8-C 問題提起、解決、提案へ
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a 全体像は省略から b ストーリー化から問題提起へ c 課題文の文体をまねない
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全体像は省略から
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●具体的だからわかりやすいというばかりではないんですね。
■そうだね。グラフや表と同じで、文章でも情報がありすぎると、全体像が見えなくなっしまうんだ。前にも言ったけど「木を見て森を見ず」という状態になってしまう。 とくに小論文は字数制限があってスペースが少ないので、いくつもの論点に触れることが出来ない。だから最初にかなり情報を整理し、全体像を捕まえなければ、書ききれないんだ。
●基本的に問題は一つしか扱えないんでしたよね。
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論点を一つに! |
■いくつも問題を扱ってしまうと、結局、それぞれへの突っ込みが浅くなってしまう。なるべく問題はひとつに絞った方がいいんだ。そのためには、できるだけ簡単なストーリーとして読みとる必要がある。そうすると後の論の展開が楽になる。
●でも大切なところを省略するわけにはいかない。
■もちろん。
●そうすると読みとりの部分がすごく重要になってきますね?
■だから一応文章がどう読みとれるか、それを最初に書いてみた方がいいんだ。それが後の方向を決めるんだからね。
●その後は問題点を見つけて、その解決を考える…
■前の問題でやってみよう。
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ストーリー化から問題提起へ
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■最初の段落を整理して、すこし言葉を補うと以下のようになる。
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仕事に自己実現を求める若者が増えている。常識的なコースを外れても、自分の好きなことを追求したいというのだ。しかし自己実現はすぐには実現せず、しだいに彼らは目標を見失って焦り出す。
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●なるほど、単語が抽象的になったせいか、ずいぶん感じが違いますね。論文ぽいというか、エラソーというか。でも、この後はどうしたらいいんですか?
■とりあえずこの中で出てきたキーワード「仕事」「自己実現」「目標」などの言葉をもう少し考えてみようか。「仕事」とは本来どういう活動か。「自己実現」というが、実現すべき「自己」はどんなものか。「目標」はどうやって決まるか、など疑問はいっぱいあるよ。この作業は前々節のExerciseでやったよね。
●疑問や矛盾を探す、という方法ですね。
■それを考える際に参考になるのが、課題文というデータだ。実はこの問題文にはまだ先がある。
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安定したコースを嫌って、アルバイト人間としてふらふらした一生を送ろうとする者にとやかく言うつもりはない。当人がその生活に満足し、堂々と生き、決して愚痴などこぼさず、不安のかけらもなければ、つき合ってみたい相手ではないが、それはそれで見事なのだ。ところが、残念ながらというか何というか、私はまだそうしたタイプの男に出会ったことがない。よくよく観察すると、かれらは皆外れながら怯えている。人前ではどうにか虚勢を張っているが、しかし、ひとりになった途端にひたひたと押し寄せる孤独の波をかぶって顔をひきつらせ、深いため息をもらすのだ。
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どう思う、これ?
●すごく文学的・感覚的な表現ですね。「ひたひたと押し寄せる孤独の波」とか、比喩ですよね。いいなー、私こういうのにあこがれちゃうんです。
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課題文の文体をまねない
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普遍的・客観的な文体 |
■それが命取り! 素人がまねると危ないよ。この文章を書いたのは、小説家だから比喩も自由自在に使っている。しかし私たちがが書くときに、こういう文体をそのまま真似ると、だいたい「主観的すぎてへたくそ」って感じを与えてしまう。
●何でそうなっちゃうんですか?
■やっぱり修行の違いだろうね。作家は何千枚、何万枚も書いて自分独自のスタイルを見つけるんだ。主観的な表現を使っても、それなりに客観的に感じさせるテクニックも心得ている。それを経験もない僕やキミたちが、そのまま真似たってうまくいくはずがない。すっぱりあきらめて、普遍的で客観的な文体を使うべきなんだ。そうすれば少なくともちゃんと伝わるはずだよ。
矛盾と疑問
さて、ここは筆者が矛盾を示しているところだね。「それはそれで見事」と書きながら、「皆外れながら怯えている」と批判している。ここで疑問が出て来ないかい? 「見事」なのになぜ「外れながら怯えている」のか?
●確かにアルバイトでも生活はそれなりに立っているわけですから、生きていくのに問題はないはずですよね。なんで不安になっちゃうんだろう。
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疑問や矛盾の実例 |
■そう、それに答えようと考えれば、もう小論文のモードに入っている。これは前回やった複数のグラフの比較と同じ方法だ。ひとつながりの文章だけど、こんな風に相互に対照して考えてみるといい。
●ここでいう「怯え」は「生活を続ける」以外の事情があるような気がするんですが。
■それは何だろう?
●たとえばアルバイトは一生やっていられない。将来どうなるんだろうという不安とか…
■それで?
●プライドも満足しないだろうし。仮の仕事というだけでは、真剣にもなれない。
■それに、いつかはやりたいことが見つかると思ったのに、見つからないまま少しずつ年をとっていく…
●それはけっこう焦りますね。
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今週の講義のポイントをまとみてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!
A 図表問題の解法は理論化・抽象化である 象徴の意味を考える 詩や随筆の言葉を分析し、妥当な解釈を見つける
B 随筆では、具体的描写の情報整理を行う 単純なストーリーに整理する 性格や傾向は抽象語で表す
C 省略して全体像を示す 矛盾や対立から問題点を見つける 課題文の文体に影響されない
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