3-C 証拠と結論の書き方


a  具体的イメージの重要性
b  証拠をそろえる
c  結論は繰り返しである


具体的イメージの重要性

「さて、ここまでのところで、最初の部分を少し書き変えて、ここで論じていることは、いかにも「大問題なんだー」という感じになるように工夫 してみよう。
『日本の高齢化が進むにつれて、老人介護を誰がどのように担うかは、大きな問題になっている。』のあとに、その問題の大変さを強調すると…

 特に都市部では核家族がほとんどなので、介護を家族のみに頼るのは、 精神的にも物質的にも負担が大きい。政府の役割が期待されるが、官僚システムの非能率性や財政負担の増大も指摘されている。また介護の市場化も検討されているが、貧富の差によってサービスの不公平がおこることが 心配されている。


なんてどうだろう。

どうやっても問題があると言うことで、すごく難しい問題という感じがし てきましたね。

それに「政府の役割」という指定された言葉も一つ使えたし。

ホントだ! 気がつかなかった。

内容の予告をする
次にキミの主張をちょっと弱めて、第一段落の最後に入れてやろう。これでこの小論文の内容全体を予告させる。
このような状況の中で、家族の役割は相対的に小さくなっているようだが、 その役割を過小評価すべきではない。

あと必要なのは理由でしたね。

よくできました。前に考えたことを入れてやると…

 なぜなら介護される側から言えば、家族は、人間的結びつきが深くきめ 細かい介護を期待できるので、介護は家族に頼みたいと思うのは自然の感情だからだ。一緒に生活をしていることで、家族は被介護者の気持ちにていねいに応えられるだろう。他人に言葉で自分の要求を的確に伝えられる人は多くない。その人の生活習慣などを理解していないと、きめ細かい対応ができないだろう。

だんだん完成に近づいてきたみたい。でもやっぱり文章にしてみるとカッコイイですね。

証拠をそろえる


内容はキミが言ったことそのままなんだけどね。丁寧に論理展開すると、 それなりの迫力が出てくるよね。さて、ここでもう一つ重要なことがある。 それは証拠を必ず出すということなんだ。

データや実例でしたよね。

その通り。小論文は数学と違って理屈だけで成立しているわけではない。 必ず現実の問題を扱うから、自分の言ったことはちゃんと「現実を反映しているんだ」ということを見せることは、とっても大事だね。

「たとえば」「じっさい」を使う

「たとえば」を使うんでしたっけ?

「じっさい」なんかもよく使われるね。そのあとに読者のイメージに訴えかける現実の出来事をくっつけるんだ。そうすると、自分の言っていることはより確実に読者に伝わるんだ。
 それでは、やってみよう。この間本で読んだお話なんだけど、なかなか面白いんでコピーして置いたんだ。…

たとえば、ヘルパーが飼い犬の世話をしているうちに、飼い主である老人 が食欲を取り戻した、という事例も報告されている。老人の身体の状態は、 精神と密接な関係がある。可愛がっている犬が回復のカギになるなどとい う事情は、生活に密着している人でなければ分かりにくい。この場合も、 ヘルパーが気づくまでには大部時間がかかったそうだ。ましてや、政府や 企業という画一性や効率性を重視するような組織では、個人を細かくケア するのは大変だろう

なるほど、情景が具体的にイメージできますね。

信頼性も増す感じがするだろう?

そうですね。やっぱり理屈だけじゃ何となく不安というか…

説得するには、理屈だけでなく、証拠が必要 人間は理屈だけでは動かない。現実と結びついてやっと感じたり考えたり するんだ。その意味でも実例は大切だね。

でもそういう実例はあらかじめ探しておかなければならない んでしょう?

