5-B 課題文に賛成の時は

 

a  課題文と違う内容にする
b  賛成から補足・修正に
c  補足・修正にも根拠をつける


課題文と違う内容にする

 


課題文を要約した後に、矛盾・疑問を探すという方法は、だいたい分かりました。でも読んだ後で、どこにもおかしいなと思う点が見つけられなかったら、どうするんですか? 筆者の意見に大賛成であるとか、そういう場合もありますよね。

もちろんあるね。とくに課題文が評論文の場合は、筆者がいっしょうけんめい考えて、これが絶対に正しい!と思うことを書いてあるので、なかなか疑問や矛盾が見つけられないことが多い。

そりゃそうですよ。書いている方は一応大学の先生とか専門家とかじゃないですか? こっちはただの学生ですよ。知らないことも多いし、反対意見を述べろって言ったってねえ。間違ったことやとんちんかんなことを書いたら、かえってマズイじゃないですか。

変なことを書いたら確かに減点されるね。

筆者の意見に賛成の時でも何か変える そういう場合はお手上げですね。しようがないから「筆者の意見に大賛成。チャンチャン!」って一行で終わっちゃう。

それでも自分独自の内容を書くのが原則だね。筆者と違う解決が書けないのなら、他のところで変えるのもいいよ。たとえば実例とか。

どっか違っていればいいんですか?

そう、違っていなければ自分の意見として書く意味がないだろう。

体験を書くだけでは個性は出せない

そういえば「自分の体験を入れろ」ってよく言いますよね。自分の体験を書けば、とりあえず人と違うことが書けるんじゃないですか?

その意見は、必ずしも正しくない。だって「自分の体験」っていっても、そんなに独自な内容のものはないから。高校生の体験なんて、クラブで活躍したこととか勉強の苦労とか、だいたいどれも似たようなものだろう。そんな内容は、読んでも面白くない。

自分の体験を書けばいいってわけでもないんですね。

特異な体験なら書く意味があるが… 面白い体験ならいいんだよ。たとえば不登校になって、学校をやめて世界を三年間放浪したとか。拒食症になって苦しんだとか、私の友達には、そういう人が結構いるけど。もしそんな特殊な経験をきちんと文章化できれば、それだけですごく価値がある文章と言えるね。

何か苦しそうな体験ばかりですね。

そうとは限らないよ。要は、他の人がしていないような特別な経験であればいいということだ。でもそんな特殊な体験をしている人はたくさんいないと思うけど…

留学体験とかどうですか? 私は高校の時、一年アメリカに行っていたんです。

体験だけでは面白くならないことが多い うーん、最近そういう人は多いからなー。単なる留学体験だけではちょっとね。その中で、とくに日本にないような面白い体験をしていれば別だけど。過去に私が教えた中で、中国残留孤児の息子という人がいたけど。

そういうドラマチックなのに比べると、私の留学なんて、ちょっとなー。

「学校時代ではなく、幼い時の体験なら一人一人違っているから、小論文に書くのに向いている」なんて言う先生もいるけど、そんなに学校に行く前のこと覚えているかなー。もちろん日常の些細な体験を面白く書く方法もないとは言えないけれど、それには高度なテクニックが必要だしね…

どうすればいいんでしょーねー?

まあ、自分の体験を書くだけで個性を表現しようという発想自体が安易だよね。

やっぱり…

実例だけじゃなくて、理由や説明の部分も変える、という手もあるけど、結論が変わるわけではないから、あんまりインパクトないし、何より理屈の部分を変えるというのは、専門家の理屈に張り合うことになるだけに面倒だね。

 賛成から補足・修正に

 

やっぱり「筆者に賛成」じゃダメなんですかね?

そうでもないよ。基本的には賛成でも、ここは修正した方がいいとか、ここは不十分だとか、何か解決や主張のところで違っている部分を付け加えるといい。つまり補足や修正をするんだ。

補足・修正で個性を出す

補足や修正?

筆者が触れていないところを付け加えたり、筆者の主張する事柄の原因や社会的背景を考察したりすればいいんだ。

実際にはどうするんですか?

構造はすごく簡単なんだ。たとえば、これは結婚紹介業についての文章の冒頭部分なんだけど


筆者は、コンピューターによる結婚紹介業が若者の間にはやっている理由として、現代に特有の行動様式を挙げている。それは葛藤的プロセスを回避して結果だけを手に入れようとする精神だ。(中略)このような分析には賛同できる部分が多い。しかし、筆者はその行動様式の原因には触れていない。これは、日本における消費社会の進展に求めるのが適当だろう。

歴史は事実か、想像か?


なんかすごく難しそうな内容ですね。

とくに要約の所がね。でもここでは内容はどうでもいいんだ。大切なのはこの文章の仕組みとつなぎ方だね。一つ一つの文に分けて、この文章の構造を考えると…

1&2.(中略の前) 課題文の要約
3. 筆者への賛意
4. 筆者が触れていない問題を指摘
5. それに対する解決の提示

ということになる。
なるほど先生の言っているとおり、補足になっていますね。

もし修正したいなら、たとえば

 筆者は、コンピューターによる結婚紹介業が若者の間にはやっている理由として、現代に特有の行動様式を挙げている。それは葛藤的プロセスを回避して結果だけを手に入れようとする精神だ。(中略)このような分析には賛同できる部分が多い。たしかに現代の若者は、他人との対立を恐れる傾向がある。しかしその原因は、筆者の言うように消費社会の影響というよりむしろ…

補足・修正の具体的形は? などという構造になるだろうね。

「しかし〜」の後が「〜というよりむしろ〜」と修正になっていますね。

そう。大切なのはこのパターンなんだ。もちろん言葉の表現は他の形でも可能だけど、典型的な流れを覚えておくと自分で応用できるだろう?

補足・修正にも根拠をつける

 


この後はどうするんですか?

もちろんその補足・修正の根拠を書くべきだね。理由と説明、データや例示など前と全く同じだよ。つまり
 

要約⇒賛成⇒根拠⇒補足・修正⇒その根拠

という構造だね。 

 補足・修正は、筆者の意見に真っ向から反対するわけではない。大筋は認めてマイナーチェンジするだけだから、全面的に反対するよりずっと書きやすいと思うよ。

 



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