一般読者向け | ||||
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たとえるなら、道路標識でしょう。これまでスピードを出してきたのに「カーヴが続く」と言う標識を見れば、とっさにブレーキを踏んで、スピードを落とせば、楽に曲がれます。その差は、ほんの少しなのですが、それが積み重なって、結果的にドライヴの楽しさを決めます。 ちょうど同じように、「だが」という接続詞が出てくれば、次の内容は今までと逆だな、と分かって身構えるし、「たとえば」が出てくれば、今まで理屈っぽくて分かりにくいな、と感じていたことが解決できるかも、と期待して読んでいく。その差はやっぱりほんの少しなのですが、それが読書体験がスムーズかどうかを決めるわけです。 文章を書くときも、そのような読者のあり方をイメージして、適切な接続詞を使えば、読みやすく分かりやすい文章になります。それどころか、今までどう考えていいか、どんな表現をしていいか、迷っていたところも、内容が整理されるので、自然と決まってくる効果もあります。 それなのに、接続詞は、今まで冷遇されてきました。根本には、文豪谷崎潤一郎『文章読本』で、接続詞は「文章の重厚さを削ぐ」と批判されたことがあるでしょう。しかし、谷崎の批判は、彼が「小説」の書き手だったことと密接な関係があります。論理的文章だと、接続詞の機能が、小説とは桁違いに重要になります。ところが、小説家には、そういう事情が見えなかった。だから、接続詞など要らないと述べたのです。 この本では、そういう「常識」に真っ向から挑み、接続詞の使い方次第で、文章の明瞭さが大きく影響を受けることを、例文とともに丁寧に、しかし簡潔に解説しました。ちょっとしたことに気をつけるだけで、文章レベルが大きく変わることが実感できると思います。 文法学者の石黒圭氏の『文章は接続詞で決まる』もよい本ですが、例文を、小説や新聞記事から取っているので、「接続詞の意味」の鑑賞・確認という性格の方が強くなっているように思います。本書では、接続詞が一番力を発揮する論理的文章の分野を中心に例文を集め、その機能と意味を実感できるように工夫しました。ぜひ、接続詞の使い方に習熟して、わかりやすい文章を書く力を養ってください。
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