10-A 意見が分かれる問題とは?
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a 時事的問題は意見が分かれる b 反対意見を予測する c 反対意見への反論
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■さて今週が「小論文BASICコース」のラスト・クラスだね。
●今日が終われば私は自由の身、ラーラーラー♪♪
■そんなに終わるのがうれしいのかな?
●すねないでくださいよ、先生。どんな勉強もいつかは終わる…先生もちゃんと生徒離れをしなくちゃね。
■まだまだ教えたいことがあるのになー。残念というか無念というか。このままキミを小論文の荒海の中に放り出すかと思うと、私は心配で心配で…
●また難破しそうになったら帰ってきますよ。でもうれしいな。今まで全然分からなかった小論文の書き方が、ちょこっとは分かったみたい。
■そりゃよかったけど、まだ気を抜いてもらっちゃ困るね。実は今週が分野としては一番手強いんだ。
●わーお、最後までサディストですね、先生って。どこまで私をイジメれば気がすむのっ! でも手強いってどういう場合なんですか?
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時事的問題は意見が分かれる
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■今日のテーマは「意見が分かれたときの書き方」なんだけどね。
●正反対の意見が対立するんですか? でも、そういう問題って少ないんでしょう?
■それがね、大部分の小論文の問題がそうなんだ。とくに現在進行中の問題は意見が分かれるのが当然だし、小論文はアクチュアルな問題を扱うことが多いからね。
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意見が分かれる場合は意外に多い
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●あーあ、やっぱりそうか。私ってなんて不幸なんでしょう。
■とくに日本は今、戦後の社会システムが古くなって、いろんなことが不安定になっている。今までのやり方じゃダメだって思いながらも、今のやり方を壊しちゃったら、もっと悪くなりはしないかっていう不安もある。当然いろいろ意見は分かれるよね。 しかも小論文では、環境問題とか少年犯罪とか、誰にも正解が分からないような問題に限ってよく出てくるんだ。ちょっと君たちに書かせるには酷だという気がするんだけどね。
反対者を説得するには?
●そういう場合に、読んだ人に「なるほどなー」って思わせるのは大変じゃありませんか?
■そりゃそうだよ。採点者がキミと反対意見だったりしたら、もー最悪だよね。でも、そういう人でさえ「なるほど」と納得させなきゃいけない。
●多数意見に味方しておけばいい、という方法はとれませんか?
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新しいパターンの意見を |
■だって議論が紛糾して賛成反対同数だったら、多数意見なんて意味ないだろう? こういう場合、賛成をとっても反対をとっても意見そのものに独創性はない。むしろ賛成でも反対でもない新しいパターンの意見を述べることで、独創性を主張できるんだ。
●うーん、むずかしいなー。
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反対意見を予測する
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■面倒くさい場合は、はじめから反対意見を予測して始めるのも一つの手だね。これは自分の意見が公平だという印象を与えるね。「この意見に対しては〜という意見が一般的であろう。しかし〜」なんていきなり始めちゃうとか。先週の課題で私が出した解答例がそのスタイルだったよね。
●あれもそうだったんですか?
■教育の問題はそれこそ今「進行中」だよね。個性教育、学級崩壊、大学生の学力不足、受験競争など問題山積みだ。またそれに対して解決案も山のように出ている。
●たとえばどんなのですか?
■たとえば学級崩壊で考えると、教師の力量がないから崩壊していると考えるか、家庭でのしつけがなっていないのが原因と考えるか、まったく反対の見方がある。もちろん原因をどう考えるかによって、対策の立て方も変わってくる。
●なるほど。
先週の課題―子供に悪いか?
■先週の課題にしても、にわとりを殺すのが教育として適当かどうか、かなり論議があると思うよ。ああいう体験授業は「生徒にショックを与えてしまい、心の傷になるから反対だ」という人もいるだろう。
●そうかなー。大したショックにはならないと思うけど…トラウマになって苦しむとか考えちゃうんですか?
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子供にとって辛い経験か?
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■純真な子供に、そういう心理的に辛い経験を与えていいのかという批判は当然出てくるだろうね。
●子供ってそんなに「純真」なんですかね。
■極端な場合、この授業を体験したおかげで、殺しの快感を覚えてしまうとか。
●まさか、そんな人は初めっからそういう傾向がある人なんじゃない? それってスプラッター映画を見たから殺人鬼になるっていう理屈と同じじゃ
■まあ、これだけたくさんの人がスプラッター映画を見ても、世の中に殺人鬼がかなり少ないのを見ると、あまり関係ないかもね。
●そうですよ。馬鹿げていますよ。前にもあったけど、アダルト映像を見ると性道徳が乱れるとか、子供を馬鹿にしすぎていませんか?
