シニアのロースクール日記(252006年11月
 
11月2日(木) 正倉院展にて

 今日から4日まで、「新月祭」とかいう学園祭があるため、授業がなく4連休となった。大学時代の友人が、正倉院展の無料入場券を送ってくれたので、朝から奈良へ向かった。昼前に奈良公園内の国立博物館に到着すると長蛇の列である。列に並んでいる隣の女性に聞くと、新潟から来たという。関西に長く住んでいるが、正倉院展は今回が生まれてはじめてである。
 入館するまで、およそ40分かかった。館内も人の波で混雑している。数日前、皇太子と雅子妃が見学しているシーンがテレビで報道されていたが、一般入場者が退出した後、閉館後に見学されたらしい。
 興味を引いた展示物の一つは、目盛り付きの物指しである。平城京も碁盤の目のような都市計画がなされたのだから、目盛り付物指しがあっても不思議ではない。アザラシの皮で出来た馬具が展示されていた。近畿圏にはアザラシは生息していない。きっと北海道からもたらされた物ではないかと想像する。シルクロードを経由する交易がなされていたことを考えると、これも不思議ではない。他にも、精巧な模様の肘掛が展示され、当時の美術の繊細さに感心した。奈良の生駒に住む、学生時代の友人から、博物館横の釜飯が美味しいと聞いていた。ところが、ここも長い行列で、やむを得ず公園内で弁当を買った。
 日本の博物館見学は久しぶりである。欧米に駐在した頃は、殆どの著名な博物館、美術館を訪れた。海外と比べて、思うことが一つある。ワルシャワの王宮美術館を訪れた時、小学生の団体に出会った。学校の先生が、生徒を床に座らせて、展示されている歴史上の人物の説明をしていた。ロンドンのトラファルガー広場近くの美術館を訪れた時も同じような光景を目にした。このような形で歴史教育をしているのだと感心した。日本でも、小学生に博物館を利用した教育が行われているのか、いささか気になっていたところ、帰りに入場券売場を見ると、「平日、小中学生無料」との案内が出ていた。もっとも正倉院展ではなく、隣の奈良国立博物館の常設展示品である。教育基本法改正で問題になっている愛国心とは無関係に、自国の文化を知ることは大切なことではないかと思う。
 
11月9日(木) 妻のロースクール日記

 2年生の科目に、ロイヤリングという実務科目がある。模擬相談の役割をする一般市民をボランティアで募集し、学生が法律相談に答えるという形式で実戦経験を積ませるのが目的である。この科目は、医学部の学生が模擬患者を相手に問診して患者とのコミュニケーション能力を高めようとするのと同じ目的である。法律相談のシナリオは担当の実務家教員が、実際にあった事件をもとに作成する。このボランティアに妻が応募した。6月から数回のトレーニングあり、今日が本番の日である。
 法律相談の内容は、賃貸マンションの家賃に関する紛争である。妻子ある息子の母親が、息子が賃貸マンションを借りるについて保証人になった。息子は3年分の家賃を滞納し、妻子を残して家出、行方不明の状態にある。そこで、賃貸マンション会社が保証人の母親に3年分の家賃の支払を求めてきたので、弁護士に相談することになった。(賃貸マンション会社が3年分の家賃滞納を放置していたのは、コンピューターの管理ミスで、空き家の扱いになっていたためである。)
 以下は、妻が学校より求められて提出した感想文である。文中「SC」とあるのは模擬相談員のことである。
 
ローヤリングについての感想

1. SC養成講座について
(1)「役になりきる」について
 実際の演技やDVDを何回か見せていただいての率直な感想は、何れも不自然であるということでした。
 弁護士のところに相談に行く目的は、自分のおかれた状況を、決まった時間内に出来るだけ早く理解していただき、法律上の適切なアドバイスを得ることにあります。したがって、前もって相談内容の要点と、その背景となる経過、必要ならば参考資料を持参し、質問、疑問点をまとめます。そして、弁護士と面談する場面では、時にはアドバイスを筆記し、真剣に弁護士と話をします。
 今回の養成講座では、「役になりきる」ということが強調されすぎたため、デモンストレーションのシナリオである「ホステス」のケースでは、外観がホステスらしい雰囲気を出しているとして、養成講座の先生はそのことを評価されたような印象を受けました。
 しかし、職業により相談内容が異なるとしても、依頼者は真剣に考えて準備して相談に行くものです。愚痴を弁護士に聞いてもらうために行くのではありません。「役になりきる」とは、与えられたシナリオを変えずに、その環境、背景の中に自分をおき、トラブルに巻き込まれた場合に、自分ならどうするかを考えることであると思います。このことによって、SC一人一人の個性が出てくるし、学生にとっても同じテーマであっても異なる対応の仕方があることが分り、かえってその方が勉強になると思います。
(2)「学生を褒める」について
 「SCとして大切にしたいこと」の説明で、学生を褒めることを強調されました。そのためか、演技の後にマイクを向けられた見学者のSC達が、歯の浮くような褒め方をしていました。例えば「感動した」を連発する人がいましたが、その褒め言葉を異様に感じました。
 そもそも、弁護士役の学生の態度を褒める必要があるのかについても疑問があります。大学院生といえば、立派な社会人です。会社であれば、上司から褒められるより、むしろ注意されながら成長していくものです。的外れで抽象的な褒め言葉はむしろ逆効果になると思います。大切なことは、率直なコメントを学生にすることだと思います。
(3)SCの選定
 SCを選定するに当たっては、演技力よりも、むしろ過去に弁護士と相談した経験のある人を選ぶのも一つの方法だと思います。その方が、無理なく自然な形で弁護士に接することができ、学生の学習効果が上がるのではないでしょうか。

2. 今回の事例の感想
(1) 事例Aのシナリオを読んだ時、事例にあまり関係あるとは思えないのに、なぜ孫のことが書かれているのか疑問を持ちました。しかし、その疑問は当日池田先生との事前打ち合わせの時に解けました。SCには、学生の方々に幅広く考えてもらうように仕向ける役目があり、そのためにわざと複雑なストーリーにしているのです。
(2) ローヤリング終了後、帰宅してからも色々考えてしまいました。「この事例の場合、和解で400万円も払うのであれば、裁判で解決した方がいいのかな」とか、孫のことも頭から離れず、事前より事後の方が、かえってストレスがたまりました。しかし、和解に持っていこうという弁護士の考え方は、少しだけ理解できたような気がして勉強になったと思います。有難うございました。


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