6-C 解釈とは何か?


a  現象の裏の本質に気づく
b  解釈=理由や背景を考える
c  変化をストーリーにする


現象の裏の本質に気づく


グラフ問題って、これだけでいいのですか? なんか拍子抜けだなー。でも、これだけじゃ字数が余るような気がするんですけど。

そりゃ余るよ。今までやったExerciseはもともと800字の小論文を書く問題だった。100字で情報を要約したって、まだ700字も残っているんだからね。

じゃあ、後はなにをするんですか?

次に必要なのは「解釈」という作業だね。

解釈作業の意味 解釈って何ですか?

カッコよく言えば、現象の裏にある本質を見抜くっていうことかな…

はー、何ですかそれ? 全然分からなーい。

たとえば、6-BのExerciseのように、折れ線グラフで30年間の変化を描いているんだったら、その30年間はどういう時代で、このグラフの数値にどういう影響を与えたかを考えてみるんだ。
 たとえば、ここ10年は環境問題が社会的に注目され、経済成長の限界や資源の枯渇も取りざたされているから「自然に従わなくてはならない」と考える人が増えてきて「利用すべきだ」という意見を追い抜いた、なんてね。

なるほど、意見がこんな風に変化した原因は、実は環境問題の発生だったんですね。

つまり変化の真の原因は、人の気持ちが自然に変わったというより、社会情勢が変化したから、人の気持ちも変わったんだと考えるわけだ。つまり

社会の変化⇒心理の変化

という図式として「解釈」したわけだ。

 解釈=理由や背景を考える


つまり解釈ってのは、その数値がどうして出てきたのか、その理由やメカニズムを考えるわけですね。

そうなんだ。ただその場合注意しなきゃいけないのが、最近30年で状況がどう変化したか、なんてことは設問の中に書いていないことなんだ。これは現代史の知識なんだけど、小論文の講座というより歴史や公民の範囲だね。こういう時は、自分がこれらの教科で学んだ知識を動員して、理由やメカニズムを推測しなければならない。

じゃあ暗記した知識が必要というわけですね。

知識や情報のストックが必要

そうだね。時代や地域、文化に対する知識や情報のストックがないと、勘違いしたり、表面をなでただけの薄っぺらな答案しか書けないことが多いね。たとえば「1950年代から、『自然を征服』が一貫して増えたのは、明治以来の日本の近代化が進み、西欧流の自然についての思想が広まってきたためである」なんて書いちゃ、ダメだね。

ダメですか?

だいたい時代区分がおかしいよ。近代化が始まったのは19世紀だよ。なんで70〜80年も後の1950年代に適用できるの?

すいません、私、日本史よく分からないんです。

その意味でこのタイプの問題は、政治や経済・社会など他分野との関連知識を総合して、判断する力をみる問題だといえるよね。
 

背景の知識は問題にないから、関連知識を増やす

あちゃー、困ったな。

具体的にやってみよう。


日本人の自然観についてのグラフを見て、社会的背景も加味して、日本人の自然観の変遷について800字程度で述べよ。


前節のExerciseの続きですね? でも「社会的背景も加味して」って言葉が、ひっかかりますね。

これが上で言った時代、社会との関連のところだよ。まずここに出ている1945年から1990年という時間は、いったいどういう時間なのだろう。

どんな時代だったか?

第二次世界大戦の直後から、10年前ぐらいまでの時間ですね。

どういうことが起こった時代なのかな?

うーん、日本史苦手だからなー。それに日本史の授業、明治までしかいかなかったんですよ。

戦後史の知識との関連 この問題を解くには、まずこの時代、つまり戦後についての知識が欠かせない。まず1945年は太平洋戦争で日本がアメリカと戦って負けた年だ。この時日本の状態はどうだった?

