10-B 反論の仕方
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a 反対意見の根拠の整理 b ディベートのような方法 c 根拠の欠点を批判する
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反対意見の根拠の整理
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●結論が割れることが予想される場合は、予想すべき反論を最初に書いておいて、あらかじめ反対意見に答えておけばいいんですね。
■もちろん、前節のように冒頭に持ってこなくたっていいんだよ。通常はまず自分の意見を書いて、それから予想される反対意見を書いて、それに反論するという順番でいいんだ。
●つまり
問題⇒解決⇒根拠⇒反対意見⇒反論
という風になるわけですね。
■ちょっと簡単な例題でやってみよう。第一週の原子力発電所建設の問題を覚えているかい?
●ええ、「原発をこれ以上作るべきか?」という問題でしたよね。
■あれも「意見が分かれる」問題の典型例だ。
●そうなんですか? そんなの反対に決まっているじゃないですか。
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反対意見にも、それなりのの根拠がある |
■でも原子力発電が必要だという説も根強いよ。だいたいキミは最初は原発建設賛成派だったじゃないか。
●それは、原発の危険についてちゃんと知らなかったからですよ。今の私には正確な知識があります。放射能浴びたらDNAがズタズタになるんです。第一週でその可能性については、十分検討しました。私は確信を持っています、原発は作ってはならない! 原発に賛成するなんて、よっぽど知識がない人ですね。
■そうでもないよ。電力会社の社長とか日本政府とか、エライ人はだいたい原発の味方だね。
●えー、何それ。許せなーい。
反対意見の根拠
■だって日本には石油資源がないんだよ。火力発電をしようにも、戦争や何かの影響で輸入が止まっちゃったら、すぐ発電不能になって、電気が止まってしまう。これは日本経済に大損害を与えるよね。それに火力発電をすると、石油を燃やすからCO2が増えて、地球温暖化につながってしまう。 ところが原子力発電では、使用済みの燃料も再利用できるから、資源がないと言って騒ぐ必要はない。しかもC02の排出量も格段に少ない。燃料としては最高の条件を満たしていると思わないか? だから日本には原発が必要なんだ。
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原発の利点 |
●うーん、困った人たちですねえ。
■向こうはきっとキミの方を困った人だと思っているよ、こんな簡単な理屈も分からないんじゃ
●失礼しちゃいますね。
■ここで、原発賛成派の主張を、例題の形で簡単にまとめてみよう。
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■原発賛成派の主張とその理由を簡潔にまとめよ。 |
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■これは、まず主張、そしてそれをサポートする理由という順番にすると、わかりやすいね。
●こんなの簡単ですよ。敵の手口はもう筒抜けですからね。それでは解答!
一方、原子力発電所の建設は必要だという意見も根強い。なぜなら日本は石油などの資源に乏しく、原子力以外に現在の産業社会に必要なエネルギーを確保する方法がないからだ。また原子力発電は環境への影響も少なく、クリーンなエネルギーといえる。環境汚染を避けるためにも原発は必要だ。
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■ここでは理由を二点あげているけれど、もちろんもっと増やすこともできるね。上の二文目と三文目の間に、
現在貿易は安定し石油は安定的に供給されているが、戦争などで輸入が止まる恐れもある。また石油資源の埋蔵量には限りがあり、将来にわたってエネルギー源とするわけにはいかない。
などと挿入することもできる。賛成派の根拠はこんなものかな?
●そうですね。 論
点の整理―原発反対論
■さて、君の意見を聞こうか。
●よーし、聞いて驚くな。私の知識がどれほどのものか、見せてやるー。
原子力発電所の建設は停止するべきだ。なぜなら事故があった場合、健康、環境、経済などに大きな悪影響を及ぼすからだ。放射線を人体に浴びると、細胞の中のDNA が破壊され、甲状腺ガンや白血病の発病率が増加すると言われている。しかも放射線は長期間にわたり、残存する。プルトニウム239の半減期間は24,000年である。現在のところいったんもれると、密閉するほか除去の技術がない。汚染された地域には長期間にわたり、人間が近づけなくなる可能性も高く、経済的損失も大きい。
■ふむ、なかなかよく書けているね。どう構成したのか、説明してみてください。
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ポイントとサポートの順番
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●まず自分の意見を冒頭で主張しました。読む人に、早くわかりやすく自分の結論を理解してもらうためです。次にこれをサポートする理由を「なぜなら…からだ」の形で書きました。理由は三つ、まず健康被害、環境汚染、そして経済的損害です。それぞれの理由を一つ一つくわしく説明しました。
■文句ない出来だね。
●もちろん、これには例がついています。次を見てください。
実際チェルノブイリでは、ちょっとした操作のミスから原子炉が破壊されて、大量の放射線がもれた。修復工事にあたった従業員、消防士など、約30人が死亡した。また周辺30kmは大量の放射能に汚染されているので、人が住めずゴーストタウン化している。白血病などの増加も心配されている。しかもこの周辺はウクライナの穀倉地帯の中心であるので、農産物への汚染が大きな問題になり、経済にも壊滅的影響を及ぼした。このような被害に対する有効な対策はまだ見いだされていない。 この現状をみると、原子力発電所は危険が多すぎると判断せざるを得ない。
■うーん、細かいところまでよく調べて整理してある。圧巻だね。
●よかったー、やっとほめてもらえたよー。
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ディベートのような方法
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■でもこれだけ熱心にやっても、やっぱり「多少危険かもしれないけど、日本にエネルギーがなくなったら困るだろう」という反対意見は否定できないだろ?
