1-C 証拠と例示 |
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a 小論文の学力とは?
b 例示・データの必要性
c 論と例の一致
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小論文の学力とは?
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●もうこれで小論文は鬼に金棒だー!
■そんなにあわてない。ここまでができればマアマアだけどね、もう少しシェイプ・アップしたいな。
●どうするんですか?
■小論文はたしかに論理的な文章だけど、扱っている事柄は現実の社会で起こっている事柄が多い。
●例題でも「原発」とか「お母さんと子供」とか、扱っていたものね。
■小論文で出題者が見たいと思っているのは、論理能力だけではないんだ。 もしそうなら、数学で十分だからね。
●数学は嫌い!
応用力と情報力
■出題者が期待するのは、受験者の応用力と情報収集力だ。小論文が初めて 出題されるようになったのは、共通一次とかセンター試験が始まった頃だ。どういうわけだか、そのころから受験生の質が変わっちゃったんだね。
●どんな風にですか?
■受験以外に興味を持たなくなった、というか。きっと予備校とか発達した こととも関係があるだろうけど、受験技術だけはむちゃくちゃあるけど、現実の社会のことを知らなかったり、好奇心がなかったりする学生が増え たらしいんだ。大学の先生がゼミがつまらなくなった、と言い出したんだ。
●ゼミって?
■少人数の討論形式の授業のことだよ。学生が議論を好まなくなって、ゼミをやっても議論が白熱しないんで、面白くないんだって。
●それまでは違ったんですか?
現実への興味
■けっこうみんな社会問題とか興味があってね、君たちのお父さんお母さんぐらいの世代かな。学問を社会にどう応用できるか、ずいぶん議論になったらしいよ。まあ、そのころは社会も激動していたんだけどね。
●そのころはそういうのが流行っていたんだ。
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受験以外の現実への興味を見る |
■まあね、でもとにかく現実への関心や応用力がなくなったら学問にとっても大変なことだからね。現実に興味を向けなければできないような科目を考えたんだ。
●それが小論文ですか?
■そうだね。原発とか親子関係とか今進行中の、しかも答えのない問題を扱うからね。できあがった知識を記憶しただけではどうにもならない。未解明の問題を、既存の知識を応用して、自分の頭で考える学生が有利だよね。
●なるほど。応用力と情報収集力があるっていうことをアピールした方がいいんですね。でもどうやればいいんですか?
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例示・データの必要性
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■そのためには、現実のデータを小論文の中に入れる必要がある。データを 入れるのは、自分の意見の正しさを具体的に証明することでもある。自分の主張が空理空論ではなく現実のことなんだ、と保証する役割をするんだね。だから文章の説得力がぐんと増す。
●なるほど。
■だから小論文には、なるべく例やデータを入れるといいよね。こういうの を英語でevidence(証拠)って言う。
●とすると、小論文の構造は
問題⇒解決⇒理由説明⇒例示、データ
ということになるんですか?
■そのとおり。理由説明⇒例示、データの部分を一括して、根拠と呼ぶ場合もある。その場合は
問題⇒解決⇒根拠
という構造になる。
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■原発建設をすべきではない、という前節の議論に対応する証拠を挙げ よ。
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■さて、原発が危険な証拠として何が考えられるだろうか?
●チェルノブイリっていうのは聞いたことありますけど。
■へえ、どこに書いてあった?
●社会の教科書に載っていましたよ。
■どんなことが書いてあった?
●あんまりよく覚えていないんですー。なんかウクライナとかいう地方で原発が爆発したとか。
■1987年のことだね。どんな原因でどのような被害が出たか、知っているかい。
●いいえ。
■この事故は原子炉の試験をしている最中に起こったちょっとしたミスが原因だった。そのため原子炉の冷却水がなくなり、原子炉が破壊されてしまったんだ。
●放射能とか漏れたんですよね。
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チェルノブイリの事故の状況 |
■すごい量だったんだ。爆発で何人か原子炉の職員が死んだだけでなく、後かたづけにかり出された軍人も防護策が不十分だったために多数の死者が出た。だいたい動員された兵士の中では放射能がどれだけ危険なのか、知 らない者さえいたんだよ。
●ひどいなあ。
■それだけじゃない。放射能汚染のために原子炉の周囲30kmは立入禁止になった。村や集落がいくつもあったのに、全員戻れなくなったんだ。もちろん生物にも奇形が発生した。
●放射能って危険なんですね。
■さらに漏れた放射能は風に乗って北欧にまで達し、トナカイ2万頭が放射能に被爆した。そのためこれらのトナカイは射殺され、廃棄処分になっ た。
●すごい損害ですね。
■どうだい、これで原子炉の危険性は分かっただろう。
●予想以上にひどいですね。原子炉は必要だっていったけど、意見を変えちゃおうかな。
例示・データの力とは?
