シニアのロースクール日記(15)2006年1月
1月13日(金) 関学メソッドの創造
今日の会社法と刑法各論で、一年生最後の授業が終了する。今後の授業の改善の参考にするために、事務局が最後の講義の終了前の10分間を利用して、先生の講義内容に対する評価、改善要望などのアンケート調査を実施した。評価項目は、たとえば(1)先生はシラバスに従った授業をしたか(2)先生は十分予習して授業に臨んだか(3)あなたは、この授業によって法的思考能力を高めることが出来たなど約10項目あり5段階評価をする。
個々の先生方に対する評価、要望を出すこと自体は意味がないわけではない。学生の考えを入れて、来年度の授業に反映されるならそれなりの効果があるといえる。しかし、学校全体として、教授方法を改善、向上させるという観点も必要ではないかと日頃から考えていた。先生方の教授方法を見ると、人により大きな差がある。学生が理解しにくい点、誤解しやすい点など実にツボを心得て、適切な質問を投げかけ講義を進める先生がいる。その一方で、少数だが学生の反応にあまり注意を払わず、教科書を読むだけの先生もいる。
大学という組織では、先生一人一人が独立しているためか、お互いに教授方法の意見交換や授業参観などをしてレベルを高めあうことがないようだ。たとえ先輩教授が後輩にアドバイスしても、強制力があるわけではない。企業で仕事をしていた経験からすると不思議である。企業では、長期的な人材育成ということが常に意識されている。会社による集中的な専門教育、上司によるOJT(On the Job Training)と社員自らが行う自己啓発などによって仕事の質の向上を図る。
ロースクールも3年目を向かえ、入学志願者が減少する傾向にある。他校に対抗するためには、効果的な教授方法を編み出して優秀な学生が集めなければならないはずだ。企業は競争にさらされている。したがって競争に勝ち抜く努力を日頃からしている。ロースクールも競争していることに変わりない。このことの認識が必要だ。そのためには、企業の人材育成に関する手法も参考にしつつ、先生方が意見交換や経験交流をして関学メソッドを創造する必要があるのではないか。
このような趣旨の要望書を事務局に提出した。来週月曜日から期末テストがある。前期を上回る成績を残したいものだ。
1月28日(土) 「浮利を追わず」
日経新聞の朝刊は一面トップで、昨日の日経平均終値は16460円でライブドアショック前の水準に戻ったと伝えている。東京証券取引所のシステム容量不足が重なって、落ち込んでいた株価もソニーなどの堅調な企業業績に支えられて回復したようだ。
ライブドアの前社長が、自分と同じ大学、同じ学部に在籍したことを知って以来、その動向には関心があった。証券取引法違反の容疑による1月16日の家宅捜索から勾留までの一連の手続きが今年学んだ刑事訴訟法に従ってなされているか、復習を兼ねてチェックすることにした。
ライブドアの捜査を担当しているのは、東京地方検察庁特捜部だ。捜査は通常警察官が行うが、検察官も捜査ができる(刑訴法191条)。汚職事件、談合事件など経済犯罪は、特捜部が捜査することが多い。16日のライブドア本社、堀江前社長の自宅の捜索は捜索差押令状に基づいてなされた(218条)。捜索終了後の17日早朝、テレビ記者会見で堀江前社長が「コピーをさせてもらえなかった」と発言していたが、それは裁判所が出すこの捜索差押令状のせいだ。
1週間後、23日に事情聴取のため任意同行を求められた。捜査機関は、捜査に必要な取調べをすることができる(197条)。任意同行なので出頭拒否は出来る(198条1項)。しかし、検察庁から迎えの車が来ているので、拒否するのは難しい。事情聴取の場所は、検察庁ではなく別の場所のようだ。被疑者をホテルで9日間取り調べた例がある。任意同行の後、数時間後に逮捕された。これは、逮捕状による通常逮捕である(199条)。東京拘置所にある3畳一間トイレつきの独房に留置された。通常は、代用監獄といわれる警察の留置場に身柄拘束される。
逮捕状による身柄拘束期間は48時間である(204条)。25日、さらに留置が必要と判断した検察官は、堀江前社長とともに勾留の請求をするために裁判所に向かった。裁判官は勾留状を出す前に被疑者の陳述を聞くことになっている(61条)。2月3日まで10日間の勾留が認められた(208条)。勾留の前には、必ず逮捕されていなければならない。逮捕前置主義という。被疑者の身柄拘束をするについて、逮捕状と勾留状による二重の司法チェックをするという趣旨である。勾留状を発付した裁判官は、公判の裁判を担当することが出来ない(280条)。この趣旨は予断排除にある。10日間の勾留期間内に公訴提起(起訴)がなされないと釈放されるが、さらに10日間の勾留延長が認められる。
堀江前社長は、録取調書への署名を拒否しているという。取調官は、被疑者の供述により録取調書を作成し、その内容に誤りがないかを質問して証明押印を求めることが出来る(198条5項)。しかし誰でも、自己に不利益なことを供述することは強要されない(198条2項、憲法38条1項)。弁護士を通じて、ライブドアの取締役を辞任する意向が伝えられた。弁護士との面会は接見交通権(39条1項)によるものだ。ただし、公訴提起前は接見の時間を指定することが出来る(同条3項)。新聞によると、元東京地検特捜部の検事が弁護人を引き受け、毎朝9時に面会しているという。起訴されるまでの間は、保釈されることはない(207条)。起訴後であれば、保釈保証金を納付して保釈される可能性がある。
昨日、代表権のない新社長に就任した平松さんが、フジテレビの会長に会い支援を要請したと伝えられているが、会社の存続を危ぶむ声もある。個性のある社長を失って、この先どうなることか。プロ野球の買収に名乗りを上げてから僅か1年半の出来事である。
かつて自分が勤務していた会社は、室町時代まで遡る400年の歴史を持つ企業グループに属していた。企業グループとして、これだけ長い間存続できたのは、「浮利を追わず」という家訓を愚直に守り通して来たからだ。「浮利」は、英語では「Easy Gain」と訳されている。要するに、安易な方法で金儲けをせず、汗を流そうということである。技術の開発、人材の育成、コストの削減など実体を伴う活動をすることが大切であると信じて働いてきた。やはり、マネーゲームに頼る会社経営は長続きしないことが証明された。アメリカでも100年以上存続した会社は、GEをはじめとしていずれも地道に物作りに励んでいる会社である。
それにしても、2週間前まではホリエモンをスターなみに扱ってきたマスメディアの豹変振りには驚くばかりだ。図書館にある週刊誌で、美人広報部長にサインを求めている記者達の姿を見てがっかりした。広報部長も記者たちも、それで仕事をしているのと訊きたくなる。まるで遊んでいるようだ。
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