2-B ポイントとサポート


a  まとまりをよくするには?
b  読者の期待に応える
c  ポイントとサポートの構造


まとまりをよくするには


論文らしいよい文章にするのはけっこう大変ですね。

ここまではやっちゃいけない「べからず集」が中心だったけど、今度はやった方がいいことを考えよう。

どういうことですか?

ある一定の操作をすると、格段に文章のまとまりがよくなるっていう魔法 のような方法なんだ。老人介護問題を扱った次の文章を見てみよう。


 老人介護の問題を考えるときに、誰がそれをするのかということが大 きな問題となると思う。それは家族かもしれないし、政府の役割かもしれ ない。私は企業にまかせるのが最良だと考える。つまり老人ホームに入れ るのだ。ここであれば一日中付きっきりでの介護が可能になるし、似たような状態の人がたくさんいるので孤独というものを感じることもない のではなかろうか。家族のいない老人がアパートの一室で死んでいたのを気づかれなかったという記事を、最近目にした。また老人ホームでなくても、自宅に直接行って介護を行うという企業もある。


何かへん、この文章。

どこがおかしいか、指摘してごらん。

「べからず」をのぞいてもおかしい

まず前節の「べからず集」がいっぱい使われている。「〜と思う・考える」 とか、「〜ではなかろうか」「〜というもの」とか。それに最後に「また」ってついていて、一貫性がない。

それをとるとどうなるかな?

こういう感じですか?


老人介護の問題を考えるときに、誰がそれをするのかということが大 きな問題となる。それは家族かもしれないし、政府の役割かもしれない。しかし企業にまかせるのが最良だ。つまり老人ホームに入れるのだ。ここであれば一日中付きっきりでの介護が可能になるし、似たような状態の人がたくさんいるので孤独を感じることもない。家族のいない老人が アパートの一室で死んでいたのを気づかれなかったという記事を、最近目にした。


えーっ、まだ何か変。ぐちゃぐちゃしてわかりにくい。これ、どうしたらよくなるんですか?

べからず集だけではよくならない

    


やっちゃいけないことを直すだけじゃダメなんだよ。この文章は文章の構成の仕方がおかしいんだ。それを元から直さないと、いくら表現だけ取り 替えたってよくならないんだ。

まとまりがおかしいって具体的にはどういうことなんですか?

 読者の期待の方向に応える


最初に問題になっているのは、誰が老人介護をするのか、だよね。だから 読者が最初に期待するのは、その解決法だろう。だからまずそれから書くべきなのに、「それは家族かもしれないし、政府の役割かもしれない」などとわざわざじらすようなことを言っている。だから読者としてはストレスが大きくなる。

そうなの、イライラしちゃう! 早く解決法を言えって。

だから最初の文はこうなるべきだ。

老人介護は企業にまかせるべきだ。

あるいは、

老人介護の主体について論議されているが、企業にまかせるのが適当であ る

わーお、結論が早くて気持ちいいなー。

理由を早く出す

その次に必要なのは、なぜそういう答えになるかという理由だ。読者は意見の根拠を知りたいはずだからだ。「なぜなら…」で始めてみよう。

なぜなら…あれ先生、この理由どっかおかしくありません?この人「つま り老人ホームに入れるのだ」と老人ホームは企業が経営しているように思っているけど、そうとは限らないでしょ。国立とか市立の老人ホームとかもあるって聞きましたよ。

理由はちゃんとしているか

つまり企業がよい、という理由が不完全なんだ。別な理由を考えた方がいいね。企業が特に優れていることは何だろう?

効率性かな。国や地方公共団体がつくると、お金がかかるって言ってまし たよ。それに他の企業と競争しなくてはならないから、サービスも向上するでしょ。

家族が介護するのはどうだろう?

それって大変すぎますよ。介護する方が倒れちゃうって話も多いみたいだ し。 べからず集だけではよくならない 理由はちゃんとしているか?

そしたら次のように整理できるね。


 なぜなら作業の効率化が望めるからだ。国や地方公共団体が介護を担当すると非効率的になりやすいし、サービスが画一的になる。一方家族が介護するに は負担は大きすぎる。それに対して、企業には競争があるので、多様で良 質なサービスが安い料金で提供される可能性が大きい。家族のいないため、 老人がアパートの一室で死んでいたのを誰も気づかなかった、という悲劇もなくなるはずだ。

なるほど、まとまった印象が出ますね。でもこれってどういう原理でやればいいんですか?

ポイントとサポートの構造


文章は、大切な部分とそれほどでもない部分が分かれるんだ。たとえば、 この文章で一番大切なところは何だろう?

もちろん「老人介護は企業にまかせるのがよい」のところでしょうね。これが結論だもん。

ポイントは一番言いたい内容


そのとおり。この「筆者が一番言いたいところ」をポイントというんだ。

ポイント…

じゃあ他の部分は、ポイントに対してどんな風に関わり、どんな役割を 果たしているのだろう?

えーっと…他の方法じゃダメだとか。

対比だね。こっちはいいけどあっちはダメだって書いて、特徴をはっきりさせる方法だ。

「競争があるので」のところは理由になっていますね。

そのとおり。それから?

「家族のいないため、老人がアパートの一室で死んでいた」は例を挙げているみたい。

対比や例示は大切なところではない

つまり対比、理由、例示などだけど、どれも最初の「老人介護は企業にま かせるのがよい」が正しいんだ、ということをバック・アップしている。

応援団みたいですね。

サッカーの試合にサポーターというのがいるよね。それに似ていて、実際に大切な内容を応援するわけだ。だからこの部分をサポート、正確には supporting informationと言う。

なるほど。文章にはポイントとサポートの二つの部分があるんですね。

そういうわけ。ポイントという筆者の言いたいことを、サポートの部分が 支えている。つまり

ポイント(言いたいこと)←サポート(理由・対比・例示等)

 これを例文に当てはめてみると…

 老人介護は企業にまかせるべきだ(ポイント)。なぜなら作業の効率化が望めるからだ(理由)。国や地方公共団体が介護を担当すると非効率的になりやすいし、サービスが画一的になる。一方家族が介護するには負担は大きすぎる (対比)。それに対して、企業には競争があるので、多様で良質なサービスが安い料金で提供される可能性が大きい。(くわしい説明)家族のいないため、老人がアパートの一室で死んでいたのを誰も気づかなかったという悲劇もなくなるはずだ。(例示)

となる。まずポイントを明確にして段落の頭に出す。それからそれを支えるために、理由・対比・例示などのサポートを後から補足する。この形式をポイント・ファーストと言って、論文では一番わかりやすいと言われて いる。小論文を書き始めの人は、この形式に従った方がわかりやすい文章が書ける。

時間はかかるが結局は早道

でもこんなことをいちいち気をつけながら文章を書くと、すごく時間がかかりませんか? 試験場で間に合うかな?

たしかに、最初のうちはどうしても時間がかかるね。でも経験を重ねていくうちに、だんだん慣れてきて早くなるものだよ。
 今は練習なんだから、時間のことなんかまだ心配しなくていい。車の運 転と同じで、身に付いてくると無意識に体が動いてくるようになる。そこまでがんばらないとね。





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