●迫力で押し切れませんか?
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方法は直接的批判のみ
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■無理だね。こういう状態が予想される場合は、方法は一つしかない。反対意見をあえて書く。それに対して反論を試みる。相手の立論を批判して、完膚無きまでに叩きのめす。相手が間違っていることが分かれば、自動的に自分の主張が正しいことになる。
●すごい、プロレスみたいですね。
■アメリカの大統領の予備選挙の放送を見たことがあるかな? 相手の出した論点に対して、反対意見を出して、それに対してさらにに相手が反論をして、それに対して相手がさらに反論をして…と果てしなくやっている。これをディべートと言う。予想される反対意見と反論のコーナーは、このディベートを一人でやるようなものだね。
●ディベートって、高校でやったことがあります。4-5人で組になって、二組に分かれて。でもあんまり面白くなかったなー。
根拠を攻撃する
■ちゃんと相手の根拠を攻撃していないと、そうなりがちだね。反対意見を予想される場合は、必ずその根拠を書く。その論拠を崩すのが、反論のコツだね。
●根拠って、解決が成り立つための保証のようなものでしたよね。
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根拠をつぶして、相手を否定する
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■理由と例示・データ、それに対比や引用なんてものも根拠になるよね。相手方の根拠を崩してしまえば、その解決(主張)が成立する保証が無くなるわけだから、その解決が間違いだと証明できたことになる。
●じゃあ反対意見に対する反論は、相手の根拠つぶしになるんですか?
■そのとおり。だから反対意見を書いたら、すぐその根拠、とくにその理由を書く。つぎにそれが間違いだと示す。
反対意見⇒その根拠⇒根拠がなり立たないことを示す
という順番になるね。
●じゃ私がすべきことを整理すると、さっき書いた文章に続けて
- 1 たしかに原発に賛成する意見も多い。
2 なぜなら…からだ(理由) 3 しかしこの考えは成り立たない。なぜなら…だからだ。実際…という例がある。
というように書けばいいと言うことになりますね。
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根拠をの欠点を批判する
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■そうだね、とくに反対意見に反論する場合は、2 のところをくわしく説明する必要があるね。相手の意見の欠点を指摘するには、その理屈をきちんと整理しておかなければ、どこをどう攻撃していいか分からないだろう。
●たしかにそうですね。。
■反対意見の根拠をすべて列挙して、全部叩きつぶしておく必要があるんだ。そうじゃないと、後でまた違う反対意見が出てきてしまう。
例題をやってみよう…相手の論拠を崩す
●モグラ叩きみたい。でも、具体的にやってみましょう。そうでないとイメージがつかめないな。
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相手の根拠は全部叩きつぶす
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■まず賛成派の理由はなんだったっけ?
●1 他にエネルギー源がない、2 環境汚染が少ない、という二つでした。
■まず1 から考えようか。
しかし天然資源に変わるエネルギー源は原子力に限らない。地熱発電、風力発電、潮汐による発電など自然を利用したエネルギー源が試みられている。政府が後押しすれば原子力に頼らなくても電気を確保することができる。
なんていう反論はどうだろう?
●こういう発電法は聞いたことがあるんですが、ほんとうに実用化されているんですか?
情報や知識を援用する
■こんな新聞記事があるよ。
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ドイツでは1998年末までに300万キロワット近い風力発電機が設置され、世界最大の風車大国となっている。そのほとんどは1990年代に入って、自然エネルギーからの電気を電力会社に買い取らせることを義務づけた法律を制定した後に設置されたものだ。…一方ドイツの法律制定から約一年遅れて電力会社による余剰電力の買い取り制度を始めた日本では、風力発電の規模がようやく2万キロワットを超えたところだ。これではドイツの1/100に満たない。日本に発電に適した風がないわけではなく、この落差は明らかに日本の政策の失敗を示している。 (朝日新聞,1999.4.9)
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●ふーん、知らなかった。
■上に書いた文章に、この新聞記事を利用して実例をつけ加えることもできる。
実際ドイツでは日本の100倍以上の風力発電が行われている。日本に比べて発電に適している風が100倍あるわけではないから、十分原子力以外の発電の可能性はある。
●やったー、勝ったー。
■待て待て、まだ安心するのは早いぞ。相手はこんな文句をつけているよ。 しかし風力発電、地熱発電などは発電の効率が悪かったり、発電量が少なかったりして、代替エネルギー源としては実用的ではない。
●本当に意地悪い人たちですねー。でもこういうことは多少言えるかも。私なんだか不安になっちゃうな。 最後まで頑張る
■あきらめるな。さっきの新聞記事を利用して、上の意見に対する反論を考えてみよう。
技術の発達を加味すれば、発電効率や発電量はさらに増え、十分に実用となるだろう。むしろ代替発電が進まないのは、日本の政策が原発にこだわり、代替発電に予算が回らないからだ。原子力に使われている資金を代替発電の開発に回せば、技術の発達が期待できる。また社会全体で省エネルギーの機運が起こり、必要な電力量を減らすことも可能である。そうすれば多少効率が悪くても、社会全体の消費量をまかなうことができる。
●やったー。これなら文句ねーだろー。でも大変な戦いでしたね。自分の意見を言うだけなのに、こんなに苦労するんですか?
■言いっぱなしじゃだれも信用しないからね。これくらいキチンとやらないと説得力は出ないものなんだよ。
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