7-C グラフ・図表問題のまとめ
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a データを基に提案する b 「模範答案」を批判する c 考えられる解釈の提示
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データを基に提案する
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●結局グラフ問題っていうのは、最初のグラフや図表が最後まで関わってこなきゃいけないわけですね。
■そうだよ。グラフや図表は現実に関する貴重なデータだからね、それを活用して、結論まで持ってこなきゃしょうがないよ。データと無関係な結論を出すくらいなら、グラフや図表を出題する必要はない。前節の問題なんか「地球温暖化に対する対策を書け」という一行でもいいはずだよ。
●たしかに、グラフや図表に対応して、結論も変わってこなきゃ嘘ですね。
■でも、その関連をキチンとつけられない答案が多い。君たちが書いてくる答案のほとんどがそうだし、時には教師の書いた模範答案自体が間違っていることがあるんだから。
●ホントですか?
■次の例を見てみよう。
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上記の調査結果を読んで、問いに答えよ。 問一 下記の調査結果に見られる日本の高校生の規範意識について、あなたの思うところを述べよ。 (600字以内)
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問1の「模範答案」 調査結果のほとんどの項目に対して、日本の高校生は本人の自由でよいと答えた割合が、アメリカや中国のの高校生に比べて高いことに驚きと失望を感じた。つまり、中国は、社会体制が異なるが、自由の国の象徴であるアメリカよりも日本の高校生の自由意識が高いことに驚きを感じた。 確かに、その割合が特に高い項目は「先生に反抗すること」「親に反抗すること」などで、「覚醒剤や麻薬を使うこと」に比べれば、反社会的な行為とは言えないかもしれない。他者を脅したり傷つけたりすることに、自由でよいと考えている人の割合は低い。だから、日本の高校生の規範意識について問題視する必要はないかもしれない。 しかし、高校生は十分判断能力があるわけではない。だから、先生や親の忠告を素直に受け入れるべきである。また、学校をズル休みして、生活が乱れたり、パソコンで性的動画を見て、性犯罪に走るなど犯罪の温床になる可能性がある。高校生の規範意識だけを変えることは、社会全体の規範意識を考えると困難といえよう。むしろ、親や教師つまり大人の側が強い姿勢で子供や生徒の自由を規制するべきではないかと思われる。
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模範答案を批判する
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■この「模範答案」は、ある大手予備校の講師が書いたもんだけどね。どこがおかしいか、分かるかい?
●なんだかムカツク内容ですけど、ちょっと見にはどこが間違っているか、分からないなー…でも何となくムカツクことは確かですけど。
■だからそのムカツキの原因は何か?
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データの読み方が間違っている |
●あっ、待ってください。データの読解がなんだか変です! 第一文の「ほとんどの項目で日本の高校生が『自分の自由でよい』と答えたことに、驚きと失望を感じた」というところ。「ほとんど」と全部のデータをひとくくりにするのはおかしいと思うんです。ここではアメリカと日本がすごく違うグラフと、余り違わないグラフがあるでしょう? そこのところを区別すべきだと思うんです。
■確かに「先生や親の言うことを聞く」「学校をずる休みする」の二つは、「本人の自由でよい」と答えた日本の高校生が、アメリカの三倍程度と圧倒的に多いけど「人を脅して金品をとる」「学用品などを盗む」などの項目では、ほとんど日米に違いがないよね。(図示: 色づけして示す)
●こんなに違いがあるのに、一緒くたにして考えるのはそもそも間違いですよね。
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内容の違いを考える
■この二つのグループに、内容的な違いはないかな?
●もちろんありますよ。「人を脅して金品をとる」「学用品などを盗む」は犯罪でしょう。でも「先生や親の言うことを聞く」「学校をずる休みする」は犯罪じゃない。
■じゃあ何かな?
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データの質を区別する |
●道徳かな。それとも目上の人の言うことを聞くとか。
■権威を認めるっていうか…
●それは私なんかには、けっこう難しいですね。でもそういう言い方が出来たらカッコいいですね。
■こういう単語が使えると、自分の表現力をアピールできるね。いずれにしても、グラフの読みとりが違っちゃうと、あとはいくら頑張ったってろくなできにはならないね。図表問題はまず、データの読みとりを正確にしなきゃね。そういう意味で、この「模範答案」は最初からつまづいている。
批判がデータと関係がない
●それに第一文の「驚きと失望を感じる」という表現、あまりにも主観的すぎません? 先生や学校の規則に従うかどうかに「本人の自由でいい」と考えるのがなぜいけないのか、この人はまだ何にも理由を説明してないんですよ。これって怠慢じゃありませんか?
