4-A 要約内容のつかまえ方
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a 課題文をどう処理するか? b トピックと本質 c 要旨・要約をつくる
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課題文をどう処理するか?
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●この間、小論文の模擬試験を受けたんですけれど、もーさんざんの成績でした。だって、すごく採点者がずるいんだもん。
■採点者がずるい?
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感じたことを自由に書け? |
●まず長ーい文章が書いてあって、その後で「この文章を読んで感じたことを自由に書け」ってあるんですよ。なーんだ、感想文かーと思って、感じたことを書いたつもりなのに、評価はABCDのC!しかもご丁寧に「下」までついているの。 コメントが「内容が題意とずれている」だって、自由に書けって設問にあるのに、そりゃないよねー。私は指定されたとおり思いっきし自由(!)に書いたのに。私のセンスを馬鹿にしてんのかー! そう思いません?
■そりゃ引っかかった君の方が悪かったと思うけど。
●えー、なんでー?
■だって、その試験科目は「作文」じゃなかったんだろう?
●小論文でしたけど…
■じゃあ、やっぱり小論文らしく書かなくちゃ。感じたことを自由に書いただけでは小論文にならないって、第一週にさんざん言ったはずだよね。忘れてしまったのかな?
●うーん、忘れてはいませんけど…
基本構造を守る
■小論文の基本構造は何だっけ?
●問題とその解決。
■そのとおり。その原則を守ったかな?
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基本構造が明示されていない場合 |
●すいませーん、考えても見ませんでした。でもでも、この問題は、今までの課題みたいに、問題がはっきりしていないじゃないですか? 「原発を作っていいか」とか「老人介護をどうするか」とか、そういうはっきりした問題が書いてないんですよ。 どーするんですか、そういう場合。問題とその解決なんて構造にならないと思うけど。だから私、思いついたことを書き並べるほかなかったんです。
■そういうやり方が一番よくないんだよねー。
●えー、そんなー。
■例題をやりながら、こういう場合の解き方を解説しよう。
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■次の文章を読み、筆者の指摘に対して、あなた自身は経験を通じてどう考えるか、600字以内で記述しなさい。
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大学で新入生への講義の際にびっくりするのは、ノートも筆記具も持たない手ぶらの学生が多いことだ。ノートを取るように何度注意しても、なかなかなおらない。質問をすると、積極的に答える学生はまずいない。一様に、あてられては困るといった態度が見える。指名して答えさせようとすると、「知りません」とあっさり逃げてしまうか、答えてもじつに幼稚な表現で終わってしまう。 わかっていないのかというと、そうでもない。ゆっくり聞きただしてみると、かなりの程度に「理解」している。だが、上記のような結果になるのは、どうやら二つの理由によるものらしい。一つは間違うことを極端に回避していること、もう一つは自分の考えをきちっと表現する能力が低いことである。いったいどうしたことかと考えてみて、はたと気がついたのは、彼らがテレビを視聴するごとく講義に対応しているのだ、ということである。その場で、ああわかった、面白い、つまらない、といった評価をしつつ講義は流れていく。講義の終了は、テレビのスイッチを切るのと同じことなのだ。理解力はかなりよいのだが、それを再生する装置が不十分なのである。ましてや、講義によって自分自身の関心を一層深めるとか、疑問を持つとかいうこともなく、講義はテレビの画面として彼らの頭の中を流れていくにすぎない。 受信装置としての快楽は、自分の好みのものだけを選択しうるということにある。数あるテレビのチャンネルの中から、好みの番組だけを選択し、また、好みのカセットだけを選んで楽しみに耽るという状況に浸れるということだ。一方、能動的に快楽を操作できるものもある。電子玩具やファミコンなどがそれである。手ごわいプログラムもあるが、ともかく自分の思うままに操ることができる。そして、うまくいかないときは、捨てるか破壊してしまえばいいのだ。そこでは子供は絶対者として君臨する。 子どもたちは密室の中でのひとりあそびの中で、極端な受動性と嗜虐的な能動性を身につける。自分より強い者には、カタツムリのようにちょっとさわられただけで身体をすくめ殻の中に閉じこもるが、弱い者には容赦のない攻撃性を発揮するという二重性格的なパーソナリティを身につけるようになる。(河合雅雄『子どもと自然』岩波新書1990より)。
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●どこが簡単なんですか? チョー長いよー。
■この場合、答案は何について書いたらいいか、分かるかい?
