1-A 小論文の基本概念
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a 小論文にはパターンがある
b 小論文は意見文である
c 問題と解決のパターン
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小論文にはパターンがある |
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●先生助けてください! 小論文ってどう書けばいいか全然分からないんです。私の行きたい大学では、何年か前から小論文が入試科目になっているんだけど、誰も、きちんと教えてくれないんだもの。 |
個性的? 論理的? |
学校の先生は「君の個性を出せばいいんだよ」って言うし、塾の先生は 「論理的に書け」っていうし。でも個性とか論理的とか言ってもどうすればいいのかサッパリ分からない。「どう書くんですか? 」って聞いても、原稿用紙の使い方なんてえんえん説明したりして、もう退屈で退屈で。それよりどういう内容を書くのか、教えてくれー!
小論文はどう書くんだろう?
■じっさいに書いてみたことはある?
●もー不安なんで、いっかい通信添削を受けてみたことはあるけど。
■そしたら? |
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●講評欄に「ああ書けばいい」「こう書けばいい」って細かく書いてあるのは 嬉しいんだけど、添削者が違うと言うことが違っていて、混乱しちゃうの。 ある人は自分の体験をもっと書けって言うし、ある人は個人的体験を書きすぎるのはよくないと言うし‥‥
■「文章は自己アピール」だから、どんどん自分の長所を出せなんてね。
●でも私はこんなすばらしい人間です、なんて毎回書くわけにいかないでしょう。なんか白々しくないですか? それにグラフを使った問題なんて、どう自己アピールすればいいんですか?
■「文は人なり」なんて言う人もいるよね。
●じゃあ文章が下手な私は人間じゃないって言うのかい!
小論文の特徴
■小論文はまだ歴史が浅い科目だから、教える側にもいろいろバラツキがあるみたいだね。君が混乱するのも無理はないね。
おおざっぱな概念を得るために、ちょっとクイズをやってみよう。小論文の文章としてA、Bどちらがいいか。いいと思う方に触れてみよう。
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パターンにとらわれず気持ちを素直に表現する。 |
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一定のパターンに従って自分の主張を貫く。 |
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●え? 学校で習ったのと、ずいぶん違うような気がするんですけど。 たしかに小学校では、素直に書けって言われたけど‥‥。
■でもそれは「作文」のレベルのことなんだ。
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小論文は作文ではない |
●「作文」って「小論文」と違うものなんですか?
■そうだよ。世の中にはいろいろな種類の文章があって、それぞれに特徴があるんだ。作文と小論文は全然違う。まずこれが出発点だ。
●作文も小論文も似たようなものだと思っていました。
■作文は、感じたこと、思ったことを表現する文章だね。自分が感じたこと、つまり主観を素直に書く。
●「思ったことをそのまま書きなさい」なんてよく言われました。
■そうね、あまり型にはまったのはよくない。子供が書くんだから、「子供らしい」語彙や感覚が表れていなければならない。
●「子供らしい」ってなんですか?
■私にもよく分からないんだけどね。とにかく「自然に」書くことがよいとされている。でも小論文は逆。一定のパターンがあって、それに従って書いた方がよい文章が書ける。
小論文=パターンにしたがって書く文章
●どうしてですか?
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小論文とは意見文である |
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■それを説明するために、ひとつ典型的な小論文の問題を見てみようか。 |
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最近、原子力発電に対する批判が高まっている。しかし政府では、原子力 発電推進の姿勢を崩していない。原子力発電所をこれからも建設すべきかどうか、あなたの意見を書きなさい。
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●わー、なんか最初から超ハードな問題ですね。でも原子力発電所ってやっぱり必要なんじゃないんですか。だってTVでも「原発は必要です!」って バンバン宣伝していたし‥‥ |
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■待て待て、そんな風に宣伝にすぐのせられちゃっていいのかな? 宣伝ってのは人の意見だろう。
●でも私、別に原発に対して、そんなに思い入れないし、「自分の意見」なん て突然言われても分からないよー。ワーッ!
