シニアのロースクール日記(312007年5月
 
5月9日(水) 姿勢をただす

バランス感覚を磨け−滝井元最高裁裁判官の講演から−

 滝井元最高裁裁判官による法学部生とロースクール生を対象にした講演会が開催された。会場の大教室はほぼ満員である。滝井さんは、弁護士出身の裁判官で昨年10月に退官された。弁護士時代には、大阪空港騒音訴訟で弁護団副団長を努められた経歴の持主である。最高裁の裁判官在任中には、多くの補足意見や反対意見を書かれた裁判官でもある。反対意見の中には、平成13年と平成16年の参院選定数違憲訴訟、東京都外国人管理職受験資格訴訟等がある。
 講演の中で、滝井さんは、特に「バランス感覚を磨け」と強調された。東京の品川区に「林試の森」という都立公園がある。「林試」とは、「林業試験所」のことである。東京都は震災時の避難場所として拡張計画を持っていた。この計画によると、拡張部分は公園の隣に公務員の官舎があったにもかかわらず温存し、住民の土地を収用し立ち退きを迫るものであった。そこで、住民が裁判所に救済を求めた。一審の東京地裁は、住民の請求を認容したが、東京高裁は一転して敗訴にした。最高裁に上告され、滝井裁判長のもとで審理された、結果は破棄差し戻しとなった。公務員宿舎について批判が出ている中で、民より官を優先する姿勢がはたしていいのかと悩んだ結果の判断である。住民の利益を犠牲にしてまで、公務員宿舎を守る利益があるか。公務員宿舎は、移転することができる。
 国民に目を向けたバランス感覚が必要であると強調された。この判決の後、東京都は昨年暮れに計画を取下げた。

5月12日(土) 童心に帰る。

 今日は、大学時代の友人たちと久しぶりに会う日だ。関西に在住する7名で春と秋の年二回、家族ぐるみで花見や紅葉刈をしている。今回は、NHKの朝の連続テレビ小説「てるてる家族」の舞台にもなった池田の町を訪れることになった。池田は大阪の北にある古い町である。
 今年初め亡くなられた安藤百福さんのインスタントラーメン発明記念館を訪れた。日清食品に勤務するTさんの計らいである。夫婦が二人一組になって、手作りのラーメン作りに挑戦した。粉を煉り、麺棒で伸ばし、何回もローラーを伸ばして仕上げていく。その後茹で上げ、更に油で揚げるという工程をたどる。その間、袋に好みの絵を描いたりした。久しぶりに童心に返ることができた。
 昼食の後、逸翁美術館を訪れた。阪急電車や宝塚歌劇団の創始者小林一三の茶器等のコレクションがある。館内には、見事なランの鉢植えが置かれていた。ランの花で思い出したことがある。8年前アメリカ勤務を終えるに当たり、後任者に置き土産として造花のランを贈ったことがある。その後ドイツに転勤したのだが、1年以上たった頃、後任者から国際電話がかかってきた。「頂いたランに週一回水遣りしています。これほど長持ちするとは思いませんでした」とのこと。アメリカの造花は、非常に精巧にできていて、天然の花と見分けがつかない。アメリカ人は、すぐにしおれてしまう活花より造花を好む。食事に招待されたときは、造花を持参したものである。
 美術館を後にして、町の北に位置する五月山に登った。登るといっても、山の中腹までで、せいぜい標高差100メートル程度しかないと思われる。けれども、長い間、山道を歩いたことのない者にとっては、残りどれだけ歩けば目標の展望台に着くのか分からないまま、ひたすら急な坂道を登り続けるのは苦痛であった。ところが、急に視界が広がり、南には大阪市内の高層ビル群、はるか西方には六甲の山並みも望むことができた。この日は、五月晴れで黄砂もなく、しばし下界の景色を楽しんだ。
 苦しさの後には、楽しさが待っている。明日から、またがんばろう。

5月18日(金) 新司法試験は体力の勝負
 
 学校を終えて、西宮北口駅で電車を待っていると、梅田からの普通電車でFさんが降りてきた。Fさんは、ある損害保障会社を辞めて、ロースクールに入学し、今年卒業した人である。年齢は50歳前後。新司法試験を受験しての帰りだという。今日は三日目で明日が最終日。
 感想を聞くと、とにかく知力というより体力勝負だそうだ。それで、特急電車に乗らず、座れる各駅停車の普通電車で降りてきた理由が分かった。初日の短答式も非常に疲れたとのこと。とにかく解答の時間が足りない。時間内に解く練習をしておくようにとのアドバイスを頂いた。
 今年は、当初5400名程度が出願し、その後卒業できなかった人、卒業できたが今年は受験を見送った人などがいて、初日の受験者は4600人に減ったそうだ。合格者2000人前後として、合格率は昨年より下がり4割程度と思われる。来年はもっと厳しくなる。
 短答式の対策として、昨年9月からEラーニングというインターネットで勉強している。毎朝5時15分に起床し、5時半から6時半までの一時間、各科目につき5問、合計35問を解いてから登校という生活パターンを続けている。始めた頃の正答率は4割程度だったが、最近は平均8割に上がってきた。憲法はほぼ10割の正答率を出せるまでになった。「継続は力なり」というが、確かに続ければ実力は向上する。いずれにしても、時間はあと一年しか残されていない。



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