シニアのロースクール日記(92005年7月

      
7月15日(金) パウエル前長官がやって来た。

 アメリカの前国務長官パウエルさんが関学にやって来て、講演会が開かれた。読売新聞との共催である。学生には抽選で聴講券が配布されたが、あいにく抽選は外れた。ところが、関学アメリカ研究会とNPO法人が共同で出版する高校生用教科書「アメリカ新発見」の執筆者に名を連ねていたので、運良く聴講券を手に入れることができた。学生と一般の聴衆合わせて約1300名を前にして、日米のパートナーシップの重要性、世界の課題、特に現在のアメリカの関心事であるイラク、アフガニスタン、中東問題の解決が緊急課題であると強調されていた。
 内容は特に目新しいものはなく、アメリカのイラク政策を正当化することに終始していた。興味があったのは、学生の「学生時代の経験が仕事にどう活かされたか」という質問に対する答えであった。「ひとつは失敗から学ぶ姿勢を持つこと、もうひとつは自国語をしっかりと勉強し身につけることである。とくに言語を習得しなければ、正確なコミュニケーションもできないし、学問するために必要な技術が身につかない」というような趣旨の回答をされた。
 この自国語の習得に関して、最近こんなことがあった。期末試験を控えて憲法のグループ学習をしていた時のことである。表現の自由を勉強していたとき、猥褻概念が問題になった。猥褻の定義に及んで、ある学生が「性的差恥心(さちしん)」という。「羞恥心(しゅうちしん)」のことを「差恥心」と覚えているらしい。たしかに「羞」と「差」は字が似ているとはいえ、「差恥心」と言う言葉はない。辞書で確かめてほしいと思った。もっとも、授業で配布されたレジメも「差恥心」になっていて、疑問をもたずにそのまま覚えてしまったらしい。
 先生に指摘すると、元の判例からスキャンして教材を作ったが、その時にミスが発生したとのことだ。

7月28日(木) 期末試験終了

 中間試験がやっと終わったと思うやいなや、すぐに期末試験になり今日全科目の試験が終了した。憲法2科目、民法2科目、民事訴訟法、刑法、英米法の全部で7科目である。成績の発表は8月10日である。特に大失敗した科目はなく、民法2科目、民事訴訟法、刑法は完璧に近い答案を作成できたと思っている。
 試験勉強を通じて考えたことがある。試験の1週間前までにしておくことと、試験前日にすることは違うということだ。1週間前までは基本知識の復習を行い、どの部分が重要なところかを把握することである。このために講義ノートの整備のほかに、科目ごとの用語集を作った。
 試験前日は、その重要部分に絞って知識に確認をすると同時に、予想問題を作って答案を書く練習をすることだ。試験は論文試験だから表現力が試される。予想問題を作ること自体が勉強になる。というのは、重要な点の確認が出来るしバリエーションも作ることができ、どのような場合にも対応できるからだ。民法では、種類物の特定時期と危険負担の問題を予想していたが、単純に特定物の危険負担についての問題が出た。不法行為の問題では、共同不法行為によって後遺障害が発生した場合の問題を予想していたが、監督者責任と後遺障害の問題だった。この予想問題をもとに、答案を書く練習をしておくとどのような問題が出ても慌てないで対応できる。憲法の問題は「憲法○○条は・・・と規定している。この趣旨は明治憲法の下で・・・」と言うように書けば、どのような問題にも対応できることがわかった。
 試験終了後、夏休みに行う「憲法判例を読む会」の参加者に進め方の説明をした。参加者9名のうち、女子学生が6名である。これだけで判断するのは危険であるが、なんとなく女子のほうが勉学意欲に富んでいるように思う。一方で、男子学生は試験終了の打ち上げ会と称して、酒を飲むことを企画している。今回は、ゼミのレポート提出が残っていることを理由にして、飲み会の参加は断った。クラスの半分以上が参加を見合わせたという。

 7月30日(土) カップルが生まれたり、壊れたり

 今日から夏休みだが、学校に来て「憲法判例を読む会」や秋学期の予習をすることにした。刑法各論のノートを作る合間に、この日記を書いている。
 あっという間の4ヶ月であった。この間、30人のクラスの大半が若い男女であるためか、結構カップルが生まれたらしい。あまり誰と誰がカップルになっているということには興味はない。しかし、中には公然と人目をはばからない行動をとる二人もいる。
 試験前のある日のこと、一人の女子学生がやってきて相談があるという。付き合っていた男がいたが、3日前に別れたとのことだ。振ったのか振られたのか詮索しなかったが、この3日間悩み続け試験勉強に手がつかないという。「年頃だから、男を好きになるのは不自然ではないけれど、現実をよく見る必要がある。クラスの全員が合格できるわけではない。ましてや未修クラスの合格率は既習より低いと思う。将来の身分が不安定な男に自分の一生を託すことを考えるのは早すぎる。まず自分自身が自立できるよう学習に打ち込むことに集中しないさい」とさとした。その夜、「気持ちがふっ切れました。いまから勉強に集中します。」というメールが入り一安心した。その後、予想問題を送ってきてくれたりして勉強に熱が入っていることがわかった。
 今日はオープンキャンパスとかで、高校生と親が大勢きている。自習室の外では、蝉が元気に鳴いている。


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