一般読者向け | ||||
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私が、論文の書き方に自覚的になったのは、シカゴ大学の大学院で、本書の元になる講義・演習を受けたのがきっかけです。それまでは、論文に一定の書き方があるとは思いもしませんでした。 明瞭に言いたいことを伝えるには、しっかりした覚悟や心がけを持つだけでは足りません。注意する勘所や、構成の仕方、はては表現のあり方まで、確立された方法があります。それを守っていけば、ある程度、ちゃんとした文章が書ける。なぜなら、その方法は、先人たちが苦労して開発してきた手法だからです。それが「シカゴ・スタイル」です。 たしかに、それは英語の技術ですが、方法の根幹は世界共通です。私は、この方法について、フランス人にもドイツ人にも確認しましたが、異口同音に「こういう方法は自国と同じだ」と言われました。 もちろん、国により、論理的文章の叙述方法に違いはあります。たとえば、フランス語では反対意見にも十分考慮した「弁証法的な叙述」が重視されます。そのため、フランス語の文章では、段落は英語論文に比べて長くなりがちです。しかし、そうはいっても、共通するテクニックは少なくありません。 それに対して、日本では、その共通テクニックの確認なしで文章を書く傾向があります。そのため、せっかく内容は悪くないのに、言いたいことが伝わりにくかったり、良いアイディアなのに論理的展開が不十分なために、途中でステレオタイプの叙述に落ち込んだり、ということがよくあります。 この本では、その原理を十分に解き明かし、読者が自分の文章に適用できるように法則化しました。また、例文も厳選し、書き方が違うと明瞭さが変わることを直感できるようにしました。 「シカゴ・スタイル」は、アメリカでも論文の書き方として、ある意味、ブランド化しています。ただ、日本では、注の書き方や参考文献の挙げ方など、形式的な面の紹介はあっても、書き方が、思考の経路にまで影響を与える、という重要な側面が十分言われてこなかったのではないかと思います。 この本の特徴は、そうした文章の書き方=思考の仕方の土台から、丁寧に分かりやすく、かつ具体的に解説したことにあります。ぜひ座右において、論理的文章と思考のレベル・アップにお役立てください。
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