■おいおい、泣くんじゃない。まるで僕が泣かしたみたいじゃないか? 困ったな、だいぶナーバスになっちゃっているみたいだな。
●なーんてね。でも困っていることは確かなんです。だいたい自分の考えなんてそんなにないですよ、普通。それを突然言われたってねー。
■でも小論文では「自分の意見」が要求されているんだ。何でもそうだけど、相手から要求されていることが分からないと、きちんと対応することがで きないし、どう努力すればよくなるかも分からない。勉強しても、方向が違ったら無駄に終わってしまう。さて、意見とは何だろう?
●意見ねえ・・・たとえば会議とかしていて、「○○さん、あなたの意見はどうですか?」なんてよく言われますよね。意見は自分の考えの事じゃないですか? |
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■そうだね。意見が求められるシチュエーションを考えてみると、会議などで議題があって、それに対して複数の人がそれぞれいろいろな考えをもって対立や相違がある場合だね。
たとえば「この町にゴミ処理場を作るべきどうか」とかいう問題がおこると、議会や住民の中で意見の対立が起きたりするだろう。「ゴミをもっと速くたくさん処理するために作るべきだ」という人もいれば、「焼却する煙で 環境が悪くなる」と反対する人もいる。
●原発の問題だったら、原発を批判する人々と、原発を推進する政府側に対立があるわけですね。
■そう。つまり問題とは、対立や矛盾、あるいは不一致のことなんだ。それは放っておくと大変なことになる。だから何とか解決しなきゃならない。だから意見が求められるんだ。
問題=対立、矛盾、不一致 |
問題と解決のパターン |
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●この設問なら、「原子力発電」に対して「批判」する立場と「推進」の立場 とがあって、「採用すべきかどうか」という問題が提出されているわけですね。
■そう。我々は電気エネルギーを使わないでは生きていられないから、原発を作るかどうかは、どちらかに緊急に決めなきゃならない。どうしよう? これが問題だ。
●ふーん……
■その解決の仕方を提案するのが、「自分の意見」ということになる。
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違憲とは問題の解決である |
●じゃあここでの自分の意見は「原発を建設する」か「原発をつくらない」 かどちらかしかないわけですね。
■そう二者択一だね。yesかnoか、だね。
●いつもそういう「あれか、これか」の選択の形で出て来るんですか?
■そうとは限らない。「〜はどうしたらいいか」という疑問の形でもいい。と にかく何か解決しなければならない問題が最初に出てくる。これが小論文の基本なんだ。 意見が求められる状況とは?
小論文は問題提起からはじまる
次の問題も見てみよう。今度は少し違ったスタイルの設問だ。
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次の文章を読み、ここで問題になっている点は何かを明らかにし、どのよ うな解決策があるか、あなたの考えを述べなさい。
(600字以上800字以内)
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狭い待合室で、若い母親が赤ん坊を抱いて座りながらたばこを吸って いた。
そこにサラリーマン風の男性がやってきた。
母親は、残り少なくなった煙草をもみ消すと、すぐにもう一本の煙草に 火をつけた。
煙草の煙は狭い部屋にまたたくまに充満した。
新聞を読み始めていた男性は、じっと我慢をしていたが、とうとうたま りかねて母親に言った。
「すみませんが、煙草を控えてもらえませんか」
母親はまったく気にかけずに答えた。
「煙草を吸うのは私の自由じゃないですか」
男性は少し考えてから言った。
「赤ちゃんのためにも控えてください」
すると母親は即座に答えた。
「この子は私の子どもです。あなたにとやかく言われる筋合いはありま せん」
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●とんでもない母親ですね、はためいわくだよ、こういう人!
■まあまあ、熱くならないで。本当にあったわけじゃなくて、単なる設問にすぎないんだからさ。
●でもーやっぱりムカつく。
問題を探す
■この場合だったら、例題1のように「〜かどうか」という形で問題は提示されていない。だから「問題になっている点は何かを明らかにしなさい」 と書いてあるわけだね。
●こういう場合はどうするんですか?
■この場合は、受験者の方で「問題はこれだ!」ということを書く必要がある。 それを読んで採点者の方で、「ああ、この人はこういうことを問題にしたいのか」ということがわかる。
●でもどうやって「問題はこれだ!」ということがわかるんですか?
