シニアのロースクール日記(22)2006年8月 8月23日(水) 夏休みのアルバイト 8月に入り、N君から校正のアルバイトをしないかと誘われた。民法の不法行為担当の先生が、有斐閣から出版される研究書を校正する学生を探しておられるとのことである。N君は友人のF君に声をかけたのだが、長野へ行くのでできないと断られたという。不法行為の勉強に見なると考え引き受けることにした。10日にゲラ刷りを受け取り、約400ページに及ぶ原稿のチェックを、ほぼ10日で仕上げ、今日先生に届けてきた。 有斐閣の担当者が既に一次校正をしていたが、見落としが結構あった。ワープロの変換ミスが実に多い。例えば、「責任追及」とすべきところ「責任追求」に、「不真正連帯債務」の「正」が「性」になっていたりする。誤字もさることながら、文章が長いので読みにくい。分りやすい文章にするためには、一つの文章の中に主語と述語を一つずつにするというのが鉄則である。ところが、「AがBがCが・・・・・」のように主語が三つ連続し、その後に目的語や述語が続く文章に出くわした。直しようがなく、「意味不明」の注釈をつけておいた。もう一つの長い文章の特徴のひとつとして、逆説の接続詞「が」を用いてつないでいるものが多いことに気がついた。しかし、よく読むと逆説でもないのに「が」が用いられている。この種の文章は、二つの文章に切断するようにした。このほかドイツ語のスペル誤りも発見したし、英語の誤訳も指摘しておいた。 いずれにしても、前書きに校正者の名前が記されることになった。 先生にゲラ刷りを手渡し研究室の建物を出ると、法曹倫理担当のT先生と出会った。期末試験の成績をA+にしていただいたので、お礼をいう。「あなたの文章は、他の誰よりも練れていた。」と、お褒めの言葉をいただく。近々、タイプにして模範答案として配布することにしたと、おっしゃった。法律の文章は内容と分りやすさが重視されるようだ。分りやすい文章は論理的であるともいえる。今後は、文章力を武器にして更に法律知識を磨いていきたい。 8月25日(金) 適性試験と成績の相関関係 午前、血液と尿検査のため大阪の病院へ行く。数年前から痛風の治療をしている。痛風の一番の治療法は体重を減らすことだと医師に言われているが、これが中々難しく、薬に頼ることになる。 午後、新大阪駅近くに事務所を構えるS先生を訪問した。訪問の目的は、今回の期末テストで唯一C+評価であった「法文書作成、法情報調査」の採点内容を聞くことであった。採点をしたのは、S先生ではなく、他のクラス担当の二人の先生である。二人の先生の評価は、60点満点のところ9点も開いた評価をしている。採点の正当性や客観性にやや疑問を持ったが、評価が変わるわけでもないので深くは追及しないことにし話題を転じることにした。 先生によると、開校3年目を迎え、各ロースクールともカリキュラムや入学試験選抜方法の見直し作業をしているという。問題が二つあるらしい。一つは多様な人材を育成するという目的で未修コースを開設したが、各ロースクールとも未修者に対して特別の支援を行う体制はとっていないということだ。法律の知識があることを前提に授業が進められるため、授業についていけない未修者がいる。多様な人材を活かしきれていない。その結果、開校時の教育理念と現実との間には乖離が出てきている。 もう一つは、既修コースに優秀な学生が集まらないという点だ。入学後の成績を見ると、適性試験の成績と相関関係がないことが分ってきた。パズル問題に長けた学生が、必ずしも入学後の成績が優秀とは限らない。そこで、こうした反省から既に国立大学の多くは、入学試験の選考において適性試験の比重を大幅に下げて、法学の試験に重点をシフトする動きにあるとのことである。東大は、新司法試験並みの問題を出題することに決定したという。関学も、これまでのような既修者の選抜方法の見直しを迫られており、検討中とのことである。 事務所を辞するに際し、「あなたのような経歴の持主には是非合格して欲しいと思っている。でも、体が大切であるから無理をしないように」との温かい言葉をいただいた。 夕方、スーパーで買い物をして帰る途中、犬の散歩をしているIさんに出会った。Iさんは今年入学した元外交官である。すぐ近くに住んでいるとのことである。家族ぐるみで付き合おうということになり、近々Iさんの自宅に招待されることになった。 |