えーと、アメリカの爆撃を受けて、経済は壊滅状態。すごく貧しかったんですよね。食料がなくて大変だったらしいですね。テレビで特別番組やっていました。

そう、この時代はとにかく日本は貧しくてお金がないから、国土の開発や整備が出来ない。昭和20年代は、洪水や台風など自然災害が続発し、多くの犠牲者が出た時代でもある。自然に対する悲観的な気持ちが広がっていただろうね。キャサリン台風って知っている?

台風何号というじゃないんですか?

アメリカに占領されていたときは、台風に女の人の名前を付けていたんだ。私の祖父の家は川のそばに建っていたんだけど、この台風で流されて…

へー、アドベンチャー・ファミリーですね。

それで今度は丘の上に家を建てたんだけど、もう二度と洪水はありませんでしたとさ。

吉岡先生の日本昔話でした。チャンチャン♪

朝鮮戦争と経済復興 1950年は朝鮮戦争が起こった年。これで日本の経済は復興して、少しずつ軌道に乗って行くんだ。

あ、何となく分かってきました。時代の経済状況を、人々の意識と結びつけて考えていくんですね。貧しく自然災害も多かったから「自然に従うべきだ」と人々は考えたと…

そういう風に考えれば、どうしてこんな結果が出たのかが理解しやすい。ここは自然と人間の関わりだから、人間同士の関係を扱う政治より、むしろ経済活動との関わりの方が深いと思うんだ。

高度経済成長とオイル・ショック

そういえば、1960年から高度成長が始まりますよね。

そうだね。この時は科学技術を欧米から取り入れ、どんどん経済を拡大していった時代だ。投資が投資を呼び、人々は毎年より豊かになっていった。自然を切り開き、工業発展することにみんな夢中になった。

それで「自然を征服すべきだ」という人が増えてきたことが説明できますね。

オイル・ショックと物価高 ところが1973年にオイル・ショックが起こってしまう。ところでオイル・ショックって知っている?

高校の「現代社会」で習いました。中近東の石油産油国が結託して、原油の値段を上げた年ですよね。

原油の値段が一挙に4 倍になったんだ。あらゆるもののコストが急激に上がって、日本は深刻な不況にみまわれるんだ。私は今でも覚えているけど、それまで星一つ30円だった岩波文庫が、あれよあれよという間に星一つ50円となって、その年の終わりまでには100円になったかな? あわててまだ買っていない本を大量に買い込んだのだけど、結局今に至るまで読んでいない本もだいぶある(笑)。

パニックになっちゃいけませんね。

全くだよ。ともかくオイル・ショックの年では、自然の資源には限りがあって、経済成長もそれによって左右されるということが身にしみて分かった年なんだ。一方、水俣病など公害問題がマスコミで広く取り上げられ、工業や科学が不信感をもたれた時期でもあった。人間の力で「自然を征服すべきだ」派はどうしても少なくなるよね。

でも「自然に従うべきだ」派がすぐ増えたわけではありませんよ。
一度は科学や経済の発展を国民は享受したからね、極端には変わらなかったのだと思うよ。「自然を征服すべきだ」をよりマイルドにした「自然を利用すべきだ」が増えているのはそのためだろうね。

変化をストーリーにする


なるほど! 経済の発展という原因を考えると、「自然に従う」「支配する」とかいう意見の変化が、一つのまとまったストーリーとして語れますね。

これがさっき言った「折れ線グラフは時間に従ったストーリーを表す」という意味なんだ。年表で今までの知識を整理してみよう。

1945  敗戦、自然災害
1950   朝鮮特需
1960-70 高度経済成長
1973 第一次オイルショック
1980-93 環境問題への注目

変化を社会的背景と関連づけて、ストーリー化する


 今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。
 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!

A
図表は必ず言葉でストーリー化する
細かい変化は無視⇒おおざっぱなトレンドを書く
棒グラフは対比、折れ線グラフは時間の変化

B
表は、比較的単純なトレンド にする
表現の意図を推理する

C
図表問題の処理=読解+解釈+提案・批判
解釈⇒真の原因や社会的背景を考える
既存の社会や時代の知識と関係させる






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