シニアのロースクール日記(1)

入学試験をふりかえって

 2005年度入学ロースクール選考試験では、私立2校、国立3校に出願した。私立の一次は全て合格し、二次は関学合格、立命館不合格であった。国立の一次は神戸大合格、一橋選考なし全員合格、阪大不合格で、2校の二次試験を受ける機会を得ることができた。二次の神戸大は追加合格候補に残ったが最終不合格、一橋も不合格であった。まず私の受験体験をロースクール毎にふりかえり、勝因と敗因分析を試みたい。

1.関西学院 合格 
2004年9月18日 小論文試験の日
 
 関西学院の未修一次試験は適性試験65点、学業成績35点の配点で選考が行われる。そして私にとってはうれしいことに、TOEIC700点以上の場合は一定点が加点される。今年度は、定員35名に対して、511名が出願し379名が残った、昨年は約100名(最終的に定員の2倍を超える88名が合格)が合格しているので、実質競争率は4倍弱であると考え、余裕をもって試験に臨んだ。

 本番の試験を受ける日がやってきた。試験場はかなりの空席が目立つ。(実際の受験者は256名)。受験日が重なる同志社との重複受験生が欠席したのであろう。小論文は2問あり試験時間は何れも1時間30分。午前中の問題はテロリズムの定義を1000字で要約したうえで、イラクの自爆テロについての見解を問うものだ。要約そのものは、それ程難しいものではなかったが、自爆テロについての見解の述べる方法に手間取った。テロの定義と関連をつけて、自爆テロの「政治的効果」はその意図にも関わらず、その効果を期待できないとして見解をまとめたが、要約に時間がかかりすぎ、十分に書き尽くせたとはいえなかった。

 午後の問題は、法科大学院の受験生の叔父さんが売春防止法、労働基準法、道路交通法などの例を挙げて「法律は守らなくても全てが罰せられるわけではなく不公平なので、ない方がましだ。また弁護士は大企業の顧問弁護士などになって金儲け主義が多い」と指摘して、弁護士に対して皮肉な意見を吐くのに対して、「…だから、私は法科大学院をめざします」という言葉で終わる手紙文を書くことである。手紙文であるから、文体は敬語にして手紙の形式で書かねばならない。私の書いた内容を要約すると、次のようになる。

 「売春防止法、労働基準法は貧困家庭の娘や労働者など社会的に弱い立場のものを守ることを目的にして戦後新たに制定された。道路交通法もそれがなければ、交通システムが乱れ安全を確保できない。弁護士の中には、森永砒素ミルク事件、薬害エイズ、水俣病など弱者の立場に立って活動する人が多くいる。わが国の経済体制は自由競争を原理とする資本主義社会であるので、必然的に強者と弱者を生み出す。そこで弱者を守る立場の弁護士が必要である。だから法曹を目指す。」

 とくに、売春問題では最近の発展途上国からの不法入国者が人身売買される例や、労働者の問題では女工哀史や蟹工船などの戦前の例も挙げたので、説得力ある手紙が書けたと自分では思う。これらの具体例は、書いている途中でふっと浮かんできた。小論文は、定石通りまず要約から始め、その流れにしたがって書き進めていけば自然と論理的なつながりのある論文らしくなる。一時間半という少ない時間で約1600字から2000字の文章を書くには、考えるのと書くのとを並行して進める必要がある。書くべき内容を全て整理した後に、書き始めたのでは時間切れになる怖れがある。迅速に書き上げる練習は是非とも必要だと痛感した。

2.立命館大学 一次 合格、二次 不合格(試験日9月25日)

 立命館で不合格になったのは、二次試験の失敗が響いたためだと思う。二次試験はグループディスカッションと小論文であるが、とくにグループディスカッションはまずかった。形式は、試験時間1時間のうち最初の15分間で問題文を読み、45分で賛否の表明と根拠を述べ受験生同士が質疑応答をするというもの。テーマは「山岳遭難救助費用」で、長野県知事が地方財政改善の一環として山岳遭難救助費用を有料化しようとする考えに対して賛否を問うものであった。素直に受益者負担で有料化賛成と言えばよかったものを、ユニークさを出そうと考えて、無料の立場に立った。無料論の積極的理由を述べず、有料化の弊害から入っていった。「有料化にすることは自治体が救助ビジネスに参入することを意味する。そのため、あらゆる遭難需要に対応できる救助体制を整備する必要があり初期投資が莫大になり、かえって財政の圧迫要因になる」ことを根拠にした。そして登山者は自動車保険のように民間の保険に加入することにより、遭難救助費用を支払えば良いと付け加えた。すかさず試験官から「登山者にとっては、有料論と変わらないね」と指摘され、これは失敗だったかな、と後悔した。

