7 「環境問題」をどう心配したらいいか?
 vous avez raisonの第7回目です。久しぶりの更新になってしまいました。
 今年の法科大学院では、環境問題が小論文問題として出そうだというもっぱらの噂になっています。公務員のための本で環境について書いた記事で、下のような質問が来ました。エコを支持する人の典型的な反応だと思いますので、紹介させていただきます。



 『論文試験頻出テーマのまとめ方 2009年度版―地方上級・国家2種市役所上・中級 (2009)』という本を先日買い、現在公務員試験地方上級二次試験に向けて勉強しています。この本の内容について疑問に思う点がありましたので、メールにて連絡させていただきました。ご拝読していただければ幸いです。
 
 
P138 地球温暖化についてのくだりに『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』 と言う本を用いられていますが、この本から引用されたくだりこそがウソだらけなので新しい資料の検索などし、訂正を行うべきだと思います。
 
 まず温暖化現象についてはIPCCの第三次報告書では地球平均気温が0.6±0.2℃上昇し、高さ8kmでの大気の気温は過去40年上昇を続けていると書かれています。
 
 地球温暖化における海面上昇の原因は熱による海水面の膨張であるというのが根拠となっており、アルキメデスの原理は関係ありません。 また、地球温暖化による影響と経済的な損失を秤にかけた記述がありますが、地球温暖化に懐疑的な立場の意見ばかりを取り上げた結論になっています。
 
 地球温暖化で食料生産が増えると言う主張も誰がいったい何を作るんだと言う根本的な議論が忘れられている気がします。 地球温暖化は海面上昇も層ですし、伝染病の影響、農業への影響、生態系への影響と非常に深刻だととらえる立場の意見もあります。 アルゴス・ゴア氏の「不都合な真実」の世界的な反響(科学的な根拠が無い点もいくつあることか裁判で立証されましたが)、G8と新興国の地球温暖化に向けた協力の合意といい地球温暖化へ懐疑的な立場と言うものの方がむしろ少数な気もします。

 両者の意見があり結論が出ていないとするのならばP139〜140の 『京都議定書通りにしたところで、温暖化にはほとんど影響を与えないのなら、これらの犠牲は何の意味があろうか?』という結論での終わり方には不公平さを感じずにはいられません。
 
 地球温暖化への懐疑的な意見はそのほとんどが科学的な根拠の無いものです。
 次のページから著名な気象学者たちが合同で作成したコメントが見られますので参照されるといいと思います。
http://www.cir.tohoku.ac.jp/~asuka/

 P191 地方選挙であっても外国人の選挙権・被選挙権は認められていない?
 
 最判平7.2.28 平7重判8によると、確かに本書の通り、永住外国人(または定住外国人)の地方参政権について、最高裁では「憲法上保障されていない」という判断が出されています。しかし、同時に「法律によって地方参政権を付与することは憲法上禁止されているものではない」という最高裁の憲法解釈も出されています。

 現時点では地方選挙においても外国人には参政権が整備されてはいませんが、法の整備などによって外国人に参政権を与えることについては禁止されているはけではないという趣旨です。この事から見ると『公権力を行使する職業では、外国人は適当でない』と言う理論は判例にそぐわないものだと思います。外国人の参政権について法令により善処できると言う趣旨の文言は公務員試験の教養問題のあらゆる参考書に書かれており、受験生に混乱をきたすものだと思います。


Aさん

 なかなか激しい質問ですね。間違いがあるから、訂正せよというわけです。実は、私はこういう反応は予期していました。せっかくですから、一問一答の形で答えたいと思います。VOCABOWの実行しているソクラテス・メソッドの雰囲気を少しでも感じていただければ幸いです。

質問と回答
P138

地球温暖化についてのくだりに『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』 と言う本を用いられていますが、この本から引用されたくだりこそがウソだらけなので新しい資料の検索などし、訂正を行うべきだと思います。

  温暖化問題に関しては、さまざまな意見があり、近年懐疑論も出てきました。それについては議論があるかと思いますが、両論併記すべきだと私は思います。「ウソだらけ」という批判があることは知っていますが、彼の意見には一定の支持があることも忘れてはなりません。だとすれば「ウソだらけ」と罵るより、冷静に論破するなり根拠を出すなりすべきではないか、と思います。

