シニアのロースクール日記(122005年10月

10月7日(金) 私の勉強法

 成績優秀者に支給される奨学金の受給資格者の学生番号が、事務室前の掲示板に貼り出された。64人の未修コースでは、該当者が8名いる。名簿で学生番号から氏名を照合すると、男子2名女子6名の内訳であった。事務室に、自分の席次を質問したところ14番で、惜しくも奨学金を逃した。未修コースとはいえ、法学部出身者が約半数いることを考えると、まずまずの位置である。期末試験では、憲法2(統治機構)と刑法総論がA+であったほかAが3科目あったが、民法総則が足を引っ張った。
 不本意な科目について、何処が問題点かを検討した。試験のプロセスは3つの段階に分けることができる。まず、第1番目に問題文を読む。次に、その問題を解答するために必用な知識を抽出し、かつ知恵(あるいは教養)で味付けする。最後に、文章に表現するというプロセスだ。A+以外の科目について、各担当教員に面接し弱点の指摘をしてもらったところ、とくに一番目の問題を読み取る能力に問題があることがわかった。
 問題文を注意深く丁寧に読む能力を身につける必要がある。たとえば、不法行為の問題で、「改修工事中のビルからバケツが落ちてきて、塾に通う小学生の頭にあたった」という説例で過失責任を書いてしまった。「工事中の建物の下を歩くことが想定されるとき、親はヘルメットを子供に被らせるなどの予防措置をとらなかった過失がある」と論じた。ところが、後日担当教員に聞くと、「塾は工事中のビルの1階にある状況で、親に過失相殺を求めるのは酷である」と指摘された。この指摘を受けるまで、塾と工事中のビルは別の建物と思い込んでいた。また、民法総則では、契約締結上の過失の事例を危険負担の問題と早とちりしてしまった。
 それでも、上位25%以内に入ることができたのは、まず予習復習を欠かさなかったからである。予習復習では、新しい概念や知識を理解するために、表を作って整理することを心がけた。たとえば検閲の定義では、横軸に判例と学説、縦軸に検閲主体、対象、時期をとり、行政権とか公権力という言葉を入れ、違いがわかるようにした。また、法律の勉強は語学の勉強と同じであると考え、中学生の時に作った用語集(単語帳)を作ったことも効果があった。ほかには、事前に予想問題を作成し自ら答案を書いたこと、グループ学習を通じて自分の気のつかない点をチェックしたことなどを挙げることができる。文章力は、吉岡先生のお陰だ。
 後日、奨学金受給資格を得た女子学生二人から、昼食をともにしながら、それぞれ別々に、勉強方法を聞く機会を持った。いずれも法学部出身で、10年以上の社会経験があり、主婦でもある。そのうちの一人は、「家事も忙しく、十分な勉強時間を取れない。そこで、基本書をすばやく読み要点を把握する訓練をしている。把握した要点は、見やすい表に整理する。要点のみを書いている予備校本は覚えるのには便利だが、思考訓練には障害になるので、けっして使わない」といっていた。自分の勉強方法とそれ程かけ離れているわけではない。自信を深めた。「表にする」とは、縦軸と横軸に概念を分類することだ。科学の歴史は生物の分類から始まったと聞いたことがある。頭の整理に役立つ手法だ。
 新司法試験では、膨大な問題文を読むことが要求される。問題文を丁寧に読む力をつけることの重要性がわかったことは収穫である。

10月20日(水) 判例に登場する人物と私

 後期のゼミ(基礎演習)は、民法のクラスを選択した。前期の民法総則の成績が芳しくなかったため、基礎から勉強しようという動機による。ゼミは先生から判例を手渡され、あらかじめ決められた学生が「事実の概要、当事者の争点、裁判所の判断と理由」を報告するというスタイルである。
 今日のテーマは、遺言書の無効確認の訴えである。事件の概要はこうだ。東京大学教養学部西洋史の先生が、昭和40年代のはじめに、若い女性と愛人関係に陥り、なくなる数年前にノートの切れ端に自筆証書遺言を書き、愛人に手渡した。遺言によると、遺産の配分は、愛人、妻、長女がそれぞれ3分の1になっている。妻と長女が原告になり、遺言書は愛人の脅迫によって作成されたとして無効確認を訴えた。一審からの判決を読んでみると、遺産総額は明記されていないが財産は相当な額に思えた。遺言書を書く以前にも手切れ金と称して高額の金を渡し、その後も再び同棲するという奔放な生活をしている。一方、法律上の妻に対しても、伊東のリゾートマンションに住まわせ何不自由ない暮らしをさせている。
 裁判所の判断は、原告の申し立てを認めなかったが、なぜ東大の先生が愛人を囲うほどの資産があるのか気になった。家に帰り、奥にしまい込んである通信簿を出してきて、西洋史の科目を見た。あいにく成績は良であったが、先生の名前も書かれている。Y先生だ。それでなぞが解けた。この人はO社から出版されている「世界史の研究」という参考書の執筆者だ。私も、これで勉強した。昭和40年代、団塊の世代といわれる人たちが受験生だったときの隠れたベストセラーなのである。
 ゼミでは、男が不倫するのは配偶者にも責任がないとはいえず、妥当な判決であるとの見解を述べた。しかし、考えを変えなければならない。受験生から稼いだ金を愛人に貢ぐことが許されるか。むしろ、ベストセラーになるような参考書を書くような環境を作った、配偶者の財産形成に果たした役割をもっと正当に評価すべきではないかと思った。
 
 もう一人、判例と関わりのある人物がいる。外務省機密漏洩事件である。毎日新聞の西山記者が、外務省の女子職員から不適切な方法で沖縄返還に関わる国家機密を入手して、社会党代議士が国会で暴露した事件である。この西山記者が入手した情報を、社会党代議士に手渡した記者が別にいる。この人とは4年間大学で一緒に勉強した仲である。今では役員になり、現役で活躍している。多忙な様子で、毎年1月に開催される恒例のクラス会には姿を見せない。いずれ、再会できる機会があれば、真相を聞きたいものだ。

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