10-C 追及は評価される
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a 追及は続く、どこまでも?
b 時には妥協も有効だ
c 社会背景から新鮮な解決を
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追及は続く、どこまでも?
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●わーお、いよいよ最後、オーラスですね。
■そしていよいよ最も難しい場合である。
●脅かさないで下さいよ。ところで質問があるんですが…
■何だろう?
●予想される反対意見にたいして反論をする、ということは分かりましたが、前のsectionではそれに対してまた反対意見を出していましたよね。
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反対が反対を呼ぶ? |
■そう。反対意見⇒反論⇒再反対意見⇒再反論⇒再々反対意見⇒再々反論…というわけだね。
●それならまたそれに対して賛成派から再々々反対意見が出ませんか?
■出るかもしれないね。
●そしたらまた再々々反論になって、永遠に終わらないような気がしますけど。
決定的な結論より思考力
■理論的にはそうだね。でも小論文の目的は別に決定的な結論を出すことじゃないんだ。君たちが学校でやっていくために必要な論理能力と、表現力、読解力を持っているかどうかを試すためのものだ。だからその資質をキミが示せばそれでいいんだ。
実際800-1000字くらいで原発問題に決着を付けられるはずがない。今でも世間で意見が分かれている問題なんだよ。だれもキミに原発の救世主を期待してはいないよ。
●じゃ途中でやめていいんですか?
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追及したという印象を与える |
■もちろんだよ。再反論ぐらいまでやれば十分じゃないの? 読む人はねばり強く追求したな、ときっと思ってくれるよ。ディベートだって、互いに反論を二回ほど出し合ったら、後は観客が「どっちが勝ったか」を判定してくれるシステムになっているだろう。
●ああ、よかった。永遠にやらなくてすむんですね。
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時には妥協も有効だ
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■それより、Answerの最後の所をもう一度見てみよう。
また社会全体で省エネルギーすれば、多少発電の効率が悪くても消費量をまかなうことができる。
この第二番目の否定の特徴は、「多少発電の効率が悪くても」と反対意見の一部を認めているところにある。相手の反対意見は全部否定するばかりが能ではないんだ。
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反対意見の一部を認めて妥協する |
すこしは反対意見の内容を認めて妥協する。そのうえでもっとよい方法がある、と提案するのが上手なやり方だ。その方が客観的な感じを与えることができる。つまり相手と自分の中間をとる、という感じだね。
相手に妥協⇒よりよい提案
●高級な戦略ですね。
相手の意見を認めてあげる
■一般にグループや個人間で利害が違っている状況では、意見が割れやすいね。10年ほど前に新潟で小論文の講座を受け持っていた時、環境と開発についての問題を出した。そしたら環境に多少影響があっても開発を優先すべきだ、という意見が圧倒的に多くて、びっくりしたことがある。
●本当ですか?
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もっともな反対意見は、全面否定しない |
■「僕らの村では就職口がないので、ゴルフ場ができて働けるようになって良かった。ゴルフ場建設に反対するのは、地方の経済状況を知らない都会人のエゴイズムにすぎない。自然を守るより人間を守るべきだ。」というんだね。
●うーん、一理ありますね。こういう例は他にもありそうですね。
■アフリカのケニアでも、サバンナの動物を保護するために、マサイ族が住んでいた土地を追い出される、などという事態が起こっている。自然保護を主張すると、人間よりライオンが大切なのか、と反対されるわけだね。こういう場合は、ある程度相手の意見を認めないと、かえって変だろう。
性別で対立する場合
●性別などで利害が分かれる場合もありますね。セクシャル・ハラスメントの問題なんかはどうですか?
■それも面白いね。セクハラの問題はだいたい男の側では「気にしすぎだよ。」とか「女の方が挑発しているんだ。」とかいう意見が多いね。
●実際に被害を受けても、女の方が悪いみたいな言い方をされる。「ちょっと派手だったから…」なんて。もう腹立っちゃうな! これは絶対に妥協したくないな。
■でもこういう意見はどうだろう? ある学者が書いた意見の要約だけど。
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セクハラは男性にだけ酷である? |
たとえば独身の上司が部下の女性に恋愛し求婚したとする。しかし女性は迷惑に思ってきっぱりと断る。しかし彼はあきらめず求愛し続ける。困った女性は友達と相談してセクハラだと訴えたため、彼は解雇される。
しかし求愛はおうおうにして泥沼化するものだ。どこから恋愛でどこからセクハラか、線を引くのは難しい。上の例のような場合をセクハラだと認定する趨勢が一般化すれば、上司の男性からは部下の女性にアプローチできないことになる。恋愛は常に部下の女性からしかできない。これは不平等ではないか。
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●職場は仕事する所なんだから、恋愛しなきゃいいんじゃないですか。
■でも、その人はこうも書いている。「職場というものは、それなりに安定した恋愛や結婚の相手との遭遇の場」であると。
●確かに職場結婚とか多いらしいですね。うちの父と母もそうだったみたい。母がたまたま父のことを好きだったからよかったようなものの、そうじゃなかったらセクハラになったのかな?