■そう、それが例示の威力なんだ。
●えっ?
■理屈だけ言っても、聞いた人はなかなか分かってくれない。実際の被害や 危険を語ってこそ、「なるほどねえ」と納得するものなんだ。事実の方が ずっと臨場感があるだろう?
●そりゃそうですよ。
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例示は説得力をぐんと増す |
■だから例示やデータは君が書く小論文の説得力をぐんと増すから、どうして も必要な要素なんだ。しかもこれだけの情報を整理しているということは、君の情報収集能力を十分アピールすることになる。
●でもデータを集めるのが大変ですね。
■だからそれを持っていると言うことは、君が現実に興味を持っていることの証拠にもなる。
●あ、そうか。
■例示やデータは「たとえば」や「実際」という接続の言葉を使って書くといいね。ちょっとやってみようか。
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たとえばチェルノブイリでは、原子炉のちょっとしたテストから大事故 になった。原子炉が爆発するとともに大量の放射能が漏れた。爆発で原子 炉の職員が死亡しただけでなく、その後かたづけに当たった人々からも多数の死者が出た。また死なないまでもその後ガンや白血病を発症し、病気 に苦しんでいる人々も多い。いっぽう周囲30kmは放射能に汚染され、人間が住めなくなった。周囲の村は閉鎖され無人地域になった。生態系にも 大きな影響があり、奇形の発生も報告されている。さらに放射能を含んだ 灰は風に乗って北欧にまで達し、家畜を大規模に被爆させた。そのため多 数の家畜が屠殺され経済的損害も大きかった。
●すげー。やっぱり現実ってのは迫力ありますね。
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論と例の一致
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■ここで気をつけなければならないのは、理由説明で述べたことと例示の部分で述べたことが、正確に対応していなければならないことだ。見て分かるように、理由説明では危険は
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理由と例示はいつも対応させる |
- 人命への危険
- 環境汚染の危険
- 経済的損害
の順になっている。例示でもこの順序は厳しく守られている。
- 多数の死者と病人
- 周辺地域の汚染
- 家畜への被害
●ほんとだ。
■君たちが例示を書くと、その前に述べている理由説明の内容と関係ないも のを書く場合が多い。例の内容は、理由説明と正確に一対一に対応するように気をつけなければならない。
●へー、そんなことには全然気をつけなかった。
■もちろん現実には、この対応関係はもうちょっといい加減なんだけど、初級のうちは厳しすぎるぐらいに守った方が間違いが少なくていい。つまり小論文の仕組みを図示すると
問題⇒解決⇒理由説明(1,2,…,n)⇒対応する例(1,2,…,n)
ということになる。nはここでは任意の数で、3でも5でもいい。
●すごーい、何か数学みたい。
■小論文は論理的文章なのだから、数学と似てきても不思議はないね。
●それで最後はどう締めくくればいいんですか?
■解決の部分を、多少表現を変えて繰り返せばいい。まったく同じ表現では、 表現力がないと思われるからね。ここだったら
このように原子力発電所を建設し続けることは、人間と環境に重大な危険を招く。即刻建設をやめるべきだ。
というように、書いておけばいい。
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今週の講義のポイントをまとめてみました。内容を思い出しながらもう一度復習してみよう。意味が理解できないときは説明文に戻って読み返してみよう。
納得できたら、さあ、今週の課題 (Homework) に挑戦!
A
小論文の基本パターン=問題+解決
問題=対立、矛盾、不一致、疑問の形を取る
解決=自分独自の立場を明確に出す
B
小論文=問題+解決+根拠
根拠=理由+説明+例示
理由=「なぜなら〜からだ」
説明=やさしくくわしく言い直すこと
C
小論文の学力=理論の応用力と情報の収集力
例示・データは説得力を高める⇒提示する
論と例は一致させる
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