3-B 理由と説明の書き方の実際


a  基本構造の使い方(2)―根拠の書き方
b  理由は必ず必要
c  知識で説明を補強する


基本構造の使い方(2)―根拠の書き方


いちおう段落の形になったけど、これじゃ短すぎないですか? それに「指定された言葉を使え」っていう問題の条件も満たしていないし。

もちろんこれだけでは課題にもあってないし、だいたい小「論文」にすらなっていない。先週やった「小論文の基本構成」覚えているかな?

えーと、問題⇒解決⇒根拠でしたっけ。

根拠で説得する

問題と解決はできているけど、その先がまだ未完成なんだ。キミが自分の 意見を表明したら、読んだ人に「なるほど」と思ってもらわなければ、わざわざ書いた意味がない。そういう風に納得してもらうためには…

何回もしつこく言う、とか。

うるさがられるだけだね、選挙運動じゃないんだから。文章の力だけで納 得してもらおうよ。 これを説得力というよね。どうすれば文章自体の説得力が増すか? それは自分の意見にきちんとした根拠があることなんだ。

先週も出てきましたね。

根拠にはまず理由が必要 そうだね。根拠にもいろいろあるけど、いちばん大切なのは、先週も言っ たように、理由があることだ。理由は、その解決が成り立つための論理的 基礎と言っていい。
 ちゃんとした理由があれば、その意見が正しいと考えることができる。 逆に理由がなかったら、ただ信じ込んでいるだけだ。それじゃ宗教とか信 仰になっちゃう。

具体的には、どうするんですか?

理由は必ず必要


先週の課題「老人介護」で細かくやってみよう。


「老人介護は基本的に家族が担当すべきだ。」と主張したいとする と、その理由はどうなるか。最低三つあげよ。


さてどんな理由が考えられるだろうか?

ええと…おばあちゃん自身がそうしてもらいたがっているから、というのはどうかな。やっぱり家族に世話してもらうのが一番だと思っていると思うよ。おばあちゃんも自分のお姑さんを世話したって言ってたし。

老人は家族による世話を望んでいる? つまり「家族が世話をすることが日本の伝統の中にあり、老人がそうして もらいたがっているから」と言い直すことができるね。

ははー、文章語にするって、そういう風にするんですか?

ぐっと格調が増してくるだろ。他にはないかな?

政府にばかり老人介護のお金を頼っていてはいけないんじゃないでしょうか? 政府は今お金がないって聞きましたよ。

政府は財政危機で、介護にこれ以上予算を割きにくい。それで終わりかな?

公的機関や企業より、家族の方が老人の要求にきめ細かい配慮ができるから。

おー、だいぶ文章的な表現がうまくなってきたね。少しは慣れてきたのかな。ちょっとまとめてみよう。

1. 日本の伝統では家族が世話をしてきて、老人もそれを望んでいるから。
2. 政府は財政が逼迫し、介護に予算を割けないから。
3. 家族の方が、公的機関や企業より、老人の要求にきめ細かく配慮ができるから。


なんか頭の中がすっきりしてきましたよ。

書き並べると、言いたいことが分かってくることが多い。下書きを書いて自分の考えを整理する癖を付けるといいね。

知識で説明を補強する


さて、理由は一文で終わらせず、なるべく早くわかりやすく言い換えてやるといい。これを説明という。たとえば3の「家族の方がきめ細かい配慮 ができるからだ。」という理由について、意地悪い読者から「本当にそうな のか?」「どうしてできるのか?」などと聞かれたらどうする?

家族は長く一緒に暮らしているから、気持ちが分かるんじゃないですか? 言葉で的確に自分の気持ちを表せる人ばかりではないと思うしー。その人の生活習慣などよく分かっていないとー。その意味で家族の方が有利だと 思います。

疑問を予想して、あらかじめ答えておく そう。書く方としては当然出てくるであろう疑問をいろいろ予想して、そ れにあらかじめ答えておいたほうがいいよね。そうすると読む方としては 分かりやすいし、なかなかよく考えてあるな、と好印象を持つことになる。 老人は家族による世話を望んでいる?

 一緒に生活をしていることで、家族は介護される者の気持ちをよりよく 理解できる。言葉で自分の要求を的確に伝えられる人は多くない。むしろ、 その人の生活習慣などを肌身で知っていることが、きめ細かい対応につな がってくる。

このように理由をくわしく説明すると、説得力は増す。

なんかリアリティが増してくる気がしますね。

細部の知識の必要性

いい加減な論理にならないように注意 ただそのためには、細部にまでわたった確実な論理や知識が必要になってくる。不確実な知識やいい加減な論理だと、くわしく述べるとかえってボロがでてしまう。たとえば

 家族の方が他人より老人の気持ちが分かるからだ。家族はやはり社会の 根幹だ。家族の間で老人を尊敬できないと、国家は成り立っていかない。

なんていう説明はおかしい。
え、なぜですか?

だって「家族はやはり社会の根幹だ」とどうして言えるの? その理由が書いていないから、正しいかどうか分からない。主張をするときはとにかく理由がないといけない。

でもやっぱり家族って大事でしょ。

言葉は厳密に使う

でも家族イコール社会でいいのかな。社会には、家族の他にも会社や学校 もあるのではないかな?

うーん…

それに「家族は社会の根幹だ…国家は成り立っていかない」と、国家と社会を同じ意味の言葉として使っているけど、それでいいのだろうか?

たしかに国家と社会は少し違うかもしれませんね。ふーん、くわしく説明 してみると、この意見の欠陥がよく分かりますね。

そう、だから理由を書いたら、それをなるべくくわしく説明してやるとい いんだ。その方が読者にとっても親切だし、自分にとっても論旨がちゃんとしているかどうか分かる、という効果がある。





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