「公務員論文試験」対応コースweek2

表現力の問題
 論文を書くときに、文章表現力は大きな要素となる。この項では、表現力を飛躍的にのばすいくつかのコツを説明しよう。
まず表現力は、日本語を操る力である。と言っても特別な才能は必要ない。言いたいことを、正確かつシンプルに書ければよい。個性は内容で出せばいいので、文体で出す必要はない。「…のようだ」などという比喩表現を好む人がいるが、論文ではやめておこう。あいまいになる危険があるからだ。文章が得意だと思っている人に限って、論文はうまく書けないことが多い。

表現力=個性的文体でなくてよい、個性は内容で出す

段落の基本の組み立て方  明確な文章を書くには、段落の組み立て方がとくに大切だ。原則はポイント・ファースト。つまり、一番言いたいことを、段落の最初に置く。その後に、最初の文をくわしくわかりやすく具体的に言い換えた文を付け加える。読み手としては、なるべくはやく筆者の言いたいことを知った方が読みやすいからだ。つまり
ポイント 言いたいことのまとめ
サポート 理由、説明、実例、対比、引用など、ポイントを支えるロジックとデータ

という順番である。
 たとえば、原子力発電所の発電の是非という問題に対しては、次のような構成が考えられる。このように分けると、読者はまず全体像を思い浮かべ、それから細かな情報に触れていくので、理解しやすくなる。

ポイント 原子力発電所の建設はすべきではない。主張
サポート なぜなら、いったん事故が起こると危険が大きいからだ。理由
人間が放射能を浴びると、死亡・ガン・奇形などになる。また環境や生態系も大きな影響を受ける。さらに経済的損失も計り知れない。説明
たとえばチェルノブイリでは…実例

概論と細部の説明に分ける  しかし、これでは文章の全体が一段落になってしまう。主張と理由、説明だけでも三文になって一つの段落の長さとしては十分なので、実例の所だけを第二段落として独立させた方がよいだろう。第一段落と同じように第二段落をポイントとサポートに分けると、次のような構成になる。

ポイント たとえば、1987年のチェルノブイリ原発の事故では、職員の操作ミスから大きな事故に発展した。概論
サポート 原子炉のテストの処理を誤ったために、原子炉が爆発し、周囲に核物質が散乱したのだ。その回収には軍が動員されたが、その中から200人以上の白血病患者が発生し、30人以上が死亡した。(人的被害)一方、周囲は30平方kmにわたり、立入禁止となり、家畜など動物・植物にも奇形が続出した。(環境への影響)さらに放射線を含んだ灰は爆発によって舞い上がり、折からの風に運ばれてフィンランドに達し、放牧されたトナカイ二万頭の上に降り注いだという。フィンランド政府は汚染されたトナカイを射殺して地中に埋めたが、その費用は日本円で10億円を超したという。(経済的損害) 細部の説明

 これも第一文のポイントが、実例全体のおおざっぱなまとめになっており、サポートの部分がそのくわしい説明になっている。つまり

概論⇒細部の説明

という順番になっているのだ。

ポイント=概論、サポート=細部の説明

論と例の一致  しかも、この細部の説明では

人的被害⇒環境への影響⇒経済的損害

の順番で説明されていて、この順番は第一段落における説明の順番と同じである。このように、実例の叙述の順序はその前にある理論的な説明と順序を同じにしなければならない。これを「論と例の一致」と呼び、分かりやすい文章を書くためには必ずと言っていいほど守らねばならない。

実例の順番は、論理的説明の順番と一致させる

 しかし実際には、この順序では書きにくいことが多い。人間が文章を書くときは、まずイメージから浮かび、抽象的なロジックは後から出てくる場合が多いからである。したがって、実例を書くときは、まずざっと下書きを書いて全体像をつかんでから、それを抽象的にまとめて書く方が書きやすい。つまり段落の最後に書いてある文を、一番前に置くとすっきりまとめられることが多い。

その他の表現上の注意  最後に、ポイント・サポート以外の表現上の注意について列挙しておこう。これらの注意を守れば、客観的で論文的な文章を書くことができる。逆にこれらを守らないと、感想文やエッセイなど主観的な文体になりやすいので注意する。

