9-B 題名型の問題の衝撃


a  題名型にどう対処するか
b  定義から出発する
c  常識・通念からの飛躍


題名型にどう対処するか?


ところで、この間慶応大学医学部の問題を見たのですけど…

キミの志望校の一つだったよね。

進路についてはいろいろ迷っているんですけどね、世のため人のため働くのもいいかな、なんて思って。

エライね。

で、過去問を見てみたんですけど、思わずのけぞっちゃいましたよ。「神性と獣性」について書けって言うんです。何ですか、これ? 「神性と獣性」なんて全然意味が分からない! それに題名だけ。手抜き問題じゃないですか?

題名型は少ないけれども… いや、別に手抜きではないんだよ。これは「題名型」とか「一行問題」ってタイプの問題で、かつてはよく出題されたんだ。今は大学受験では少なくなっているけどね。
 でも公務員採用試験なんかで「論文試験」というのがあるけれど、だいたいこのスタイルだね。京都市なんかでは「権限と責任」なんて問題があったね。

「権限と責任」ですって? わけわかんねー…

君たちが大学に入ってレポートを書かせられるときはだいたいこのタイプが多いね。「近世における政治思想の特徴を述べよ」なんてね。

解法の探求

こういう場合はどうしたらいいのですか? 今までのどのタイプとも違う感じがするんですけど。

そうだね。形からすると短文テーマ型に近いけれど、問題がはっきりしないね。

これは本当に何を書いていいか、どうしようもなくて…あー、私の医者への夢は消えたなって思いました。

それほど嘆くこともないよ。ちゃんと対処の方法はあるんだから。

ホントですか?

題名型は定義から出発する こういう問題はね、まず定義や知識から出発するといいね。大学のレポートなんかでは、よくこの形式で出される。「近世における政治思想の特徴を述べよ」なんて典型的だけど、こういう形式は習った知識をきちんと理解しているかどうかを試すテスト方法なんだ。
 だから、まず「近世」とはいつ頃かという時代区分からはじめて、そこに含まれる政治思想の特徴を一言二言述べて、それから実例を挙げて詳細に述べる、なんてやり方があるよね。

でもそれって「神性と獣性」なんて問題にどう応用できるんです? 「神性と獣性」なんて、どんな教科でも習った覚えありませんよ。あっ、獣性は生物かな? でも神性は?

 定義から出発する


そういう場合は、この言葉はどんな意味を持っているか、を考えたらどうだろう? 「神性」は神が持っているような性質、とうぜんすばらしいとか尊いとか善であるとか、それから連想される特徴が出てくるよね。
 反対に「獣性」は野獣が持っている性質という意味だろうけど、残虐さとか闘争とか欲望のままに生きるとか、これまた特徴があるよね。

ふむふむ、それを第一段落で書くわけですか?

それが一番無難だろうね。「神性とは〜という意味である。そこには〜という性質が含意されている。それに対して獣性とは〜という意味である。とうぜん〜という性質もその中には含まれる」なんてね。

その後はどうなるんですか?

やけに真剣だね。

そりゃ受かるか受からないかの瀬戸際ですから。

定義から矛盾・疑問の発見へ

その後は、そこに含まれる問題点の指摘ということになる。それから解決、根拠といういつもの一連の流れに持っていく。

ちょ、ちょっと待ってください。そこですよ、どういう風に問題を見つけるんですか?

今までと同じように、矛盾や疑問を見つければいい。

えー、どこに矛盾や疑問があるんですか?

キミはクリスチャンかい?

いいえ、仏教徒…でもないか。お寺に行くのはお盆の時だけだものね。とりあえず無宗教です。

それならキミは神の存在を信じてはいない?

ええ。

神性・獣性は人間の性質である そしたら「神性」なんて言ったって、神様が持っているような性格ではなくて、人間が考えたものにすぎない、つまり人間がすばらしいとか尊いとか思う観念にすぎないよね。

ええ、そうだと思いますけど…

じゃあ「獣性」はどうだろう? 残虐さや欲望のままとか悪いイメージがあるけど、これも人間にとって悪いということにしかすぎないだろう。
 だいたい獣は残虐だというけど、オオカミなんかは絶対仲間うちで殺し合いをしないらしい。互いに殺し合う人間の方がずっと残虐だと思わないかい?

そりゃそうですね。

根本的に考えると疑問が出てくる

それに「欲望のままに」行動すると言ったって、ライオンはお腹がすけば狩りをするのであって、殺すためだけの殺しはしない。「人を殺したかった」なんて言っている人間の殺人犯の方がずっと残酷だ。

食欲が動機なら、食べるのに必要な分だけしかとらないでしょうし、無差別殺人なんかないですよね。

ヒトラーなんか計画的にユダヤ人を殺したんだよ。つまり理性を持って殺人をした方がずっと残酷なんだ。「神性」とか「獣性」とか言うけれど、結局の所は、人間の持っている性質の反映にすぎない。よい性質を「神性」と言い、悪い性質を「獣性」と言っているだけだ。

確かに。

自己の性質は他者に反映する?

それなのに、なぜ人間は自分の持っている性質を、神や動物など他の性質として感じちゃうのだろう?

なるほど…確かに一つの疑問になっちゃいましたね。

何でもそうだけど、根本的に考えるといろいろ矛盾が出てくるモノだよ。後はこの疑問に対して…

分かりました。解決を出して、根拠を書いて、というわけですね。

常識・通念からの飛躍


こういう対比型の問題の場合は、とくに二つの言葉が反対語のようでいながら、実は同じ物の二つの側面である、という場合が多い。「神性」とか「獣性」とか言っても、けっきょくは人間の二つの側面にすぎないんだ。

この結論は、世間一般の考えとはちょっとかけ離れてますね。

通念から離れるのがコツ

そこも重要なところだ。定義に戻って考えると、だいたいは社会通念と違うことになっちゃう。そういうときに通念から離れてどこまで徹底的に追及できるかが、この場合のポイントだね。それはキミの論理力を採点者にアピールするいい機会だ。
 たとえば頻出設問だけど「理想と現実」なんて場合でも、よくよく考えると必ずしも理想がよいこととは限らないと思うよ。

え、何でですか?

それはこの節のExerciseで考えてみよう。





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