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トピックと本質
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●いろいろ書けると思いますよ。「大学生がノートを取らないこと」について書いてあるけど、この人はテレビの影響だと思っているみたいですね。でも私はただ面倒くさいからノートを取らないんだと思うけど。
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問題点はいろいろありそうだが…
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■つまり、それは「大学生がノートを取らない こと」について、違う原因を考えるというやり方だね。それから?
●あと「間違うことを極端に回避している」なんてことも面白いと思うな。私はわりかしそうじゃないけど、クラスの人とか質問したりすると恥ずかしいって思って黙っているみたいだし。これって、もしかしてイジメの影響じゃないかしら…
■まだあるかい?
●「TVの影響」を論じても面白いと思うけど…
■うーむ、どうやら、君の点数が悪い原因が見えてきた感じだね。
●どういうことですか?
課題文の本質を論ずる
■君が今言ったことは、実は枝葉の所にすぎないんだ。本質はもっと別にある。まず課題文を読んで理解していなければ、話にならないだろう? 小論文の評価基準には「理解力」という項もあるんだよ。
●そりゃそうでしょうですけど…
■この文章で筆者がいちばん言いたいことは、「ノートを取らない大学生」なんだろうか?
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文章の本質とイントロを区別する。
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●それも言いたいことの一部だと思いますけど…
■いや、違うね。「ノートを取らない大学生」は、筆者が考えるための単なるきっかけ、つまりイントロにすぎない。「ノートを取らない大学生」を見て驚いて、なんでこんな事が起こったのだろうと考えたというのが、内容だろう? 大切なのは、そのきっかけじゃなくて、考えた内容じゃないのかい?
●じゃあ「ノートを取らない大学生」について書くのは間違いなんですね。
現象と本質の区別
■そう、少なくとも課題文の本質を捉えたことにならないね。「ノートを取らない大学生」は単なる現象、つまり表面に現れたことにすぎないんだ。言いたいことはそこにはない。
●じゃあ「間違うことを極端に回避している」は?
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究極の原因は何か? |
■たしかに「ノートを取らない」原因の一つとして書いてあるんだけど、究極の原因ではないよね。だって「その原因は…」とさらに筆者は考えているからだ。究極の原因は何だろう?
●TVの影響…
■その通り。しかし、その後にTVゲームなんかの話も出てくるから、TVだけではない。むしろもっと広く考えて、映像文化あるいはヴァーチャル・リアリティが原因といえるだろう。つまりこの文章は「ノートを取らない大学生」を書いているのではなく、「映像文化あるいはヴァーチャル・リアリティが若者に与える影響」について書いてあるんだ。つまり因果関係の構造は以下のようになる。
映像文化・ヴァーチャル・リアリティの影響⇒ 間違うことを極端に回避する性格⇒ノートを取らない
●その影響の内容が「極端な受動性と嗜虐的な能動性」なんですか?
■それが本質だね。つまりこの文章の要旨は「映像文化あるいヴァーチャル・リアリティは、若者に極端な受動性と嗜虐的な能動性を与えている」ということだ。もちろんノートを取らないことについて触れるなというわけじゃないけど、小論文を書く場合、この要旨をめぐって書かないと、見当違いになっちゃう。そのあげくが「題意とずれている」というコメントになるんだ。
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要旨・要約をつくる
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●文章を書くとき、そこから離れすぎちゃうといけないんですか?
■それが原則だね。そうじゃないと、文章の構成や書き方は悪くなくても「題意からずれている」ってことになる。
●その言葉は、こういう意味だったんですか?
■けっきょく最初の課題文の読み方がいい加減だったんだよ。出発点が違ったら、あとでどんなに頑張ってもよくならない。見当違いな方向で努力していることになるからね。
●そっかー、くやしいなー。でもどうやれば、私がやったみたいな間違いをなくせるんですか?
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課題文の要旨・要約を最初に書くとずれない |
■安全なのは、問題文の要旨ないし要約を、最初に一段落を使って書いておくことだね。そしたら、要旨を書いた記憶が残っているから、課題文の内容から大きく離れるということは少なくなる。まあ、船が勝手にふらふらと行ってしまわないように、アンカーを打っておくようなものだね。
●じゃあ課題文がある場合は、問題⇒解決⇒根拠の前に、要旨・要約がくっつくんですか?
■そうだね。
要旨・要約⇒問題⇒解決⇒根拠 という四段構成になるわけだ。ちょっと手順が増えるわけだね。
課題文型の問題では、基本構造の前に、要旨・要約をつける。
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