シニアのロースクール日記(332007年7月   
    

7月4日(水) 若手弁護士による文章指導        
 
 3年生を対象に民事系と刑事系の「文章力アップ講座」が授業外で開設されている。民関西在住の若手弁護士が問題作成を依頼し、添削してもらう仕組みになっている。約120名の学生を4つのクラスに分け、4人の講師が添削と解説を担当する。今日は、2週間前に行われた刑事系の試験の解説が行われた。

 問題は、実際に北海道で起こった事件をベースにしている。要約すると以下のようなものであった。

 「甲、乙の二人の男がレイプしようと計画し、通行中の女性を無理矢理に車に乗せた。人目につかない場所まで車を走らせ、二人は容易にレイプできるように、殴って失神させた。二人は失神させた女性をレイプした。行為が終わった後に、乙が財布を奪った。深夜、旭川市内まで車で戻り、被害女性を路上に放置した。甲、乙の罪責を述べよ。」

 刑法答案の書き方については、一定のパターンがある。すなわち、加害者の行為に着目して、刑法のどの構成要件に該当するかを考える方法である。「車に無理矢理に乗せた」行為は、監禁罪、「殴った」行為は傷害罪、二人で「レイプした」行為は集団強姦罪、「財布を奪った」行為は窃盗罪、「路上に放置した」行為は、保護責任者遺棄罪とした。

 一つ一つ加害者の行為を拾い上げ、上記のような答案を作成したところ、落第点をつけられてしまった。若手弁護士の解説によると、刑法上の構成要件は、行為者の主観的要件と客観的行為の組合せで考えるべきだという。したがって、無理やり車に乗せた行為にはレイプしようという主観的要素があるから、「わいせつ目的誘拐罪」に該当する。殴ったことによる傷害結果は、集団強姦のために付随して行われたものであるから、併せて「集団強姦致傷」となる。財布を奪った行為は、女性に暴行脅迫を加え、反抗抑圧したことを利用しているので「強盗罪」の成否を検討すべきという。通常の強盗は財物を奪う目的で暴行、脅迫を加える。この事例では、暴行、脅迫を加えてから、財物を奪う意思が生じている。これが、本問の主要論点であることに気づかなければならない。最後の「保護責任遺棄罪」は、成立しない。この種の犯罪者に保護義務は期待できない。殺人犯に死体遺棄罪が成立しないのと同様である。

 期末試験を控えているためか、今日の参加者は定員の半分にも満たない。「文章力アップ講座」の他に、今年の新司法試験の解答を作成すれば、添削してもらえることになっている。既に刑法は提出した。恐喝罪の成否に関する問題で、恐喝罪と権利行使という論点の抽出能力もさることながら、どれだけ事実関係を拾い出す能力があるかも採点の重要なポイントではないかと思った。


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