シニアのロースクール日記(212006年7月

7月27日(木) 一言で表現する力
 
 前期の期末試験が昨日で終了し、今日から夏休みに入る。例年より長かった梅雨もようやく明け、真夏の太陽が照りつける。サングラスと帽子を着用し学校へ向かう。休みとはいえ、規則正しい生活をする必要がある。日曜日以外は登校することにした。試験期間中は、学生でごった返していた図書館は潮が引いたように静かになった。

 今回の試験は準備をしっかりしたので、躓いた科目はなかった。先ず、準備の方法として過去2年間の問題を解き、担当教員に指導を受けるようにした。中には、解説を手渡し読んでおけという先生もいたが、大半の先生は丁寧に読み、誤解や理解が不十分なところを指摘して下さった。コーヒーやお茶を入れてくださる人もいた。
 次に、試験が始まる1週間前までに、先生の指摘も付け加えた試験対策用ノートを作った。このノートには、ポイントとなる最小限の事項だけを整理するようにした。例えば、会社法の「法人格否認の法理」であれば、その要件である「支配性」「目的の不当性」を書きとめた。このノートは試験前日あるいは試験当日に復習するのに大変役に立った。要点だけを記述しているので、覚えることが少なくて済む。試験期間中、隣の座席に座った学生から勉強方法についての質問を受けた。これに対しては、試験前日はできるだけ覚えることを少なくすることだと答えておいた。あれこれと沢山覚えようとすると、結局中途半端になってしまう。たとえば、憲法の経済的自由権の問題であれば、規制目的二分論の内容と問題点、関連する判例とその変遷をコンパクトにまとめておいた。予想は見事に的中した。
 民事系の科目の多くは「あなたが弁護士であれば、どのようなアドバイスをしますか」という形式で出題される。このような問題は考える力を見ようとしているので、複数の案を書くことが求められていると考えてよい。思考の過程を表現すればいい。民法の判例を読むと、「仮に××が認められない場合は、○○である」というスタイルを目にすることが多い。実務家にはできるだけ多くの理屈を考える力が求められている。
 刑法は、テキストとして用いられた木村光江「演習刑法」(東大出版会)の課題、総論13問、各論12問の中から各1問が出題されることになった。これをすべて覚えるのは、至難の業である。そこで、出題可能性のある問題を絞ることにした。例えば、総論13問の内、過去に出題された3問を除外、さらに学説の知識を問う5問を除外すると、残るのは4〜5問ということになった。これらについて、論理の展開の流れを理解し、覚えることにした。論理展開を頭に入れておけば、残りは問題文にある具体的事実をつなぎ合わせていけば答案になる。結局、予想した中から問題が出題された。
 「法情報調査・法文書作成」という科目がある。雇われ弁護士が、ボスの弁護士に法的な報告書を作成する実務科目である。試験対策としては、昨年の問題を本番並みに集中して解答を作成することにした。試験時間は3時間半である。4つの判例が参考資料として添付されている。分ったことは、判例をすべて丁寧に読めば1時間半程度かかるということだ。書く時間が不足する。最低2時間半は確保したい。そこで、読む時間を節約するために、斜め読みして重要な点、すなわち判断基準になるところをマークすることにした。今年のテーマは「癌告知」であった。判例も昨年と同様に4つ添付されていた。この4つの判例を分類することにした。これは、Vocabowの吉岡先生から教わった手法である。「癌告知をして問題になった事例」「しなくて問題になった事例」に区分し、それぞれ原告の主張が「認められた事例」、「認められなかった事例」に分けた。そこから判断の分かれ目は何かを考えることにした。最終の授業で模擬問題が出題され、10点満点の10点を取っていた。これが、分りやすい文章の模範答案として11人のクラスに配布された。気分良く、また自信を持って試験に臨むことが出来た。

 夕方、電車を降りると突然の夕立である。駅に常備している善意の傘も直ぐになくなった。小降りになるまでのしばらくの間、駅前の本屋で雨宿りすることにした。ある予備校の経営者が執筆する本を手に取った。別に買う気はなく、時間つぶしでパラパラとページをめくった。すると目にとまった言葉がある。「一言で言えなければ、分っていない証拠」。なるほどと思った。コンパクトなノートを作ったことは、理解するのに役立ったと思う。
 

▼Homeに戻る