8-B 随筆への応用


a  考察がない文章の扱い
b  情報の整理とストーリー化
c  性格や傾向を一言で表す


考察がない文章の扱い


もちろんこの応用は、詩や小説に限らない。

随筆なんかどうですか? 随筆は


体験⇒感想⇒考察

という構造をとるって先生は言いましたけど、最後に考察がなくって、体験と感想で終わっている場合も多いと思います。それって例ばっかりの文章と考えることができませんか?

日本的な随筆?

体験⇒感想だけの文章? その通り。日本の随筆は、身辺雑記や生活記録風のスタイルを持つことが多い。そういう文章は「体験⇒感想」だけで終わりになっていて、考察の部分が書いていない。

外国では違うんですか?

欧米人には日本の随筆は評判悪いみたいね。何が書きたいのか、はっきりしないとか、飛躍が多すぎるとかいう評も聞いたことがある。それはきっと考察の部分が欠けているからだろうね。
 もちろん本当はないんじゃなくて、わざと考察を隠すように書いているんだろう。このタイプでは、考察の部分を読者の想像にゆだねる。その方が奥ゆかしい、という感じがするんだね。

考察を読者にゆだねる 私は分かりやすくハッキリ書いてあった方がいいな。

 情報の整理とストーリー化


このタイプの随筆の場合は、その抽象化・一般化をして、意味づけを考えなきゃならない。グラフと同じように、随筆も断片的な情報を示していると考え、それを簡潔なストーリーに整理してやるんだ。たとえば次の問題を見てみよう。


 世間では一流といわれている大学へ入った男が、なぜか卒業してからもアルバイトのような簡単な仕事しかせず、あるいは、わざと留年していつまでも学生の身分でいたがる。かれらは言う。「サラリーマンになるために生れてきたんじゃないからね」とか、「十年後、二十年後の先の先まではっきり見てとれるような人生なんて、考えただけでもくだらないじゃないですか」とか、「他人につべこべ言われて、犬みたいに命令に従って生きるなんて真っぴらですよ」とか、あれこれ利いたふうなことを言う。しかしまあ、一理ある。たしかにその通りだ。


これを見てこの中に出てくる「男」はどんな人だと思う?

え、この通りの人じゃないですか?

この通りとは?

だから「なぜか卒業してからもアルバイトのような簡単な仕事しかせず、あるいは、わざと留年していつまでも学生の身分でいたがる」人ですよ。

それじゃ問題文に書いてあることと変わりないじゃないか。一般化・抽象化をしなくっちゃ。

でもこれ以上どう言ったらいいんですか?

抽象化して統一する

言葉や生活の仕方は、断片的データにすぎない。それらはバラバラなイメージであって、つなぎ合わせて、一つの統一的姿を作り上げなくちゃならない。

それはそうですけど…

具体から抽象へ グラフの場合と同じで、細かな情報を整理して、わかりやすい文章に変換してやる必要がある。つまり元の文章はあまりに具体的すぎて、かえって全体の傾向が分からないんだ。

おおざっぱな傾向に書き直す必要があるんですね。

その通り。しかもこれを読む限り、こういう「男」は一人ではなく、何人もいるらしい。だからこんなタイプの人ですよ、と一般化して特徴づける必要が出てくる。

なるほど…

性格や傾向を一言で表す

言葉から傾向を読みとる


まず彼らの言葉から検討してみよう。書き並べると

「サラリーマンになるために生れてきたんじゃないですからね」
「十年後、二十年後の先の先まではっきり見てとれるような人生なんて、考えただけでもくだらないじゃないですか」
「他人につべこべ言われて、犬みたいに命令に従って生きるなんて真っぴらですよ」

サラリーマンが嫌いみたいですね。

でも世間のほとんどの仕事は、サラリーマンだよね。とするとこ

の人々は通常のコースを拒否しているわけだ。どうしてだろうか?
特に未来が予見できてしまうことと、人に命令されるのがイヤみたい。

未来は不確かな方がいいし、命令されたくないということは、何を仕事や人生に期待しているのだろう?

自分が面白いと思ったことを、だれの指示も受けずに好きにやりたいんじゃないんですか、結果とか考えずに…

表現を簡潔に!

もっと短い言葉で! 自分のやりたいことをやるとは、この頃の言葉で言えば「自己実現」ということじゃないだろうか。

あ、そうか。短い言葉で表現してやると、論文ぽくてカッコいいですね。


この人たちは、仕事や人生に自己実現を期待している。お金や地位よりも自分がいいと思ったことをやりたい、というわけだ。

実際アルバイトをすることで、この人たちはとりあえず生活が成り立っていますね。お金のことは、あまり心配していないみたい。

筆者はその意見を「一理はある。確かにその通りだ。」と認めている。なぜだろう?

やっぱり仕事でやりたいことをやれるってのはいいことですよ。嫌いな仕事をいやいややるのはイヤだもん。

するとこの文章の登場人物は、

仕事や人生に自己実現を求める人々

ということになる。これがこの文章の話題(Topic)と言うことになる。最初のキミの答えと比較してみよう。だいぶ短くなっているし、第一分かりやすいね。

確かに…ある程度抽象化した方が分かりやすくなるみたいです。

データを読みとるとは、具体的なものを抽象化することだという意味は、実感できたかな?

データはそのままでは役に立たない。必ず情報を整理して簡潔で分かりやすい文章に抽象化する。





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