3-A 考え方をたどってみよう


a  問題の整理と発想
b  基本構造の使い方―問題から解決へ
c  一般化・抽象化する


問題の整理と発想


先週の課題再録


■次の四つの言葉をすべて使って、800字程度で、自分の考えを書け。
 1 老人介護、2 社会福祉、3 政府の役割、4 個人と社会

行頭にテン・マルを入れない

いやー参った、参った。人生いやんなっちゃったよー。

どうしたんだい?

先週の課題ですよ。もうすっごくむずかしくって…。あんなの書ける人がいるなんて信じらんなーい。

そんなに難しかったかな?

だって「老人介護」の問題なんて…。私はまだ17歳なんですよ。老人介護なんて言われたって、分かるわけないじゃない。ちょっと酷な設問ですよー。

それじゃー、今週はそういう気の毒な人たちのために、課題に基づいてものすごく丁寧に、かつ実践的に書き方のコツを教えてあげよう。題して「考 え方のシミュレーション」だー。

ありがたいんだか、情けないんだか、よく分かりませんね。

高齢化社会とは?

でもさ、現代は高齢化社会と言われているのは知っているだろう。

ええ、一応。

高齢社会の定義

人口の7%以上が65歳以上になった社会を高齢化社会というんだけど、現在の日本はさらにそれを超して「高齢社会」になりつつあるんだ。

どう違うんですか? 高齢化社会と高齢社会って。

人口の14%以上が65歳以上になった社会を高齢社会という。これは国連の基準なんだけどね。

へー、知らなかった。えーと、国民の七人に一人が65歳以上ってことになるわけですね。

そうそう、計算速いじゃない。

でもそれがどうして問題なんですか?

だって老人になると、どうしても体が動かなくなるだろう?人の助けが必要となってくる。だれがその面倒を見ることになるんだろう?

家族かな?

君の家なら?

お母さん…でも、仕事持っているしな。老人ホーム行きかな? でも、おばあちゃん、いやがるだろうな。それに老人ホームは高いって言っていたし。 うーん、確かにちょっとヤバイですね。

年金の問題

さらに老人は、仕事から引退して働かない。つまり高齢社会になると、社会全体で働いていない人が多くなる。残りの働いている人ががんばってそれを支えなきゃならない。

そういえば、老人が多くなると年金が大変だ、とかいう話を聞いたことがあります。

年金制度の仕組み そうなんだ。年金というのは、老後のためにお金を積み立てることだ。そうすると退職した後、毎月少しずつお金が政府や企業から支払われるんだけど、そのお金は自分が積み立てたお金じゃなくて、今働いている人が払っているお金を貯めておいて払っているんだよね。
 つまり年金はプールの水みたいなもので、払う人がたくさんいればどんどんたまっていくけど、もらう人が多くなるとどんどん減っていく。つまり高齢社会になり老人がどんどん増えてくると、水つまりお金が減っていく。

       

水がなくなるとどうなるんですか?

当然元のお金が無くなるから、年金が払えなくなる。

私、おばあちゃんから毎月お小遣いもらっているけど、それって年金から出ているはず。お小遣いもらえなくなっちゃうね。

孫にあげるお小遣い程度なら大した問題はないけどね、自分の生活費にしている老人はもっと大変だよ。

高齢化への対処法

問題山積みだなー。でも高齢化って止められないんですか?

老人に早く死ねっていうわけにはいかないだろう。長生きできるようになったから高齢社会になったわけで、高齢化っていうのは、ある意味でいろんなことがうまくいっている証拠なんだよ。
そりゃそうですね。でもやっぱり大変だなー。

高齢者を社会が支える方法 そこで、こういう問題が出てくるわけだ。増えてくる高齢者層をどうやって社会全体で支えていくか。誰が負担していくか? とくに老人介護の問題にしぼってつくられたのが、この問題だね。

小論文って結構世の中の問題と直結しているわけですね。

だから新聞や資料集を読めって言ったろう? 現代のアクチュアルな問題を扱うのが、小論文という科目の特徴なんだ。今言ったようなことは、高齢 社会を考える基本的な問題だよ。それに、この問題を解決するのは君たちの世代なわけで、今から興味を持ってくれなきゃ困る、と大人たちは思っているわけさ。

だから、試験に出すのか。納得。

基本構造の使い方―問題から解決へ


設問へのアプローチ

さてこの先週の課題だけど、前にも講義したように、小論文は

問題⇒解決⇒根拠

というスタイルをとるんだったよね。つまり小論文を書くには、まず問題を確定しなきゃ始まらないんだ。この場合、問題は何にしたらいいだろう?

問題は何か、考える

えー、そんなこと急に言われたって…

具体的に考えよう。君のウチのおばあちゃんの体がきかなくなって、日常 生活ができなくなったら、誰が世話することになっているの?

え? お母さんじゃないの? お母さんは一応おばあちゃんの実の娘だし、おばあちゃん倒れたら面倒見ざるを得ないんじゃない。

君のお母さん、働いていたんじゃなかったっけ? 介護って大変だよ。一日ずっと見てなくちゃいけないときもある。

じゃ仕事やめなきゃならないかな。かわいそう…お母さん今の仕事好きって言っていたし。それにお母さんが仕事やめたら、お父さんの給料だけでやっていけるのかな。

お父さんは?

だめだめ、あのヒト会社が忙しすぎて。それに自分勝手で、全然人の気持ち分からないから。

君は?

やっぱりいやだよー。おばあちゃんは嫌いじゃないから、たまに世話してもいいけどさ、毎日するのはあまりにもつらいじゃん。他に兄弟いないか ら、親たちがやらないとなると、私がずーっとやることになっちゃう。あ、そうだ。国とか市で何か介護の制度がなかったっけ、そういうの利用すればいいんでしょ。

でもそれにまかせっきりにするの?

…いやがるかもね、おばあちゃん。でも「ウチのおばあちゃんの面倒を誰が見るのかな。」っていうんじゃ、小論文にならないでしょう。

一般化・抽象化する


そうでもないよ。社会全体として考えてみればいい。そしたら「老人介護 問題は何か、考えるの担い手は誰か。」という問題と同じことになる。

ああ、なるほど。これで、さっきの問題とつながった訳ね。

今の君の考えを文章にしてみると、こんな風になると思うよ。

 高齢化が進みつつある現在、増大する老人介護の負担は誰が担うべきだろうか?
従来は家族が担うべきだと言われてきたが、現在のような核家族では、その負担は大きすぎる。国や地方公共団体が介護を援助し、家族の負担を軽 減するシステムを考えなければならないだろう。

やだー、なんかエラソーな感じですね。ホントに私、こんなこと言ってい たんですか?

話し言葉から書き言葉に変えてあるけど、内容は変わっていないと思うよ。ただ「おとうさん」「おかあさん」など口語的な言葉をとって、核家族 などというやや面倒な言葉を入れてあるだけだね。

信じられなーい。この調子なら、私も小論文ちゃんと書けるかもしれない!

小論文は難しいものだと、頭から決めつけている人が多いけど、順序よく考えていけば、ある程度書けるものなんだよ。つまり小論文で大切なこと は


1. まず問題を見つける。
2. つぎに問題に対する解決、つまり自分の考えを書く。

ということにつきるんだ。





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