 まず温暖化現象についてはIPCCの第三次報告書では地球平均気温が0.6±0.2℃上昇し、高さ8kmでの大気の気温は過去40年上昇を続けていると書かれています。

 これは証拠としては弱い、と思います。なぜなら、IPCCの報告書自体、信用性については議論があると言われているからです。温暖化については、結局コンピュータ・シミュレーションの問題であり、数値がちょっと違うだけで、大きく結果が違ってしまうと言われています。実際、別のシミュレーションでは「地球寒冷化」という結論も出ているらしい。報告書で書かれているという論拠だけで、信用して良いのでしょうか?

 これらの議論については薬師院仁志『地球温暖化論への挑戦』の議論が説得的だと思いますので、ご参照ください。もちろん、この本はデータが古いという批判はありますが、それだけで彼の主張を否定するわけにはいかないと思います。

http://www.amazon.co.jp/地球温暖化論への挑戦-薬師院-仁志/dp/4842912286/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1215998285&sr=8-1

 地球温暖化における海面上昇の原因は熱による海水面の膨張であるというのが根拠となっており、アルキメデスの原理は関係ありません。

 
 ただ北極の氷が溶けて、海面上昇が上昇するという説明は広く行われていましたよね。それに対する反対意見としては、アルキメデスの原理による反論は、よくできていると思いますよ。
 そもそも氷が溶けるという説明がいったん通用しなくなると、今度は熱による海水面の膨張を持ち出すというのは、根拠のすり替えになり、フェアな議論にはならないと思います。北極の氷が溶けるという説明が流布していたとき、なぜその説明は違うぞと「環境科学者」たちは力説しなかったのでしょうか? 温暖化が悪いというイメージがあれば、何でも良いと言うことですか? それじゃ科学者としてちょっと不誠実ではないですか?
 
 また、地球温暖化による影響と経済的な損失を秤にかけた記述がありますが、地球温暖化に懐疑的な立場の意見ばかりを取り上げた結論になっています。
 地球温暖化で食料生産が増えると言う主張も誰がいったい何を作るんだと言う根本的な議論が忘れられている気がします。


 そうではありません。現在、温暖化論ばかりが脚光を浴びる中で、それに対する懐疑論もちゃんとあるのだ、ということは認識すべきだと思うのです。そもそも温暖化を論ずる者が、温暖化の否定的な側面ばかりを強調していたのはフェアではないでしょう。アンフェアな議論をしていては、不信感をもたれても仕方ないと思います。

 「誰がいったい何を作るんだ」と言いますが、それはあなたや私が心配しなくても、自然が決めてくれるはずです。暖かくなれば、今まで米が作れなかったところでも、米が作れるようになる可能性は出てくるでしょう。
 
 私は東北生まれですので、温暖化になったら、夏が暑くなって、農業生産とくに米作はずいぶん楽になるだろうなと思います。何年かにいっぺん、冷害で苦しんでいるのですからね。こういう気持ちは切実なものがある。北海道の人だって、そう思うでしょう。
 
 こういうように、温暖化になっても悪いことは何もないという議論だって、ちゃんとたてられることを、エコ派の人たちも認めねばならないと思います。それをあえて無視するのでは、知的に不誠実と言われても仕方ありません。

 地球温暖化は海面上昇もそうですし、伝染病の影響、農業への影響、生態系への影響と非常に深刻だととらえる立場の意見もあります。

 「非常に深刻だととらえる立場の意見もあります」ということは、もちろん、深刻ではないというとらえ方もあるということを意味しますよね。これは根拠になっていないと思います。

 アルゴス・ゴア氏(ママ)の「不都合な真実」の世界的な反響(科学的な根拠が無い点もいくつあることか裁判で立証されましたが)、G8と新興国の地球温暖化に向けた協力の合意といい地球温暖化へ懐疑的な立場と言うものの方がむしろ少数な気もします。


 これは論点のすり替えではないでしょうか? 少数であるからと言って、ある意見が間違っているとはいえません。要はどちらが合理的か、事実と合っているか、ということです。充分決着が付いていないのなら、そう書くべきです。

