5 法科大学院受験で、どのくらい英語を勉強すればいいの? |
Vous avez raisonの第5回目です。理系の専門職に就いているTさんから、英語の勉強について次のような質問が来ました。英語習得に頭を悩ませるというのは、現在の日本人共通の問題になっているようですね。吉岡が答えます。 VOCABOWのホームページやシニアのロースクール日記を読んでいると、TOEICやTOEFLのことがよく書いてあります。適性試験が悪かったけど、TOEICで挽回できたとか… でも、法科大学院の試験の場合は、TOEICやTOEFLの勉強は、適性試験、小論文ともにどうなるのだろうという不安を増すだけのように思われます。実際、私も1回受けたのですが400点台中頃で、あまりの悪さに再受験をしても得点源どころか足を引っ張るばかりかと思われます。 この時は1ヶ月の準備後に受けたのですが、基礎英語毎日1時間、対策本1冊を数回復習、毎日の単語のインプットです。準備をする過程で感じたのは、リスニングが短期間で能力向上するのはかなり難しいこと、リーディングは殆ど縁のなかったビジネス用語を新規に覚えるのは頭に入らないこと、ビジネスになじんでいないのでシチュエーションのイメージがわかず、経験値、想像力で記憶力を補えないこと、などです。時間当たりの効率が非常に悪い。それでも努力すれば多少は報われるとは思いますが、リスニングは絶望的な気がします。 それに比べ、小論文や志望理由書は、意識して新聞や本を読むようになってから、9月の10月の頃よりは、イメージや知識が少しづつでも蓄積されているような気がしますし、若い人に比べてスタートラインや基礎力が著しく劣っていないので、やる気もでますし効率もいいように思えます。 仕事を続けながら小論文の勉強と適性試験対策に加えて、英語力をあげようとしていては、結局中途半端になり、失敗してしまう感じがします。実際TOEICの準備をしている間、本を読む時間が殆どとれませんでした。 私のような社会人では、今まで英語を使わなくても仕事上困らないという人が多いと思います。そのため特別に勉強もしない、だからますます能力がおちる。結局、スタートラインが低すぎて、勝負にならないので、TOEICに時間をかけるのは他の足を引っ張るだけのように思います。私は法科大学院で勉強したい気持ちは強いのですが、英語をそのために勉強するのは、ちょっと辛すぎる感じがします。(悩めるロースクール受験生) |
質問への回答です。 Tさん 今、ちょうど出版界は「リスニング・バブル」の真っ最中のようです。来年からのセンター試験のリスニング必須をうけて、教材が飛ぶように売れているのだとか…。高校現場などでは、まったくノウハウがないので、前年度20%の売り上げ増加などということもあるらしい。 ただし法科大学院受験に限って言えば、英語は必ずしもメインの科目ではないことを確認しておかなくてはなりません。適性試験とステートメント、それに小論文と面接というのが、基本4点セットであり、英語はそれと並べられる地位にはありません。 それでも、一部の学校では、英語の点数が高い人は、それを一定程度適性試験の点数に加味して考慮するという場合はあるようです。「シニアのロースクール日記」の仁賀さんは、その制度を十分に生かして合格されたわけですね。これにはある事情が影響しているものと思われます。 適性試験の第一部の内容は論理学の基礎なのですが、これは特殊な訓練が必要です(第二部はそうでもないのですが)。つまり、かなり狭い範囲の能力だということですね。だから、これらの学校ではそれ以外の能力も積極的に考慮しようと、語学能力を入れているわけです。英語が得意な人なら適性試験が悪くともある程度取り返しがつくという文脈なのです。 ここから考えれば、英語の能力は得意な人が利用すべきものであって、苦手な人が「やらなければならない」ものとは違うと考えて良いと思います。実際、正直言うとTさんの現在の点数は、これから勉強して、このような「考慮」に引っかかるレベルに持ち込むのはかなり難しいと思いますよ。 一般的に言って、外国語能力は基本的に時間がかかります。しかも、そのプロセスでshadowingなど子供扱いされるような訓練法を耐えなければなりません。ある程度出来ている人が余裕があってやるのなら良いのですが、大人になってから、能力を上げるのはかなり厳しいと思います。 私もTOEFLを受けたときには、ほとんど毎日英語を1〜2時間は聞いているという状態でした。終わるとぐったりして本を読むどころではありません。もう二度とああいう経験はしたくない。柳田国男は中年になってからは、もう外国語はやるまいと決めたそうです。時間のロスが多すぎるのですね。Tさんも書いていらしたように、本気で外国語をやると、他のことが出来なくなるのが普通です。 薬師院仁志の『英語を学ぶとバカになる』という本では、外国語を学ぶとはどういうことか、社会学的に考察されており、興味深い本です。外国語に恨みがある人は、ぜひ一読を勧めます。英語を学ぶことがキャリア・アップにつながるなどという思いこみがいかに根拠のないことか、外国語が上手になる条件とは何なのか、なるほどと思いますよ。 一方で、弁護士が仕事の上で英語を必要とするシチュエーションは多くないと思われます。英米法と日本の法律では成り立ちもシステムも大きく違いますから、英語の文献を知らなければ勉強に困るということでもないでしょう(もちろん、比較するのはとても興味深いのですが)。だから、TOEIC何点以上という制限を明示している法科大学院が多くないのだと思われます。 むしろ、Tさんの場合は今までなさった仕事に専門性があるのですから、そこを利用した方がよいと思いますよ。法律以外に専門を持つということは、その分野に法律をすぐ応用できるということですから、高く評価されるはずです。後は適性を平均より得点でき、志望理由書・小論文で得点を上げれば結果はついてくると思います。 仁賀さんだってアメリカの法人経験が長く、英語がうまいということが、一つの「専門性」だったわけです。Tさんは別の「専門性」を持っているのですから、それを十分に利用することをまず考えましょうね。そういえば、TさんはReal Schoolにいらっしゃるのでしたね? 過去に同じような専門を持った受講生の志望理由書の例もありますので、その内容を具体的にご紹介できると思います。もちろん、個人情報は秘匿しますが、かなり細かいところまで、その分野と法律の関わりが分かると思いますよ。 |