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社会背景から新鮮な解決を
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■こういう場合は、ほとんど「結論はこれだ。」なんて確定的な解決をすることはできないと思っていい。どちらの意見だって、それなりの根拠がある場合が多い。
●それじゃ、どうしたらいいんですか?
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対立を乗り越えて、新しい視点を! |
■こういう場合の効果的な解決の一つは、対立の社会的背景を考えて、新しい視点を導入することだ。そうすると不毛な対立を避けて、自分なりの解決のアイディアを出すことができる。
●どうするんです?
■たとえば上のセクハラの例では、男女の間にある種の不平等が成り立っていることに気がついたかな? 男が上司で女が部下。当然男の側に権力がある。
●だから男の方が無理強いしやすい。
■それがセクハラだね。でも女の上司と男の部下だったら、セクハラになるかな?
●理屈としてはなるはずなんだけど、感覚的にはセクハラって言うには抵抗あるなあ。なんでだろう?
男女の非対称性
■つまりここから分かることは、男―女という関係はどうも非対称的だ、ということだ。つまり男と女を取り替えても、同じ結果にならない。ここには何か不平等がある。
●確かにそうですね。でもそれは何だろう?
■その問題を考えるのは面白いね。セクハラをどう取り締まるか、どう評価するかという前に、性についての正確な認識が必要なはずだ。そこで男女の非対称性に気づくのは重要なことだね。
●でもそれだけじゃあ、ただ考えているだけで、実際に起こっているセクハラ問題をどう解決するか、ということには直接役立ちませんよね。
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具体的解決より新鮮で不快アイデアを見せる |
■その通り。でもキミは裁判官でも警察官でもない。学校が書かせる小論文で、そういう細かい具体策まで論じることは必要ない。
学校側が見たいのはあくまで思考力、論理力、表現力なんだからね。もし心配なら、最後の所で今までの視点から、セクハラがどう扱われるべきか、その方向を大雑把に示すだけでも十分だ。
男女は平等であるべきだ、という論点だけではセクハラ問題を解決するには十分でない。性意識が非対称である現実を考慮に入れる必要がある。
なんてね。何か新しい意見を言われた気がするだろう。
●確かにちょっと目先が変わった感じがします。
■そういう自分独自の思考内容を見せることが大切なんだ。独自性がちょっとでもあれば、ぐっと評価が異なってくるよ。
●うーん、いずれにしろ、よく考えなくてはならないですね。
矛盾した社会関係の調整
■さらに深く考えると、仕事場の男女の間には、二つの違った社会関係が含まれている。一つは上司―部下あるいは仕事仲間という関係、もう一つは男―女という性を通した関係。
●でも女の方はそういう関係を望んでいないんですよ。
■でも男の方は、たいていそういう風に女を見ている。つまりもっぱら性である存在として。「きれいだ」とか「かわいい」というのは、そういう性的魅力だね。つまり職場という仕事の関係の中でも、女の人は仕事の仲間としてより、性的存在として見られているんだね。
●反対に、女性が職場の男を見てすてきだと思うのも、性的存在として見ていることになりますね。
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セクハラは複数の人間関係の調整の失敗か? |
■そうだね。つまりここには二つの全然違う関係が、並列して出てきている。仕事の関係を望む女性と、性的関係を望む男性、あるいはその逆に、性的関係を望む女性と、仕事の関係を望む男性。
職場は建前としては仕事の場だけど、様々な人間が集まっている場だから、仕事以外の恋愛や性という要素もどうしても出てこざるを得ない。これを否定してばかりはいられない。でもそれらの調整は難しい。その失敗が、セクハラという形で出てきているとも言えるかもね。
●人間関係の調整のスキルが下手なことが原因かな。思いこみだけで突っ走っちゃったり、TPOを判断できなかったり…
■あるいは、会社は仕事の関係を優先させる場所なのに、経営陣が女性を「職場の花」として位置づけているとか。
●それってすごい状況ですね。じゃあ日本の会社では、女の人は、職場でも仕事より性的役割を期待されているわけですか?
■あの子は笑顔がいい、とか言われたりして。
●バリバリ仕事しようと思って会社に入ったら、がっかりですね。
■仕事をする存在としてだけ見られたい、と思っているのに心外だろうね。
●うーん、社会背景を考えると、いろいろ広がりますね。
■そういう風に、物事をより広い問題意識の中でとらえられる能力は、明らかに評価されるね。問題を考えるために、新しい視点を提供したのだから。
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今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながら、もう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。
納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!
A
意見が分かれる問題⇒反対意見を先取りする
反対意見には必ず反論する
B
まず相手の根拠を整理しておく
反論は相手の根拠を批判する=ディベートと同じ方法
C
永遠に追及するわけではない
時には相手の意見を部分的に認める
対立の社会的背景を考える⇒別な視点を提供する
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