1 「私は…思う(考える)」は不必要
2 「…ではないだろうか」などの修辞疑問文は使わない
3 「…というもの」という表現は避ける
4 「正義」など、強調としてのカギカッコは使わない
5 「とても」「非常に」などの強調語は効果が薄い
6 「だ・である」調の断定表現を基本に書く
7 段落に分ける。目安は800字で3〜4段落、1200字で4〜6段落くらい。


論文試験の代表的書き方  以上のような原則を元に、公務員論文試験の代表的な答案構成を考えると、次のようになる。

1 題名を定義する=深く考察する
2 そこにある問題(疑問・対立・矛盾)を指摘する
3 その問題の解決(自分の意見・主張)を提示する
4 根拠(理由・説明・実例)を提示する
5 反対意見に触れ、それを批判する
6 自分の主張を再度提示する


定義から問題提起へ  1は問題提起をするまでの序論の部分である。題名型の設問では、問題が「…かどうか」という選択や対立のハッキリした形で書いていないので、そういう形に再構成しなければならない。そのような形に持ってくるには、出された題名を根本的に考察して、そこに潜む疑問・対立・矛盾を見つけだす必要がある。それが「定義」の部分である。「定義」とは、その言葉の本質的意味である。定義しようとする中で、そのような問題に出会う確率は大きい。

言葉の定義を通して、疑問・対立・矛盾を見つけだす

 たとえば「地方自治」という言葉では、「住民自治」と「団体自治」がその本来の主旨である。(「頻出テーマのまとめ方」p120参照)ところが、実際には中央政府の権限が強大すぎて、地方政府には決定権が少ない。つまり団体自治が実現されず、そのために住民が自分の生活環境を自己決定できず、「地方自治」の本来の趣旨に反する、これは変えなくてはならないなどと考えを進めることができる。したがって、題名が出されたときに、その言葉の本来の意味を考えることは、問題を見つけだすための重要な手がかりになる。

反対意見とその批判  5は、特に意見の対立が見られる問題については書いた方がよい。たとえば、前述した原子力発電所の建設についての文章では、ただ反対の意見を述べ、根拠を出せばよいのではない。その後に、相手の意見を採り上げ、それを批判することを通じて、自分の意見の正しさを確認する必要がある。たとえば

反対意見の取り上げ たしかに、原発が必要だという主張も根強い。日本はエネルギー資源が乏しく輸入に頼っているので、国際的な紛争の場合には大きな影響を受ける。エネルギーを安定的に供給するには原発のような自前のエネルギー源が不可欠だというのだ。
それに対する批判 しかし、代替エネルギーは原子力に限らない。最近では風力発電や太陽発電の効率も増してきており、デンマークなどでは全発電量の40%が風力発電によっている。日本でそれほど進んでいないのは、原子力に頼って他の発電法を省みないためであり、技術革新が進めば原子力に取って代わる可能性は大きい。原子力発電でなければ、エネルギーを安定的に供給できないという訳ではない。環境や人間に与える危険を考えれば、原発よりむしろこれらのエネルギー源を開発すべきだろう。

 このように反対意見を取り上げてそれを批判することで、自分の意見・主張の正しさは増してくる。政治や行政に関わる問題は、するどく意見が対立している場合が多い。時間とスペースが許す限り、反対意見を取り上げ、それを検討して批判するという方法を採りたい。

結論の書き方  6は結論である。よく結論をどう書いていいのかと悩む人がいるが、原則は「新しい内容を書かず、前に述べた内容の表現を変えて繰り返す」である。たとえば、原発についての文章では、「批判」の最後の文が「結論」になっている。「環境や人間に与える危険を考えれば、原発よりむしろこれらのエネルギー源を開発すべきだろう」は、原発に反対という意見の再度の確認であり、どこも変わっていない。ただ、そこに「代替エネルギー」という視点が加わっているだけである。これも、前で触れてある話題である。

結論=前に述べた内容を、表現を変えて繰り返す


▼part1 のText
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