文のパターンなんてずーっと簡単だと思うよ。
●じゃあ小論文も数学と同じで、設問と解法のパターンを記憶しておくべきなんですか?
■そういう部分は多少あるね。どんな科目でもある程度の解法パターンがあるのは当たり前で、今まで小論文という科目で、そのパターンが考えられていなかったことが不思議なくらいだと思うよ。
考えは自由、方法は限定
●ふーむ、自分の感じたり考えたりしたことを自由に書く、というだけではいけないんですね。
■そうだね。感じたり考えたりすることは自由でも、それを他人に分かりやすく伝える方法は、限られていると言った方がいいかもしれないね。
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他人のために書く |
文章は自己表現のために書くのではなくて、他人が読んで分かりやすいように書くべきなんだ。そのためには、ある程度共通なパターンにあてはめなくてはいけない面も出てくる。
●そういう点では、小論文も他の科目と同じなんですね。
小論文は会話の方法である
■小論文は、ある意味で他人とおしゃべりをする方法といってもいい。あるサークルの中に入って、自分の意見を言って、おしゃべりをするにはその場のルールに従わなくてはならないだろう? まず、今そのサークルで使われている言葉を知っていなくてはね。術語とか話題とか、知っていないと話ができない。みんながもう分かっている問題だったら「そんなの知っているよ」と馬鹿にされるし、逆に全く知らない問題だったら全然理解されないかもしれない。サークルのみんなが程良く興味を持ってくれる問題であることが必要なんだ。
●それってけっこう難しいですね。トレンドを知っていなければファッションの話ができないのと同じですね。
古さと新しさのブレンド
■そうなんだ。原理は全く同じなんだよ。だから基礎的な情報は知っていなくてはいけない。そのサークルの中での常識はもちろん知っているべきだし、でもそれだけでは自分の話に興味を持ってもらえない。何か新しいことを言わないと…
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基礎情報と新情報のブレンド |
●古いおなじみの話に、ちょっぴり新しい話題をブレンドして…
■そういう感じだね。そのブレンドの仕方が難しい。とくに、そのおなじみの部分をどう確認するかが厄介なんだ。
●短文テーマ型なら、示されている問題に対応することですね。
■課題文読解型なら、出題されている課題文を理解していることをしっかり採点者に示す。
●資料分析型なら、データを正確かつ簡潔に文章に移し替える。
■そうそう。そのようにして採点者との共通部分、つまりコミュニケーションできる部分を最初に作ることが大切だ。
●その次は?
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個性は隙間を探す
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■そうして共有部分ができあがってから、自分の個性を主張する部分に入るんだ。疑問・矛盾・補足・修正など、ずれたり変化したりする内容を探す。それがキミの個性発揮の部分だね。
●個性って思ったままを素直に表現すればいいって思ってきたんですけど、けっこう難しいもんですね。
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個性は自分を強力に主張することではない |
■個性っていうと、つい自分を強硬に主張すればいいって考えがちだけど、大間違いだね。個性の主張っていうのは、いわば隙間産業なんだ。今まで誰も言っていなかったことを見つけて、そこを強調する。逆に自分にとってどんなに大切なことであっても、それが常識にすぎなかったり、みんな知っていることだったら価値はないんだ。
●えー、そうなんですか?
常識・通説は書かない
■たとえば、私はこの頃しみじみ友情って大切だなと実感するんだけど、それをそのまま文章に書いても誰も面白がらない。「友情は大切だ」なんて書いたって、何の新しさもないからね。だから書けない。
●自分にとってどんな大切なことでも?
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他人と関係した新しい主張を |
■そうだよ。極端なことを言うと、平凡なことは書いても仕方ないんだ。商品価値がないと言ってもいい。なるべくなら他人が言っていないことを書く。だけど、全く他人に理解されないんじゃしようがない。だから、どこかで他人の意見と関係していること。そういう微妙な関係を作らないと、他人は興味を持ってくれない。
●なんだかビミョーっすね。
■個性の表現なんて、もともと簡単なもんじゃないよ。たとえば学術論文だと、自分の専門としていることについては、世界中で出ている論文を読んでおかなくてはならない。自分が書くときには、そのどれとも違っていることを主張しなければならない。 もし他の人がもうどこかで主張していることを知らないで書くと、泥棒として学会から追放されてしまう。「気がつかなかった」なんて後から言っても、言い訳にならない。
●こわーい…
■私も怖い。論文書くときは、ちゃんと人の主張を読んどかないと、社会的に抹殺されちゃうんだからね。
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思考の枠組みで個性を出す
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●ところで先週、課題文型の問題なのに資料分析型と同じ扱いをした問題がありましたよね。その時、先生はこの方法は応用範囲が広いって言ってましたけど、随筆や小説、詩以外にも適用できるんですか?
■もちろん! イメージやディテールばかりで、抽象的なまとめがないものだったら、何でも使える。。たとえば記録文とかルポルタージュなど事実しか書いていない文章。あるいは絵、漫画、写真など、課題が文章でない場合も使える。
●そこをもうちょっと説明してください。
■これらのタイプの課題は、その意味していることが分かりづらいだろう? だから、まず課題の特徴を記述した後に、そのようになっている原因やメカニズムを書く。 たとえば前回の漫画の場合「言葉が貧しい」という特徴は漫画から読みとれるけど、それが「家庭での役割の固定化」に原因するというのは、私独自の解釈の結果だね。
●別な解釈も出来るんですか?
■もしかしたら「男女差別」とか「人間疎外」とか、別な枠組みを使って解釈することもできる。
●そうなると全然文章が変わってきますね。
■そのとおり。どんな枠組みを使うか、という中にキミの個性が表れるとも言えるね。
得意技を作る
●それって、相撲の得意技みたいな感じですね。
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広く応用できる方法を持つ |
■そうだね。何でも自分の得意技に引っ張り込んで処理してしまうといいんだ。そういうふうにある程度広く応用できる論理を一つ知っているといいね。私は元々社会学科の出身だから、ついつい有名な社会学者のマックス・ウェーバーやデュルケームの理論を使っちゃうね。
●そういえば、ある先生は「とにかく日本国憲法や基本的人権と関連づけて論ずればいい」なんて言ってましたけど…
■その人はきっと法学部の出身だよ。でも基本的人権はたしかに大切だけど、それだけで処理しようっていうのは、虫が良すぎる感じもするね。人権や憲法が成立する背景には、歴史的・社会的経緯があるんだから「憲法に書いてあるから大切だ」という論理だけじゃ安易すぎる。
●やっぱり。
■憲法の概念を使うなら、せめて政治学者の小室直樹さん(私のかつての恩師のひとり)の「痛快! 憲法学」ぐらい読んで憲法の構造を知ってから、使ってほしいな。 人権とか統治がどういう風に成立してきたか、どんな思想的背景があるか、よく分かるよ。
●ふーん、ちょっと読んでみようかな。
■あと、心理学者の岸田秀「ものぐさ精神分析」なんかも、フロイト理論を上手く使って、社会や歴史を説明しているね。そういう本を参考にしてみたら、発想が広がるかもしれないね。
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今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!
A 短文テーマ型は根拠を大切に 課題文読解型は要約から始める 資料読解型は解釈に凝る
B 題名型は定義から出発する 厳密な常識・定義は通説を超える
C 個性の出し方=まず解法パターンを覚える 個性は隙間から生まれる 思考の枠組みで個性を出そう⇒得意技を作る
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