7-B 提案・批判(1)―仮説とモデル化


a  複数のグラフの処理
b  比較して推論する
c  比べて始めて分かること


提案・批判とは?

こうやって考えると、グラフを読むってけっこう大変ですね。 マジに書こうとすると、すぐ制限字数いっぱいになってしまいますね。
書く内容は増えてくる


この講座が始まったときは「字数が多すぎる」って文句を言ってなかったかな。やるべきことをキチンとやると、書く内容が増えて字数が足りなく思えてくる。

前は、データをちゃんと読んでいなかったんですね。

それにちゃんと解釈してなかったというわけ。

さて、今度の講義はいよいよ提案・批判ですね。でも提案・批判って何ですか?

提案・批判の定義

提案は、これからこうした方がいい、こうするとよくなるっていうことだね。批判はこれではダメだ、ここがいけないって文句を言うこと。

文句言うだけって、なんか無責任みたい。

そうでもないよ。どこが悪くて何が問題かをはっきりさせれば、将来の解決に役立つ。

批判だけでもいいんですか?

できれば、それだけじゃない方がいいね。こういう風に考え直した方がいいっていう方向を示す、つまり「批判⇒代替案」と続ければいい。

地球温暖化のメカニズム(2)

この問題では、設問の(2)「その問題を解決するにはどうすべきか、述べなさい。」の部分が提案の部分だ。でも前にこれを書かせたら、ひどい答案が多かったね。

どんな風に「ひどい」んですか?

データと関係ない提案はダメ

データとまるで関係していない結論を出してくることが多いんだ。たとえば、グラフの読解では、途上国の経済発展が要因のひとつだって分かっていたよね。

ええ、確かにそうなっていました。

グラフの分析を無視して、結論を述べてはいけない それなのに提案では「経済大国である日本の責任は大きい。大量消費社会を抜本的に変えていく必要がある。そのためにもっとリサイクルを進めるべきだ」となっていて、後は延々リサイクルの方法について書いちゃう。これじゃそれまで分析したことを無視しているじゃないか!

ごめんなさい、私もそう書こうと思っていました。でも「どうすべきか?」という問には、とりあえず新聞とかテレビとかで聞いた意見を書いちゃえばOKかなって思って…

そのやり方は感心しないね。データの読解と提案にまるで関係がなくなって、文章に一貫性がなくなっちゃうよ。

手抜きはやっぱりダメかー。でもそれならどうすればいいんですか?

 仮説とモデル化

まず解釈したら、モデルを作り、そのモデルに基づいて、結果を予測しなければいけない。

モデルって、前節でも言ってましたね。先生こだわってません?

モデルを作ることはね、原因がどうやって結果として表れてくるか、そのメカニズムを見いだすことなんだよ。

メカニズム?

たとえば、地球温暖化という現象は、いくつかの要因が重なって引き起こされている。先進国の高度消費社会、途上国の経済発展、あるいは東欧諸国の環境技術の遅れとか。

いろいろ複雑なんですね。

それらが、どう組合わさって温暖化を引き起こしているのか、どれが原因として大きいか、その関係を探るわけだ。

モデル化の例―人口と経済

 簡単な例を出そう。世界全体の一年のCO2の排出量は、先進国のCO2排出量と途上国のCO2排出量を足したものだよね。今ロシア・東欧の影響は無視すると

世界全体の排出量=先進国の排出量+途上国の排出量

となる。この右辺の量を変化させて、全体量がどうなるか、考えるわけ。右辺の量はどのように決まるかな?

CO2の排出量は、人口が多くなると増えるんでしたよね。インドや中国がそうでした。

それから経済成長も重要だね。CO2 は経済成長すると着実に増える。

つまり。人口と経済活動の規模で排出量が決まるから

CO2排出の原因を人口と経済活動でモデル化する


途上国の排出量=F(人口、経済活動規模)

と書けるわけだ。

Fって何ですか?

Fは関数のマークだね。左辺は、人口と経済活動規模の二つで決まってくる量だ、ということ。人口が増える(↑)と排出量は上がり(↑)、経済活動が拡大する(↑)と上がる(↑)という仕組みだ。ここまで理解したかな?

大丈夫です。

データに基づく予測

途上国―人口、経済活動の抑制は難しい

ここで途上国がどうなるか、予測してみようか? まず人口を抑制することは可能だろうか?

すぐは無理ですね。日本は少子化しているけど、インドや中国は人口がまだ増えているみたいだし。結局人口は↑ですね。

じゃあ途上国の経済活動規模だけど、縮小するなんてことがあり得るかな?

それはないと思います。貧困を解決するためにも経済は発展させなきゃいけないと思います。経済規模も↑か。

人口抑制も↑、経済規模も↑となると、排出量は当然↑となる。

先進国の動向

これじゃ当分減らないな。先進国の方はどうですか?

途上国と同じで、次のように書ける。

先進国の排出量=F(人口、経済活動規模)

先進国―人口は減少、経済活動の抑制は難しい

 まず先進国では、出生率が下がり、人口は減少ないしほぼ横這いとなっている。人口は↓または→。
 一方経済活動の規模は大きいから、この水準を下げればいい、という議論もある。しかし日本では、成長率がちょっとマイナスになっても「不況」と騒いでいる。つまり先進国でも、経済規模↓は困る。
 人口は↓、経済規模は→ないし↑。あわせて、排出量は横這い→というところかな。

環境対策と意識の向上

環境対策を進めて、排出量を減らすというのは?

それも疑問だね。先進国の排出量は1970年代からほぼ変わっていない。とるには新技術が必要だろうが、その開発には時間と金がかかる。

一人一人が意識を向上させて排出量を減らすのは?

その意見はよく言われるけど、普通の人間は、善意より利益で動く。特別な善意がなければできないことは、対策としては社会全体に広まりにくい。普通の人でも実行できるシステムを考えないとね。

じゃあ方法がないじゃないですか?

途上国への援助

そうとも限らない。途上国の遅れている環境対策を、先進国が援助して進めさせる、という方法がある。これなら現行の技術でも十分だろう。

あ、そうか。

ネパールなんかの排気ガス公害なんかひどいね。車は黒煙を吐きながら走るので、首都のカトマンドゥではみんなマスクをして歩いている。日本が援助して排ガス除去装置をつければずいぶん違うだろうな。CO2でも同じじゃないかな。

そういえば中国の工場に脱硫装置を付けた話を聞いたことがあります。
すぐ使われなくなったらしいけど。

途上国では環境対策まで手が回らない せっかく援助してもらったのに?

途上国では、環境対策よりも経済発展の方が大事だからね。利益を減らす環境対策を実行したがらないんだよ。日本と同じで深刻な公害でも発生しないと理解しないのではないかな?

先生、ずいぶん悲観的ですね。

そこで大切になるのが、コンピューターなどによるシミュレーションだ。温暖化の被害は途上国に集中する。この結果を途上国側に理解させることが重要だろうね。それが例題に書いてある文章なんだ。

あ、そうか。この問題を解く時に、グラフしか使っていなくて、文章の方はどう使うのかなと思っていたら、そんな風に使うんですか。
 これ、シミュレーションだったわけですね。シミュレーションをしっかりやれば途上国を説得できる。なるほどよく考えられていますね、この問題。





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