5-A 問題を見つける-矛盾と不一致
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a 問題を見つける方法
b 矛盾と相対性
c 間違いと恣意
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問題を見つける方法 |
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●先週の講義で、要約のやり方は分かりましたけど、ここから小論文を書くにはどうするんですか? 随筆については教えてもらったけど、課題文が論文形式の場合はまだでしたよね。
■全部同じだよ。まず問題を見つけて…
●どうやって見つけるんですか?
■先週の「歴史とは何か」の例題には第二問があって、「本文冒頭の『歴史はいったい何の役に立つのか』という問に対してあなたならどう答えるか。」となっている。これなら明らかだろう?
●そう書いてあれば、わかりますよ。でも書いてない場合だってあるでしょう? 私が引っかかった「次の文章を読んで、感じたことを自由に書きなさい」なんて設問ですよ。
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自由に書いては小論文にならない |
■そういう時でも、「感じたことを自由に」書いたりしてはいけない。それじゃキミの文章がエッセイになっちゃって、小論文にならないんだ。だから自分で問題を見つけて…
●その原理は分かるんですけど、実際にどうやって問題を見つけるか、その方法を聞きたいんです。
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矛盾と相対性 |
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■一番いいのは、課題文の筆者の書いていることの中に、矛盾や疑問や不一致を見つける方法だね。要約を見て、その中で「考えてみると、どこかおかしいな」という点を見つけるんだ。 そうすれば筆者と違った意見や反対意見を書けるだろう。後はどうしてそう思ったか、その理由を書いて、証拠を出し…
●この前の随筆と同じですね。でも課題文に対して、いつもそういう態度でのぞまなくちゃいけないんですか? いちいちメンドイなー。
■学校で教えられたことは正しい知識で、そのまま覚えようと思うから、疑問点があっても追及しない。だからわざわざ疑問を探せと言われると、面倒になっちゃうんじゃないかな。でも論文では反対だ。書かれたことにまず不信感を持つという態度も時には大事なんだ。
●つまり生意気になれと?
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疑問や矛盾を追及する |
■そうじゃなくて、疑問や矛盾を最後まで追求する探求心を持つということだね。
●何か大変なことになって来ちゃったな。 |
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歴史は想像か事実か
■前節でやった歴史についての例題で、疑問点を探してみよう。何か考えつかなかったかな?
●実を言うと「歴史学が想像力に訴える学問だ」ということにはちょっと引っかかったんです。じゃあ事実はどうなっちゃうのか。想像に頼って事実を無視していいのか。歴史学も小説も同じにならないだろうか?
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歴史は事実か、想像か? |
■それはいい着眼点だね。歴史は事実に基づくはずだと普通思われている。でも歴史は想像力に訴えると筆者は言っている。いかにも矛盾している感じだね。
●だって日本が第二次世界大戦で負けたっていうのは事実なんでしょう。勝ったなんて言えないですよね。「もし日本が勝っていたら」なんて想像するのは自由だけど、「日本が勝った」ことを歴史だと考えたらおかしいでしょ。何でこの人は[歴史学は想像力だ」なんてよけいなことを言うんだろう?
■この矛盾は「なぜ歴史学において想像力が大事なのか? 」という問題にしてもいいと思うな。
歴史は相対的か
●あと「歴史は暫定的で相対的なものなのである」なんてのも困るな。そうすると歴史の見方がすごく不安定になってしまいませんか? たとえば、第二次世界大戦の時の日本の行動は、誰が見たってよくなかったわけで、よくなかったという意見とそうでないという意見が「相対的」だったら困るでしょう。どっちが正しいか分からないんじゃ困る。真実は一つだと思いますけど。
■でも必ずしも真実はひとつとは限らないと思うけど。キミは原爆をアメリカが日本に落としたことは悪いことだと思うかい?
●そりゃもちろん。
■でも、アメリカ人も同じように思っているかしら?
●え、思っていないんですか?