そこが前にも言ったように、面倒だね。しかしいったん新聞などを読む習慣が付いてしまうと、どんな者が例として使えそうかという勘が働くようになる。だからそんなに心配する必要はないよ。
 それにこの講座には、ライブラリーをつけておいた。気が向いたら訪れてほしい。そこで面白い例など読んでおくと、後で使える。

新聞読まなきゃ、ですね。

結論は繰り返しである


さて、今まで出てきた、

問題⇒解決⇒根拠の要素

は小論文の一番重要な構 成要素なんだ。小論文を書くときに絶対忘れてはいけない。

でも先生、このままじゃ終われませんよ。だって「社会福祉」と「個人と社会」という言葉を使っていないもの。

ああ、そうか。それはすごく簡単なんだ。ラストの段落に書けばいい。

結論はどう書くか? でも、それってどうするんですか? そういえば、いつも結論をどう書いたらいいか、というところで迷っちゃうんですけど。

それも簡単だ。結論は、最初に書いた解決と同じ内容を繰り返すだけでいい。

内容ではなく表現を変える

えっ、繰り返しでいいんですか?展開とか発展とか必要ないんですか?

それはあった方がいいけど、初歩のうちはそんなに無理することないよ。 基本的に内容は変えなくていい。
 でも文章では、全く同じの繰り返し表現は好ましくない。だから、ちょっと表現を変えて繰り返す。そうすると「自分は表現力もあるぞー」というところもアピールできる。

表現力を見せるんですか? むずかしそう…

そうでもないよ。ただちょっと言葉を換えればいいんだ。その中に、指定された言葉も適当に入れてしまえばいいんだよ。たとえば

 したがって家族を主体にしつつ、政府が金銭的、時間的にバック・アップするような組織の確立が急務となる。結局社会福祉の問題は、個人と社会の関係をどうスムーズに連結するかという問題だ。家族や地域といった 要素を媒介として、そこにより大きな組織である企業や政府を参入させる とよいだろう。

なんてね。もう自分の基本的な発想は示してあるから、「社会福祉」と「個人と社会」はその中に入っていればいいんだ。

やったー、完成だー!

完成に向けて…

割と簡単だったね。今までの文章を全部つなげてみよう。

つなげれば完成  日本の高齢化が進むにつれて、老人介護を誰がどのように担うかは、大きな問題になっている。特に都市部では核家族がほとんどなので、介護を 家族のみに頼るのは、精神的にも物質的にも負担が大きい。したがって政 府の役割が期待されるが、官僚システムの非能率性も指摘されている。いっぽう介護の市場化も検討されているが、貧富の差によるサービスの不 公平も心配されている。このような状況の中で家族の役割は相対的に小さくなっているようだが、その役割を過小評価すべきではない。
 なぜなら介護される側から言えば、家族は人間的な結びつきが深く、きめ細かい介護を期待できるので、自分の介護は家族に頼みたい、と思うのは自然の感情だからだ。一緒に生活をしていることで、家族は被介護者の 気持ちに的確に応えられるだろう。他人に言葉で自分の要求を的確に伝えられる人は多くない。その人の生活習慣などを理解していないと、きめ細かい対応ができないだろう。たとえば面倒に思いながらも、老人の飼い犬 の世話をしているうちに、弱っていた老人自身が食欲を取り戻した、などということも報告されている。可愛がっている犬が自分の生き甲斐だった のである。老人の身体の状態はその精神と密接な関係がある。この場合も、ヘルパーがその事実に気づくのに、かなり時間がかかったという。政府や 企業という大きな組織では、このような細かな心情までケアするのは大変 だろう。
 したがって家族を主体にしつつ、政府が金銭的、時間的にバック・アップするような組織の確立が急務となる。結局社会福祉の問題は、個人と社会の関係をどうスムーズに連結するかという問題だ。家族や地域といった 要素を媒介として、そこにより大きな組織である企業や政府を参入させるとよいだろう。

うーん、完成するとかなりリッパですね。小論文というより「大論文」ですね。

小論文の基本要素は三つ
    問題⇒解決⇒根拠 (理由・説明+実例・データ)


 今週の講義のポイントをまとみてました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。
 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!

A
問題を見つけなければ、始まらない
日常体験から一般的問題を見つける

B
根拠は論理力と知識力の見せ所
根拠は、しつこいくらい丁寧に展開する

C
証拠はイメージを喚起する⇒説得力アップ
結論は繰り返し⇒表現は変える⇒表現力評価


今週はつづいてexercise-Cがあります。ボタンをクリックして下さい。





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