早稲田大学ロースクールから第二番目の課題が発表になりました。
 どう考えたらよいか、課題への取り組み方を吉岡がアドバイスします。

「これまでの人生において,自らの道徳観に照らし,どう行動すべきか悩んだことがあると思います。その状況を説明し,その時に下した判断が妥当であったかどうかについて,1500字以内で述べてください」

 面白い問題ですね。少なくとも去年の新聞記事の問題よりは、ディレンマ状況であるだけ、法科っぽい感じがします。何を書いたらいいか悩んでいる、という人が何人も連絡してきました。「道徳観」なんてよく分からないし…などという意見が多かった。
 でも、考え方はそんなに難しくないと思いますよ。「道徳観」なんて言ったって、「あなたなりの道徳の考え方」という意味に過ぎないんですから。だれだって、善悪についての考え方は持っていますよね。それが道徳、つまり価値の見方です。
 したがって、「自らの道徳観」では、自分の善悪の基準をどう規定するか、がポイントになります。公平とか正義とか寛容とか平等とか、あるいは「弱者への同情」とか、自分の行動の基礎となる善悪の基準は誰でも持っているでしょう。しかし、その基準のうち、何を優先するかは、人それぞれですよね。たとえば、かつて「機会の平等」と「結果の平等」なんて表現がよく使われました。同じ平等でも、善悪の基準がずれているわけですね。あなたの善悪の基準は何か? これが第一の問題です。
 もう一つのポイントは「どう行動すべきか悩んだ」です。つまり、そういう道徳観に反するような出来事があったのに、自分の信条通りに行動できないなかった、とか、ある出来事があった場合に、善悪どちらに判断していいか分からなかった、というような状況があるわけですね。それが何か、ということです。これも、その人の体験によって違う。
 すぐ思いつくのが、「いじめ」とか「リストラ」などでしょう。前者は集団への同調と正義の矛盾、後者は会社の利益と個人の生活の矛盾、あるいは友人から「悪事」を勧められた、などという状況も友情と正義の矛盾があるかもしれない。社会科学的な発想でよくあるのは、「救命艇」問題なんか典型的でしょうね。時間やお金など限界があるために、恣意的な基準で誰かを切り捨てねばならない状況です。これは道徳的に正しいか? あるいは、去年、関西学院で出題された「内部告発」の問題なども入るかもしれませんね。明らかに不正なことが行われている。それに対してどうすればいいか、などです。…の箇所は中略してあります。


2004 関西学院大[未修]90分

 Kさんがある洋菓子製造販売会社のあるチェーン店に勤め始めてから,3ヶ月がたった。よく知られたチェーン店でその店のことは子供のころから知っており,その店に就職できたことをKさんは誇りに思っていた。…
 しかし,ある日Kさんは,とても困ったことに気がついた。…たくさんの種類のケーキは毎日どれか必ず売れ残った。…そのケーキを工場に持って帰って,生クリームのところを塗り替えたりして,翌日には,新品のものと区別された印がついて戻ってきていたのだ。…
 お客様には「生ものですから本日中にお召し上がりください」というシールを貼って売っているのに,実際には2日間,あるいはひどい場合には4日間手直ししつつではあるけれど売り続けることがあったのだ。…Kさんはこういうことを承知でお客様が買っていればいいのであろうけれど,全然知らずに買って行くのだし,味が落ちたケーキを売るのには良心がとがめた。…(後略)


 気をつけなくてはならないのは、この問題は別に「道徳的な人間」を見分けるための設問ではないということです。むしろ、道徳とは何か? 正義とは何か? それが社会の中でどう現れるのか? なぜ正義は実現しにくいか? などの問題意識を見るという性格が強いのです。だから、「私は道徳的であった」ないし「道徳的ではなかったが、今は悔いている」などと自分が善人であることを強調する必要はありません。。それより、正義や道徳が社会の現実の中でいかに困難なものか、なぜ困難になるのか、などを分析した方がよいと思います。理想より、現実の認識が深い方がよいと思いますね。

 日頃の問題意識が問われる設問だと思います。時間があまりないですが、がんばりましょう! 

戻る