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「真実」の相対性 |
■数年前に、アメリカで原爆の展覧会が中止になったことがあった。あの時主催者は、原爆の悲惨さを、資料を展示して客観的に提示しようとしたのに、元軍人団体などが「原爆を落としたおかげで本土上陸をせずにすんでアメリカ人兵士の命が助かったから、原爆は正しかった」という意見を出して、中止に追い込んだんだ。
●そんなことやったんですか? 許せないな。
■アメリカに留学していた女の子が、授業で原爆は悪だと発言したら、クラスメートから猛反発をくらったという話も聞いているよ。
●じゃあ歴史には真実ってないんですか、先生はどう思います?
■少なくても、筆者はそう思っていないと思うな。「歴史は暫定的で相対的なものなのである」。暫定的っていうのは、とりあえずそうしておくという意味だね。つまり歴史には、たった一つの確定した見方なんかない、その時々の政治状況や社会状況によって、変わるものだということを主張していると思うね。
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歴史の間違いの可能性
●じゃあ学校で教えられている歴史も、いつか間違っているということになるかもしれないんですか?
■その可能性はあるね。だって戦前では「日本は神の国だ」なんて教わっていたんだからね。今キミそんなこと信じるか? 神風が吹いたから元寇は失敗したとかさ。
●まさか…
■でも昔はそう教えられていたんだ。それと同じように、キミが習った知識もいつか「信じられない!」って言われるかもね。
●何で間違いかもしれないものを、学校で教えるんですか? 意味ないじゃないですか?
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知識は進歩し、変化する |
■でも学校で習った知識は本当のことばかりだろうか? 理科だって数学だって日々進歩しているんだよ。僕が学校にいた時なんか、鎖国をしたおかげで日本は世界の流れに遅れた、大損をしたと習ったけど、大学では、江戸時代はけっこう外国の知識が入っていたし、西洋の植民地にもならなかったし、鎖国は大英断だったと習ったんだよ。
●うーむ、確かに。科学は進歩するからなー。
■つまり我々の歴史知識なんか究極的真理ではない、という筆者の主張はそれなりに正しいわけだ。
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間違いと恣意 |
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●じゃあ好き勝手なことを言っちゃっていいんですか? ヒットラーはユダヤ人を殺さなかったとか、日本は中国を侵略をしなかったとか。
■実際にそういう主張をする人もいる。Revisionistと言うんだ。日本でも南京大虐殺はなかったという人もいる。
●それってアンマリじゃないですか。
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「正しい」歴史はあるか? |
■確かに。でもだからといって、これが正しい歴史だと断言できるかどうか。中国や韓国はいろいろ問題が起こるたびに、日本は侵略の歴史に対する反省が足りないと、文句を付けてくる傾向があるね。だけど、片一方には日本の考えは間違ってないという人もいる。たとえばマレーシアのマハティール首相は「もういい加減に日本は戦争のことで謝罪するのはやめたらどうだ」とさえ言っている。そんなわけで、歴史の認識に関しては、決着は必ずしもついていないんだ。
●だったらどう書いたらいいんですか? 正しい答えがないのなら、解答は書けませんよ。
結論の正しさより思考の経過
■そうかな。最初の原子力発電の例を思い出してほしいな。答えがはじめから決まっている他の教科と違って、小論文の評価では、書かれた解決の内容は、ちょっと極端に言うと、どうでもいいんだ。
この問題も、世界で意見が分かれているのだから、どちらの解決をとっても、それなりに正しさがある。だから結論は、あまり評価に関係しない。それよりその結論にどうしてたどり着いたか、その思考の過程こそが大切なんだ。
前にも言ったように、誰も受験生のキミに、そんな大人の間でも衣けんんの対立があるような問題を完全に解決してくれ、とは要求しないだろう。それより学校側が見たいのは、ちゃんと論理的に考え、自分の考えを発展させる知的能力があるかどうかなんだ。
キミが今ここで言ったようなことを、論理が通るように丁寧に書けば、結論がどうであろうと、あるいは結論がハッキリした形で出なくても、十分合格レベルの答案になると思うよ。
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