シニアのロースクール日記(7)2005年5月

 5月の連休も終わり、生活のリズムがつかめるようになってきた。週末に翌週分を予習、ノートを作成し、月曜から金曜日までは、その日の内に復習してしまうという日課を繰り返している。5月半ばに中間テストの日程が発表され、余裕時間が少なくなり、これまで日記風に書いてきたが、ひと月分をまとめて記すことにした。

 
1. 学生の勉学に臨む姿勢:二極化

 入学後、一ヶ月で印象をいうのは早すぎるかも知れないが、二極分化してきたように思う。その一つが授業の受け方だ。大半は、先生の言葉を聞き逃さないように熱心にノートを取っている。その一方でノートをとらずに、ただ教科書をながめているだけの学生がいる。先生の講義は、限られた時間で重要な点だけを話している。だから。しっかりノートをとっておけば、そのノートが試験対策に使えるはずだ。またノートをとること自体が集中力の訓練になる。

 今月から、教学補佐といわれる3年生を講師にした補習授業が始まった。憲法、民法、刑法の3科目が開講され、午後6時半から8時の6時限目に行われる。講師は来年の第1回新司法試験の受験を控えている。にもかかわらず、講義資料を作成して丁寧な説明をしてくれる。学生としての経験から、何処が一番理解しにくいのかを心得ているので、的を絞った話しが聞ける。例えば、刑法についていうと論文の書き方のポイントを教えてくれる。いずれの講師も、現行司法試験受験経験を持っている人たちだ。だから,講義の内容も予備校風になり、マニュアルの伝授といった色彩が多い。しかし、とにかく、現行試験のマニュアルを理解したうえで、新司法試験に臨む勉強法を自ら考え出して行きたい。
 対象は未修者だ。今年の未修者は約60名入学したが、補習に出てくるのは15名程度で意外に少ない。

2. 実務家教員の臨時講義

 関学が他校に比べて誇っていることの一つは、実務家教員が充実していることだ。その多くは弁護士だが、現職の地裁判事もいる。この実務家教員の授業を受けられるのは、2年生からだが、学生が将来の方向を考えるための参考として、年間8回の講話が計画された。今月は二人の弁護士の経験を聞く機会に恵まれた。その内の一人は、少年事件を専門にする人だ。同時に原爆症認定集団訴訟で中心的役割をしておられる。もう一人は、人権派の弁護士だ。この人は大企業の弁護や、やくざの依頼には一切応じない。社会的弱者といわれる人々の相談に応じているという。この人によると、やくざの弁護を引き受けるのは、元検事が多いとのことだ。現職時代から腐れ縁があるようだ。

3.「護憲派」憲法学者、奥平康弘氏の講演

 5月は憲法記念日がある月だ。これにちなんで、学部学生を対象にして「護憲派」憲法学者、奥平康弘氏を招いて講演会が計画され、聴講した。昨年結成された「9条の会」のメンバーの一人でもある。
 戦後、9条の解釈が次第に変更され自衛隊の存在が容認されてきた歴史的経過を話された。憲法の改正が、急に日程に上るようになったのは、集団的自衛権の問題、自衛隊のイラク派兵は従来の解釈では合理的に自衛隊の合憲性を政府が説明できなくなったからだという。特に、法律の厳密な解釈をしている内閣法制局が問題にしている。
 奥平先生によると、現実に合わせて法律や規則を変えることは、理想の実現に向けて障害になる。アメリカは南北戦争の後の1865年に、憲法の改正が行われ修正13条で奴隷制度が廃止された。しかし、その後も分離しても施設が利用できれば差別ではないとの理屈で、長いあいだ黒人差別が続いた。公民権法に黒人の投票権強化がおりこまれたのは、百年後の1965年の事である。

3. ゼミで『報道と人権』をレポート

 約1年前に、吉岡先生の「小論文添削講座」を受講し始めた。2回目の問題が「隣人訴訟」であった。この問題をゼミの題材にして、イラク人質報道との共通性にも注目し関連つけながら、マスメディアの人権侵害をレポートすることにした。
 事件は1977年に、三重県の新興住宅団地で起こった。買い物に行く主婦が、隣人に子供を預けたが、目を離したすきに溜池に落ち水死した。そこで、隣人相手に、契約不履行と不法行為責任を問い、損害賠償請求をした。6年後の1983年に津地裁が、過失相殺を認めたものの隣人に526万円の損害賠償をするよう命じられた。この判決は、センセーショナルな見出しで報道されると、全国から原告に誹謗中傷の電話が数百本寄せられた。原告は耐えられず、訴えを取り下げた。その後、法務省から異例の声名が出され「裁判の受ける権利」を奪う事のないようにと、国民に呼びかけられた。
 ゼミのテーマは、訴えを取り下げた原告をどのような法律構成で保護することができるかを考えることだ。
 原告が侵害された権利は、確かに「裁判を受ける権利」である。しかし、この権利を主張できる相手は国だ。この場合、国は「裁判を受ける権利」を奪っているわけではない。原告は一審判決で526万を請求する権利が発生した。しかし、これは確定したわけではない。原告は不特定多数の電話によって精神的苦痛を負った。これに対する損害賠償請求をする。そこで、被告を3つに設定して法律構成を考える事にした。  一番目は報道機関に対して共同不法行為の責任を問う。民事訴訟の報道をするに当たっては、その記事によって当事者に発生する事態を予見する義務と結果回避義務がある。にもかかわらず、注意義務を怠った過失がある。第2番目の相手はNTTだ。全国から電話が殺到したのは、NTTが原告の電話番号を開示したからで、電話加入契約に違反する。さらに弁護士に対して、和解する機会があったのに逃した。委任契約の債務不履行責任がある。
 多少、頭の体操的なところがあるが考える訓練にはなる。

4. 中間テスト

 5月31日に憲法統治機構の中間テストが実施された。第1問は政党助成法の合憲性を問うものである。2問は、内閣の法案提出権の問題であった。予習を十分にしていたので、それほど苦労することなく書けた。来週は民法不法行為の試験がある。かなり高度の問題を出題するという予告があった。そこで昨年の問題を題材にして、早朝から学校に来ているもの7名で、答案作成の方法を研究するグループ学習をすることにした。今後、このグループを核にして「憲法判例を読む会」を組織しようと考えている。

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