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主観的すぎる批判 |
■たしかに「私たちは高校生であるから…」なんてお茶を濁すのは、生徒指導の先生みたいでイヤミだね。
●「人を殺してなぜいけないのか」が公然と問われている時代に「高校生だから」なんて理屈が通ると思ってるんですかね。こういう教師って、ウチの高校だったらソク殴られてますよ。
■暴力はよくないよ。
●私が殴るとは言っていません。「そういう危機感を持って模範答案を書かないと、信用されないよ! 」って言ってるんです。だいたい「私たちは高校生だから」って書けと指導するのは、言いつけをよく聞く「いい生徒」のイメージを演じろってことでしょう? 「偽善者」になれって教えてるようなもんですね。
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現実分析をしてから価値評価へ |
■まあ、それは別にしても、いいとか悪いとか価値評価を性急にしない方がいいね。グラフや表が出てくるということは実証的にアプローチを心がけてほしいと出題者がメッセージを送っていることでもあるからね。主観的な書き方は減点対象だね。まず十分に現実の分析をしてから、価値評価をしても遅くはない。
●そーかー、何かこの「模範答案」ムカツクと思ったら、こういうズルをやっているのか。私のムカツキには理由があったんですね。
■どこが悪いか分かるのは大切なことだよ。そこを直すようにすればいいんだからね。何がなんだか分からないままムカツキだけがたまっていくと、ホントに暴力沙汰になるかもね。
内容が薄い
●それに「たしかに〜しかし〜」の前半部分が長すぎませんか? 先生は「たしかに〜しかし〜」の構文は後半が大事だから、前半をあまり長く書きすぎちゃいけないって言ってましたよね。
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メッセージの比重を理解する |
■前半の内容は、後で否定されるために出すのだから、「しかし」の後ろを充実させるのが定石だね。「確かにキミの言うことはよく分かる。しかしここは我慢してほしい」なんて言う場合、前半より後半にメッセージの中心がある。前半の部分は、自分の意見を押し通すための言い訳にすぎない。
●それなのに「たしかに〜しかし〜」の前半だけで全体量の1/3を占めてるんですよ。言い訳にこんなにスペースとって、無駄です。もっと自分の主張を展開しろって言いたくなっちゃう。
■残念だけど、世の中にはこの程度の小論文の書き方しか教えていない教師もいるんだよ。
●じゃ先生はちゃんと書けるって言うんですね?
■挑発的だね。受けてたとうじゃないか。私の解答例を示してみるか。
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日本の高校生は法律を犯すことに関しては、米中と同様によくないと考えているが、教師や親など権威への服従の点では、圧倒的に本人の自由と考えているようだ。特に米国との比較では前者の差がだいたい数 %にとどまるのに対し、後者は4 倍以上の開きがある。 この違いを生み出したのは、権威に対する態度の違いであろう。アメリカでは、選挙や競争など合理的で分かりやすいルールで、権威が選ばれる。明快なルールによって認められた権威だから、ある程度服従するのは、当然だと考えられるのだろう。一方、中国では、権威は政府と党が決めるものの、個人の自由が自覚されることは少ないので、それに服従すべきと考えるのは自然であろう。 これに対し日本では、近現代において社会が大変動し、個人の自由が善とされるようになった。その過程で昔の権威は力を失い、他方で新しい権威を選ぶ合理的方法は確立していない。選挙や競争が唱えられるわりに、未だにあいまいなコネクションが社会関係を規定している。したがって権威者は、実力があって皆から尊敬されるとは言えない状況が続いている。このような混乱が、権威には反抗してもいいという風潮を生んだのだろう。 青少年はそのような社会感情を正確に反映する。「本人の自由でよい」という消極的な自由主義は、自律的に権威とルールを作ることができない現代日本を象徴する現象なのである。
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●ずいぶん冷静な感じがする文章ですね。
違いはどこにあるか?
■その違いがどこから来るか、説明してみよう。まずこの答案例はグラフの読解とその解釈だけが書いてあって、提案も批判も感想も書いてない。
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客観的な見方とは? |
●ホントだ。日本の高校生がいいとも悪いとも書いてない。
■それは問二で触れることができるから、ここでは書かない。ここではグラフの読解と解釈に集中する。
●なるほど、だから客観的な感じがするんだ。
■第一段落では、まずグラフの表す傾向を単純化してある。このまとめ、間違いじゃないよね。
●インターネットでポルノ映像を見ることなんか入れなくていいんですか?
■アメリカの統計がないから、比べても意味がないよ。それに、この調査がなされたときには、中国ではインターネットはそれほど発達していなかった。モノ自体が普及していないのに、比べる意味があるだろうか?
●たしかにないですね。さっきの「模範答案」はそういう社会事情の違いも無視してましたね。けっこうずさんだなー。
■そういうキミだって、私に指摘されるまで気がつかなかっただろう?
●エヘヘ、たしかにそうですね。
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考えられる解釈の提示
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■第二、第三段落は解釈の部分。第二段落はアメリカと中国の権威に対する態度を書いてある。
●第三段落は、日本における権威の受け取られ方ですね。
■そう。簡単に言うとまだ権威が権威としてちゃんと成立していないという内容だ。
●なるほど。こういう風に説明されてみると、そういう風にも考えられるかなーという気持ちになってきますね。
■もちろん私の議論が正しいかどうかは別問題だ。だけど、自分がどのように考え、何の理論を基にしているかを明示してある。論拠が明示されていれば、他人が読んでおかしいなと思ったら、すぐ批判できる。それを主観的に批判したら、どこが間違っているか分からない。 しかも、この考えはデータから考えられる解釈の一つだ。データに基づいて妥当な解釈を考えられれば、小論文では十分なんだ。
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今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!
A 複数のグラフは相互に関係させる 組み合わせて考えると、関係が見えてくる 常識に頼らず、そこにあるデータを基に考える
B 原因と結果のメカニズムを解明する モデルを基に予測する 提案・批判はモデルからしか出てこない
C データに即した提案が原則 データに基づいた妥当な解釈を目指す
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