2-C 根拠の部分の書き方の注意


a  理由は展開・説明する
b  説明は論理展開である
c  例示のための知識を得る方法


理由は展開・説明する


ポイントとサポートは分かったとして、サポートにはどんな種類があるの かを整理しておこう。
 まず一番大事なのは、理由だね。理由とは、なぜその解決が正しいかと いうことを理屈で明らかにしたところだ。よく使われるのは、「なぜなら〜 からだ」という形だね。この部分がない文章は論文とは呼べないね。

論文でなかったら、なくてもいいんですか?

小説や随筆では?

そうだね。小説なんかは理由なんかなくても十分に成り立つ。たとえば


 ‥‥しかしもし彼がポルフィリーに会いに行かなかったとしても、結局 は会いに行ってしまうのではないだろうか? そんなことにはなりそうもないという気がした。なぜか? 彼はその理由を説明できなかった。しかしもし彼が考えることができたとしても、このことを特に考えようという 気にはならなかった… (ドストエフスキー「罪と罰」)


こんな風に「なぜか?」と理由を考えても、それに答えは出てこない。どんどんストーリーは進んでいく。読者も理由なんか気にしない。むしろ主人 公がこの次に何をするか、どう感じるかという興味だけで読み進んでいく ことができる。

随筆との違い

たしかにいちいち小説を読むときに理由とか考えないですよね。びっくりするような事件とか起こるとそっちに目がいっちゃうし。随筆なんかどうですか?

いいところに気がついたね。随筆も別に理由はいらないんだ。随筆は感想 文だからね。

感想には理由がなくていい

感想文だと何で理由がいらないんですか?

だって自分が感じちゃったことは、どうしようもないじゃないか。「私はハ ンバーグという食べ物が嫌いだ。」と書いてあったとして「嫌い」ということに理由はいらないだろう? 「ハンバーグが嫌い」なことを、他人が正しいとか正しくないとか判断できるかい? とにかく「嫌い」と感じたところから、文章は始まり、読者はそれを認めて読み進むわけだ。
 一般に随筆は自分の感じたことから出発するから、「正しさ」を必要とし ないね。どんな偏見でも、他人から見ておかしな感覚であっても、それは 筆者の感じたことだ。読者がそれを面白いと思えばある程度通用する。

小論文は「面白い」だけじゃダメなんですか?

小論文は正しさを求める もちろんだめだよ。そこが他の文章と違うところだね。論文のでは、読者 が「この解決は正しい」「正しくない」と判断できなきゃいけない。そのためには、なぜ正しいと筆者が考えるかという根拠を示さなければならない。 何か意見を述べたら必ず「なぜなら〜からだ」と付け加えることが大切だ。

まとめ: 理由は「なぜなら〜からだ」の形で書ける。

 説明は論理展開である


理由はもっと説明する

ここで大切なのは、理由は一文で終わらせない、もっと説明する、ということだ。

一文で終わらせないって?

「なぜなら〜だからである」って書いて、すぐ「たとえば〜」って例示に移っちゃう人が多いんだけど、それでは読者に伝わらない場合が多いんだ な。

どうしてですか?

だって読者は初めて君の考えを聞くんだよ。君自身は分かっていることだって、読者は初めて読むことなんだから、しっかりと分からせなきゃ。 ここの部分を論理展開という。

すごいネーミングですね。

読者にたくさんの手がかりを与える

1st weekでやった原発の例を考えてみよう。「原発の建設には反対だ。なぜなら危険だからだ。」とした後に、どのように危険か、だれに、あるいは何にとって危険か、などを細かく書いたろう。これは読者の反応をあらかじめ予測して、疑問に応える形で説明、つまりわかりやすく言い換えておいたんだ。

読者が分かりやすいように言い換える

読者サービスってわけですか?

そうだよ。小論文に限らず、論文というものは、自分には分かり切ってい ることを読者に向かって書くんだから、本質的に読者が分かりやすいようにいろいろ工夫しなきゃいけないんだ。だいたい君たちの書く文章はその 工夫が足りなすぎるね。 小論文は正しさを求める 読者が分かりやすいように言い換える

理由は一文で終わらせず、なるべく分かりやすく言いかえて説明する

例示のための知識を得る方法


サポートの二番目は、もちろん例示ですよね。

そのとおり。前にも言ったように、理屈で主張を支えた後は実例やデータで支えないとね。自分の主張していることは、単に頭で考えただけの観念 的なことではなく、実際に起こったことなんだよ! と確認することができる。
 ただこの部分を書くには、いろいろ記憶しておかなければならないことが多くて困るね。ある程度細かい情報を知っていた方が信憑性がでてくるから、代表的な事件とか数字、名前など知っておかなくてはならない。