■そのためには、問題を文章の中から探さなければならない。
●どうやって?
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文章の中のおかしな点、気になる点を探す |
■おかしいところや気になるところを探すんだ。
●おかしいところ?
■だってさっきも言ったように、問題とは、対立や矛盾、あるい不一致のことだろう? この文章の中にそういうところを見つけだしてやればいいわけ だ。たとえば、母親は「この子は私の子だから、あなたにとやかく言われる覚えはない」って答えている。でもこれはおかしくないかな。煙草の煙 は明らかに健康に良くない。自分の子供だからといって、健康に悪いことを強制していいのだろうか?
●そりゃよくないと思います。
■でも、いっぽうでは親権というものがあって、子供がどのように育てられ るべきかは、まず親に決める権利があるよね。
●そりゃそうですよ。何で親が他人からいろいろ言われなきゃいけないんですか。自分の子供は自分の教育方針で育てたいな。
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矛盾点は? |
■じゃあ君の考えは矛盾しているじゃないか。いっぽうでは「自分の子供は 自分の教育方針で育てたい」と言いながら、他方では「自分の子供だから といって、健康に悪いことを強制していけない」と言う。いったい君の立 場はどっちなの? 親の味方、それとも子供の味方?
●えー、そんなこと言われたって困っちゃうな。
■そういう「困っちゃう」ところが、小論文の始まりになるんだ。
●でもただ困っているだけで、どう解決していいかまったく分からないんですけど。
■そこを何とかして考えるのが小論文なんだよ。
解決は明確にする
●考えるの面倒だから、「この問題はよく考える必要がある」と逃げちゃおうかな。これだったらどんな時でも使えるでしょ。
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自分の立場は曖昧にしない |
■ダメダメ。小論文では、結論を明確にするのが大切だ。
●だって新聞の社説なんかには「国民的に論議をつくす必要がある」なんて よく書いてあるじゃないですか? ダメなんですか?
■立場がはっきりしないだろう。「あなたの意見を書きなさい」とあるのに、「皆に意見を聞いてみよう」と自分の立場をぼやかしちゃいけないよ。
●じゃあ新聞などの書き方はダメなんですか? 小論文を書くには「天声人 語」とか「社説」とかを読むといいと教わったけど。
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新聞の社説の真似をするな! |
■新聞の社説やコラムと小論文では目的が違うんだ。社説やコラムは普通無 署名で、会社全体としての立場を表す。だからあまり書く人の個性を出し すぎるのはよくない。しかも何百万人も読者がいるから、その人々に理解 できる内容でないといけない。ある程度常識的な内容でないといけないし、 あまり理屈っぽすぎてもいやがられる。 |
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でも小論文は署名入りで「自分の意見」を書く。読む人も数人の大学の先生だから、新聞の読者とは違って、そうとう難しい内容でも理解できるし、 その方が面白がる。
●けっこう細かな違いがあるんですね。
■それぞれの読者に求められる文章を書かなくてはいけない。でもこれは当 たり前のことで、週刊誌なら週刊誌の書き方、スポーツ新聞ならそれなり の書き方があるんだよ。
●小論文はどんなタイプの文章なんですか?
■強いて言えば学術論文に近いのかな。
●ひぇー、むずかしそう。
■もちろん正式の論文じゃないけどね。読むのは大学の先生だから、それが いちばん慣れているだろうし、何より学問的訓練に耐える能力かどうかを 見たいわけだからね。
●高校の作文のつもりでいると、ひどい目に遭いそうですね。
■大学の先生もひどいレポートは読みたくないからね。ちゃんとしたレポー トが書ける人を選びたいというのが、本音らしいんだけどね。
●読者が違うと書き方も違うのですね。
■コラムや社説は論理を省略することも多いし、複雑な理屈にはふれないこともあるんだ。学問では明確さが大切だ。だから、結論も常識をなぞったものになる。
●小論文を書くときは、社説やコラムをお手本にしてはいけないんですね。
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