 「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は大ざっぱな知識を提供しつつ、自分で考える際のネタを提供するのが役目です。こちらの説が正しいと主張するための本ではありません。むしろ問題の論争的な性格を強調して、論文を書きやすくする必要があります。ご存知のように、論文とは、共通の問題に対して、自分なりの解決の形を取ってはじめて書けるものであり、書くためには、対立・矛盾を探さねばなりませんからね。

 その意味で、温暖化の方に世論やマスコミがどんどん引っ張られている中で、強力な反対意見があることを取り上げるのは、環境問題を見直し、自分で考える契機になるのではないでしょうか? 環境問題への懐疑論をやや強調して取り上げるのは、むしろこの本の性格上当然ではないかと思います。

 両者の意見があり結論が出ていないとするのならばP139〜140の『京都議定書通りにしたところで、温暖化にはほとんど影響を与えないのなら、これらの犠牲は何の意味があろうか?』という結論での終わり方には不公平さを感じずにはいられません。


 どのくらい影響を与えるのか、不明なままに、政治的合意だけが進行するのはおかしいのではないか、という懐疑を表明したのです。ここでも論争的性格を強調しています。
 
 
そもそも、こういう風にあなたがわざわざ反対意見を書いてよこす、ということ自体、この記述は意味があったことになるのではないでしょうか? あなたと私の間で、議論を巻き起こしたわけですから。

 地球温暖化への懐疑的な意見はそのほとんどが科学的な根拠の無いものです。 このページから著名な気象学者たちが合同で作成したコメントが見られますので参照されるといいと思います。 http://www.cir.tohoku.ac.jp/~asuka/

 科学的な根拠については、いろいろ議論があるところです。現在の所、決着がついていないのなら、とくに温暖化に与する理由はありませんし、温暖化論が現在のところ強いのなら、それに対する懐疑も忘れないようにしたいですね。

 他方で、学者たちがいかにいい加減なことを言うかは、私にも苦い思い出があります。科学研究費を欲しいために、マスコミ受けの良いことを趣致要したがる癖があります。

 たとえば「青少年の犯罪増加」について。前に一度、東大出版会から出た著名な刑法学者の「少年犯罪」についての本をデータに使ったのですが、2、3年してそれが完全に間違っていることが明らかになりました。解釈の捏造・論理のすり替えに近い悪質なものです。

 著名な学者がここまでするのか、とさすがに呆然としました。それ以来、私は「著名な学者」の見解には気をつけることにしています。あなたも、「著名な学者」の見解だからといって、すぐ信用しないことが必要だと思いますよ。

P191
 地方選挙であっても外国人の選挙権・被選挙権は認められていない


 最判平7.2.28 平7重判8によると
 確かに本書の通り永住外国人(または定住外国人)の地方参政権について最高裁では「憲法上保障されていない」という判断が出されています。 しかし、同時に「法律によって地方参政権を付与することは憲法上禁止されているものではない」という最高裁の憲法解釈も出されています。
 現時点では地方選挙においても外国人には参政権が整備されてはいませんが、法の整備などによって外国人に参政権を与えることについては禁止されているはけでは無いという趣旨です。
 この事から見ると『公権力を行使する職業では、外国人は適当でない』と言う理論は判例にそぐわないものだと思います。外国人の参政権について法令により善処できると言う趣旨の文言は公務員試験の教養問題のあらゆる参考書に書かれており、受験生に混乱をきたすものだと思います。


 ここでは、政府の見解について述べているので、それについて私が判断をしているところではありません。お読み間違えのないように。私自身の意見は、外国人に参政権を与えてもいい、という立場です。しかし、ここは、別にその意見を言うべき所ではありません。最高裁の判決も、結局どうとでも解釈できるようになっているだけでしょう。外国人の参政権について法令により善処できる、とまでは言っていないと思います。
 
 ここに限りませんが、あなたの論の進め方は「…という意見・解釈もある」というところから、一気に「ここから考えると、結論はこうだ」と進んでいます。これは、温暖化でも外国人の選挙権についても、同じ構造ですね。これは論理的に少しおかしいと思います。二つの意見・解釈があるなら、どうして片一方だけを取らねばならないのでしょうか? この飛躍に、私はちょっと危惧するのですが、いかがでしょうか?
吉岡 友治