筆者の意図と子供の状態
■まあまあ、あまりアツクならないで。キミは鳥山さんの授業に対して賛成派なわけだね。
●当然ですよ。第一面白いじゃないですか、この授業。数学の公式を覚えるのに比べたら、血湧き肉躍るというか刺激的というか。
■キミがこの授業に出ると、危なそうだなー。にわとりなんか嬉々として殺しちゃいそうだね。
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賛成の理由―筆者の意図と工夫
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●失礼しちゃいますね。私はただこの授業には工夫があるし、先生に使命感があるところが気に入っているだけです。
■へー、それはどういうところだい?
●だって「いやがる子供たちにわざと事務的に言った」とか「心が痛い。しかし私の手はそんな気持ちを断ち切った」とか、もう確信犯的にやっているって感じがしますよ。こういう風に「これを教えたいんだ」というはっきりした意志を持つ先生は今少ないですよ。
■なるほど、いいところに目を付けたね。
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自然を取り戻す試み? |
●それに子供たちだって情けないですよ。「立派なつり道具を持っているのに、一匹もつれていない」なんてモノは持っていても、それを有効に使えない。これは自然に働きかける力が低下してるからじゃないですか? そういう力がなくなったのはなぜか? 都会生活で自然に触れる機会がなくなったからだ。では自然とは何か? それはある意味で弱肉強食である。その面に触れることなしに、自然は分からない。鳥山氏の授業は自然に対する感覚を取り戻すための試みである、なんちゃって。
■すごいね、最後は大演説になっちゃった。でも確かにそういう意見は成り立つね。
●先週、一生懸命書きましたからね。自分の論理には自信を持っています。
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反対意見への反論
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■しかし自信だけでは十分ではない。鳥山さんの授業の方法に賛成する立場をとると、かなりの反対意見を予期しなければならない。
●でもその条件は、反対意見の側に立っても同じですよね。やっぱり賛成意見があることを予期しなくちゃならないでしょ。
■そうだね。こういう場合は、最初に考える段階から、もう反対論が出てくることを予期して対処するのがいいかもね。
●どうするんです?
■自分の意見に対する反対意見を、小論文の中に書いちゃうんだ。
●でもそんなことしたら、自分の主張と違っちゃいませんか?
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反対意見をやっつける |
■そりゃそこでやめてしまえば変だけど、その反対意見をやっつけるんだ。「ほーら、ここが間違いだ」って。
●ははあ、相手の出方を予想して、あらかじめ叩きつぶしておくというわけですね。先手必勝!
■そうだ。相手から文句が出そうなところを指摘して、そこはキミの勘違いだよと…
●なんか陰険な方法という気もするけど。
例文の検討
■とんでもない! 議論ではよく使う方法だよ。先週の課題で私から送った解答例の冒頭を見てみよう。
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筆者の授業について、殺すという体験が子どもには過酷すぎるという意見もあるだろう。何もわざわざ鶏を殺すことはない、生物を可愛がることでも、命の大切さは体験できると言うのだ。しかし子供にショックを与えてはいけないという意見には賛成できない。なぜなら人間の生は、もともと他の生物を犠牲にするところに成り立っている。その真相に直面することなしに、生の本質を実感するのは困難であり、それを隠すことはまやかしにすぎないからだ。
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ここでは、最初から自分と違う意見「殺すという体験が子どもには過酷すぎる」に触れて、それを批判する方法で自分の意見を主張している。
●「ショックを与えるな」という反対意見は、あらかじめ「まやかし」として封じられているわけですね。
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他者の意見を取り入れているよう印象 |
■もちろん、この次の段落でもっとくわしく説明しなければ反対勢力は納得しないだろうけど、少なくとも反対意見を全く考慮しない書き方よりは、他者の意見に目配りが聞いているという印象を与えるだろうね。だから、ずっと信用度が増す。
●君たちの意見もちゃんと考慮してるからねと、いい子ちゃんぶっているわけですね。
■実際他の意見を考慮するのはいいことでしょ。ただの「ふり」じゃないよ。
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