シニアのロースクール日記(20)2006年6月 6月15日(金) 日弁連法務財団の授業参観 日弁連法務財団による第三者評価を行うため、行政法の授業参観が行われた。第三者評価のメンバーは他のロースクールの教員2名と弁護士バッジを胸につけた人であった。授業の終了後弁当とお茶が配られ、第三者評価のメンバーと学生との間で懇談会が催された。 ロースクールの教員の一人は、開口一番、自分のロースクールでは学生に質問をしても、予習していないためか即答できない学生が多いが、関学の学生は活発に応答し積極的である、と授業態度について印象を述べられた。 続いて、学校に対する要望がないかと尋ねられた。最初に発言した学生は、自習室の開放時間を午前8時より早くして欲しいとの要望を出した。学校の近くに下宿している学生で早朝から深夜まで勉強できる環境を作ることを望んでいる。 別の学生は、目安箱のようなものを設置して欲しいという。匿名で要望を出したいらしい。筆跡から、誰がどのような意見や要望を出したか知れると、成績評価に反映されるのではないかと危惧しているらしい。学期の途中に2回授業に対する要望調査が行われる。それでは不十分なので、いつでも要望を出せる仕組みを作って欲しいという趣旨である。一年生のときもそうだったが、自分の意見や要望を言うのに名前が知れることが困るので、白紙で提出する学生が多かった。この危惧を避けるために、目安箱の設置という要望になったらしい。 そこで、私は発言を求めた。「自分の要望を心から実現して欲しいと思うのなら、正々堂々と名前を名乗るべきである。匿名で要望を出しても、学校は真面目に取り上げたりしない。弁護士を目指しているものであれば、名前を表に出して、責任ある発言や要望をすべきではないか。」 一瞬、静まり返った。 6月27日(火) 沙羅双樹の花 連日、雨が降り続いていたが、今日は久しぶりの梅雨の中休みである。いつもの通り、ロッカーからパソコンを持ち出し図書館に向かうと、池の畔で憲法のN先生が白い花の写真を撮っておられる。挨拶をすると、「これは沙羅双樹の花」だと教えてくださった。「祇園精舎の鐘の声、沙羅双樹の花の色」で始まる平家物語に出てくる花だ。今まで、一度も見たことがなかった。N先生はドイツに留学されていたので、これはドイツ語の「リンデン・バウム」のことですかと尋ねると、「いや、ドイツには椿科の植物はない」との返答。 リンデン・バウムは菩提樹のことだ。勘違いをしていた。高校に入学したとき、初めての授業は森鴎外の「舞姫」であった。この中にベルリンのウンター・デン・リンデンという通りの名前が出てくる。数年前、この通りを歩いたことがある。ブランデンブルグ門を起点にする通りで、ワールドカップで多くの観衆が集まっている。通りにはフンボルト大学があった。並木通りのリンデン・バウムは広葉樹であったように思う。 暫しの平安の世界に別れを告げ、図書館に向かう。アメリカ憲法のレポートに取り組んだ。テーマは「外国人の公務就任権に関する日米比較」である。 昨年1月、最高裁は在日韓国人である東京都職員が東京都管理職試験の受験を拒否された事件で、受験拒否は裁量の範囲で憲法違反でないとの判断を示した。これに対して、アメリカ連邦最高裁は1973年に外国人であることを理由にNY州が解雇した事件で違憲であるとした。日本の場合、前面に出てくる理屈が当然の法理であり、国民主権原理である。もともと国民主権原理は、天皇主権に対する概念で民主主義的側面を持っているにもかかわらず、ナショナリズムの側面から判断されている。これに対して、アメリカ憲法には国民主権の規定はなく、ナショナリズムというより多様性に価値を置いている。 夕方、商法のN先生の研究室を訪れる。5時の約束だったが、少し遅れて戻って来られた。今まで、他の先生の授業参観をしていたとのことだった。「もう少しメリハリの利いた授業をすべきである」と厳しい指摘をしておられた。教職員の間で、お互い批判が行われ全体のレベルが向上することを期待する。 先生を訪問した目的は、昨年の期末試験の解答を用意し、これに対するコメントを受けることであった。お茶を入れていただく。会社に勤めた経験があるので、会社のことは大抵分っているつもりだが、法律となると知らないことが多い。「現物出資」の概念は知っていたが、「財産引受」は聞いたことがなかった。尤も、社会経験のない学生からよく質問を受ける。「含み損」「損益計算書」「持株会」「取締役会の実態」など。驚いたことに「貸借対照表」を「賃貸借対照表」と覚えている人がいた。ニューヨークで巨額の損失を出した「大和銀行」を「やまとぎんこう」と読む人もいる。 先週、民事訴訟法の先生に期末試験を控えて勉強のしかたと答案の書き方についてアドバイスを求めたところ、判例百選をしっかり勉強し、判例と反対説がある論点は、両方記述したあと自説も述べるようにとのことであった。N先生に商法も同じかと聞くと、あまり学説を憶える必要はない。むしろ、なぜ自分はそのように考えるのかという理由が書けているかで評価するとのことであった。 昨年の後期の成績は前期ほどには良くなかった。予め、担当教員に採点のポイントを聞いておくと、要領のよい勉強ができそうだ。 |