ひえー、大変そう。

学術論文などの場合では、例やデータは図書館やインターネットで調べて ノートに取ったメモをそのまま書き写せばいいんだけど、大学入試の小論 文ではノート持ち込みが許されないからね。基本的知識は記憶しておく必 要がある。

基本知識は暗記しておく

たとえば、第1週で扱った原子力発電所の事故では、チェルノブイリと いう名前ぐらいは即座に出てこないとね。さらに名前だけでなく、それに 関連したデータや数値などは、ある程度調べておかなくては引用できない ね。

そういうデータは、どこで手に入れればいいんですか? 高校の教科書にある程度でいいんですか?

教科書以外の知識が役に立つ 教科書の知識はもちろん大事だけど、それだけでは小論文には十分ではな いね。前にも言ったけど、小論文の試験は「受験テクニック」以外の情報収集力を見る。環境問題、ゴミ問題、国際化などは、現代人ならちゃんと 分かっていなければならない重大な問題なのだけど、世界史や日本史の守備範囲じゃないし、現代文とかで断片的に取り扱っても体系だって学習しないし、国語の先生も余り知らない。

そうすると教科書だけじゃしようがありませんね。

新聞は役に立つ

君は新聞とか毎日読んでいる?

読んでません。だってお父さんが会社に持って行っちゃうんだもん。それに朝はトイレに新聞持って入っちゃうんですよ。

残念だね。新聞は現代を知るためには、いい情報源なんだけどね。

新聞なんて役に立つんですか? ホラ朝日新聞で言っていることと、日本経済新聞で言っていることと内容が違っている、とかよく聞きますけど。

まあ、そういうこともあるけどね。でも君たちが利用するレベルだったら、そんなことは問題にならない。

でも新聞読むのって、ちょーメンドくさくないですか? ページ数もたくさんあるし、どこ読めばいいか分かんない。

もちろん全部読むことはないよ。政治面とか経済面は小論文には役立たない。むしろ家庭面とか生活欄とかに面白い問題が書かれているね。
 たとえば介護の問題や少子化、少年犯罪、教育など現代の重要な問題はだいたい家庭面とか生活欄に書いてあるね。また論壇などという署名記事 のコーナーも見ておくといいね。

新聞は家庭・生活欄をチェックする

情報をまとめた本もある

政治面や経済面の記事はなぜ役に立たないんですか?

もともと政治は意見の対立が大きいし、経済に必要な知識は、だいたい高校のレベルを超えちゃっているからね。

それだと読む分量は結構少なくなるかも。でもやっぱり毎日チェックするのってちょーメンドイ。

そういう面倒くさがりやのためにはね、「大学入試に出た××新聞」なんて本もあるね。過去の新聞記事で入試に出た話題が並べてあるんだ。でも最 新の情報は載っていないのがちょっと問題だけど。

この間本屋で「現代用語の基礎知識」とか「日本の論点」なんて本があって、もしかしたら小論文に役に立つのかなって思ったんですけど。

悪くはないよね。ただそういう本でいちばんスペースがとってあるのは政治経済で、大学入試で使う話題は全体の半分くらいかな。

ちょっともったいないですね。2000円以上して高かったし、買わないで 帰って来ちゃいましたよ。

実は私も参考になる本を出しているんだけど。

でたー! 先生直筆のご本かー。

「論文試験頻出テーマのまとめ方」(実務教育出版)という本だけど、実は大学受験用ではなくて、公務員の採用試験用なんだ。でも話題は大部分重なっている。見やすいようにいろいろ参考書として工夫しているので、い いと思うよ。

実は私の本も役に立つ はい、コマーシャルでした。

新聞のチェックがいやな人は、頻出テーマをまとめた本があるので、利用できる


 今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。
 納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!

A
表記の間違いをしない―誤字脱字、句読点、段落の切り方
よけいな表現はしない―「私は〜思う」「〜というもの」は×
修辞はシンプルに―疑問文を少なく、比喩は使わない

B
段落の構造を明確にする⇒文章も明確になる
読者の期待の方向にそった順序で書く
ポイントとサポートの構造を明確にする

C
理由は必ず展開する⇒読者に手がかりを与える
例示のためには、教科書以外の情報が必要
新聞や情報本を活用して知識を広げる






All text and images (c) 2001 VOCABOW. All rights reserved.