シニアのロースクール日記(13)2005年11月 11月1日(火) アメリカの人権について学ぶ 前期から、アメリカ人の先生による「アメリカの人権に関する判例を読む」という講義に出ていた。これはボランティアで行われているもので、単位にはならないが、それでも10人近くの聴講者がいた。後期になると、刑事訴訟法や商法などの新しい科目が入ったためか、多くの学生は予習に忙しくなり聴講者は私一人になってしまった。試験に出ない科目にも興味を持つことは、将来何らかの形で役に立つと思うのだが、一人でも授業をしてくださることになった。綺麗な白髪の女性の先生である。そこで場所は教室ではなく、先生の研究室に変更された。お茶を入れていただきリラックスした雰囲気で、英語とアメリカ法の個人レッスンが受けられるというわけだ。アメリカ法を学びながら日本の法律と比較して、何処が違うのかを学ぶのが動機である。今日は、人権の平等条項について、判例を読みながら勉強した。 これまで、アメリカ女性は世界中では最も男性と平等に扱われているものと思っていた。しかし平等に扱われるようになったのは、1970年代以降のことにすぎないことを教えられた。たとえば離婚した親が、子供の養育費を支払う義務があるのは、子供が男子の場合は21歳までだが、女子の子供に対しては18歳までであった。女子には教育を受けさせる必要がないという価値観が30年前まであった。これが男女差別であるとして争われ、平等に扱われるようになった。 アメリカは、今でも各国から移民を受け入れている。Quotaといって、国ごとに受け入れる人数の枠が決まっている。子供は親と合わせて一人とカウントされ、枠外で入国できる。両親がそろっている場合は問題なく入国が認められる。また片親でも、母親との入国は問題なく認められる。ところが、父親と子供の組合せの場合は、入国は認められない。これが男女平等に反するとして争われたが、却下された。その理由は、成人男性と子供の組合せは人身売買であるケースが多いからだという。 かつて、米国に駐在していた頃、オハイオ州からインディアナ州まで車で走らせたことがある。このとき、サービス・エーリアでトイレ休憩をした。サービス・エーリアといっても日本のように店があるわけではない。無人で自動販売機がおいてあるだけだ。そこに大きなポスターが貼ってあり、100人以上の子供の小さな写真が並べてあったことに衝撃を受けた。誘拐して子供を売る商売の犠牲者のようだった。アメリカの貧しい側面を見る思いがして、胸が痛んだ。 11月15日(火) 10分間ミニ講義 後期に始まった科目の一つが会社法である。「取締役」「監査役」「株主総会」などの用語は、社会常識だと思っていた。先生もあえて、用語の解説をしないで授業を進める。大学を卒業してストレートに入学してきた学生数人に、これらの意味が十分理解できているのか聞いてみた。結果は、案の定あまりピンと来ないし、どういう仕事をする人かイメージがわかないという。そこで、担当の先生に実情を伝えたところ、「次の時間の冒頭10分間で、私に代わって説明をして欲しい」との反応が返ってきた。このように臨機応変に機動的な対応をするところがよい。 黒板にピラミッドを書き、会社の機関について説明することにした。下に株主総会、その上に取締役会と監査役会、さらに取締役会の上に代表取締役を入れた。下に位置する機関が上の機関を選任するのが会社法の建前である。しかし、現実は社長(代表取締役)が取締役や監査役を選ぶので、チェック機構が働かない。株主総会は会社の最高意思決定機関だが、最近改善されつつあるとはいえ、今だに15分で終わるところが多い。数年前までは、総会屋が会社から金を貰って株主の発言を封じていた。最近は取締りが厳しくなり、総会屋に代わって持ち株会の従業員が一般株主の発言を封じる役割を果たしている。 取締役会も機能していない。事務局の用意した書類に捺印をするだけで、議論をする機関ではない。監査役も社長に人事権を握られているので、いいたいことがいえず、チェック機構としての役割をはたしていない。このことは最近のカネボウ事件が示しているとおりだ。とはいえ、会社も国際基準による改革を迫られている。日産やソニーのように外国人社長を向かえ、変化の兆しがあり変わりつつある。 最後に、会社法に親しむためには、日経新聞を読むことだ。私の1日は日経新聞を読むことから始まる。今日の新聞にはLLPという新しい法人形態の記事が出ていたことを伝え締めくくった。 予定の10分を超えて15分になったが、ミニ講義を終わる時、皆から拍手を受けた。授業終了後、よくわかったとの感想を寄せてくれた。会社法に興味を持つことを期待したい。そこには生きた社会があるからだ。 11月23日(水) 奈良でのミニ同窓会 関西に在住する大学時代のクラス会に出席するため、紅葉の奈良へ向かった。今回より家族同伴スタイルである。連絡の取り合える仲間たち7名の会である。この内、四家族がご夫人同伴だ。40年前、七人の内、私を含む三人が製造会社に就職した。今は、いずれも60歳で定年になり仕事をしている者はいない。山登りをしたり、明日は長野へリンゴ狩りに行くというような生活だ。大学院に残った二人は、関西の私立大学の教師の仕事をしている。二人とも週末には東京へ帰るという多忙な状況だ。銀行に就職した二人は、60歳になる前に関係の会社に移り監査役をしている。別に羨ましいとは思わないが、40年前の選択がその後の人生に影響を与えている。 奈良公園内を散策し、奈良町という古い町並みを保存している界隈を歩いた。町並みはいいのだが、やはり空中を這う電線が町の風情を台無しにしている。 奈良漬の店の2階で懇親会をした。女性天皇問題が話題になった。会計を支払う段になって、奥さんが財布を出した家族が二人、亭主が出したのが二人であった。亭主が家計の財布を握っているのか、自分の小遣いからだしたのかは判然としなかった。我が家の場合は、家内が財布を握り、家内の財布から払われた。 帰りの大阪までの電車の中で、向かいに若い女性が3人座った。私の横にいた監査役氏が、「どうして彼女たちは穴が空くまでジーパンをはくのだろう」という。「あれは金がなくてみすぼらしい格好をしているのではない。ファッションだよ。」と説明した。同じ世代に、このような時代に疎い人がいるとは思いもよらなかった。 久しぶりに友人達に会い、秋の古都を楽しんだ。 |