 終わった後の休憩時間中に、どのような理屈を展開すべきであったか反省を始めたことも、小論文に集中できない結果となってしまった。「自治体には救助義務はない。現実に救助しているのはボランティア精神によるもの。ボランティアであるから救助する側は対価を要求できない。一方救助される側が、対価支払義務を感じたら金銭で支払っても良いし、ボランティアで返しても良い。例えば、冬山で遭難したワンゲル部の学生が福井の洪水復興にボランティアで参加した」などとあれこれ考え始めるうちに、小論文の試験が始まったが、さっきのディスカッションのことがどうしても頭から離れず、集中できなかった。小論文の試験時間は僅か1時間で、テーマは大学改革。前の失敗が尾を引いて書き方が満足いかず焦る内に、試験時間が終了してしまった。やはり、試験ではあまり前のことを引きずるべきではない。
 

3.大阪大学 一次 不合格

 阪大の一次選考は、適性試験、学業成績、志望理由書によって行われた。適性試験は日弁連とDNCのいずれか得点の高い方を提出できる。既修、未修の区別はなく、既修は別途認定される。志望理由書は3000字。添削指導を4回受け自信を持って提出したが、適性試験の成績が平均点以下では、やはり一次にも残れないらしい。

 TOEICと志望理由書だけでは一次突破は難しいのかもしれない。尚、阪大の志望理由書は(1)法科大学院志望理由(2)阪大志望理由(3)卒業後の見通し、計画(4)入学選抜に考慮して欲しい一切の事情からなる。これをしっかり準備すれば、他校向けにも利用できるのが、良い点と言えるだろう。

 関西の国立、京大、阪大、神戸大はいずれも試験日が異なるので、重複受験生が多いと思われ、よほど適性試験で上位の成績をとらないと残れないようだ。定員70名に対して、出願者998名、一次合格498名、二次合格137名という結果であった。

4.一橋大学 一次 全員合格、二次 不合格
2004年11月28日(日) 小論文試験の日

 正午前に中央線国立駅に降りる。駅前通りは真っ直ぐな道が走っていて、景観権を巡って高層マンション建築差し止め訴訟がなされたところだ。しかし見渡してみると、この高層マンションが違和感を与え、周囲の景観に溶け込んではいないとまではいえないと思った。むしろ通りの両側にある商店街の看板広告の方が無秩序であり、景観を悪くしているように思えた。見方によっては、商店街の看板の無秩序さは大阪の北新地とそれほど変わりがない。景観権を言うほどの美しい景観というわけでもない。

 そもそも都市とは常に変化する性質をもち、流動する人々から構成される。現状のまま未来永劫保存することなぞ不可能だ。それに高層マンションは、全体として居住面積を増加させることによって、家賃の抑制効果も期待できる。旧居住者の既得権益だけではなく、新たに他から流入してくる人の居住空間を容易するのも行政の責任だ。景観権などという理由で、都市を閉鎖的にしてはいけないな、などと考えながら大学構内に入った。

 教室に入ったのは12時15分。試験開始は13時30分であるが、既に二人の受験生が座っていた。深呼吸をして精神を集中させた。中には予備校の分厚い過去問集を見ている受験生もいる。13時15分頃に問題用紙、解答用紙の配布と受験票確認。この時間でも遅れて入ってくる人がいるし、また指定されていたにもかかわらず大学入試センター適性試験の受験票を忘れた人もいる。見渡すと空席が目立ち、30人から40人の欠席者がいるようだ(実際の二次受験者数は116名)。一次選考がなかったため、応募した185人全員に受験資格が与えられたが、この計算では競争率は5倍程度、面接もあるので50名程度を二次試験で残すと考えると、実質競争率は3倍かな。 

 定刻に試験が開始された。7ページに亘る長文問題であったが、一瞥すると「成長の限界」という文字が飛び込んできた。環境・資源問題がテーマであることが直ぐわかった。30年前に読んだことのあるローマ・クラブのレポートだ。問題文を読むのに30分かかったが、要点は「沈黙の春」と「成長の限界」の批判のようだ。「沈黙の春」は1960年代に環境汚染を、「成長の限界」は資源枯渇を問題提起した有名な文章だ。問1は制限字数1000字で、筆者から批判されている「沈黙の春」と[成長の限界]の主張を擁護せよという問題である。定石とおり要約から始め、この二つのレポートを契機に全世界で環境対策と省資源、省エネルギーの技術開発が進んだ事実を指摘しつつ、具体例を提示して、最後の1行を残す程度の分量で書けた。

 問2も制限字数は同じく1000字で、「すでに豊かなのだから、成長はしなくて良い」との考えに対して筆者の立場から論評を加える問題である。まずこの見解が、先進国の富裕層を代表する意見であるとして、次に豊かさの定義をして、世界には多くの貧困層今だに存在することを上げ、先進国は識字率の向上などの人的支援によって途上国の自立化の支援を行う役割があるとした。問2も最後の一行を残して書き上げることができた。比較的上手く書けた、と思ったのだが…

 試験では解答用紙と同じ様式の下書き用紙が配られたが、使用しなかった。要約を書き始めたら、後は自ずと筆が進むからである。通常既にできている文章を何も考えずに丸写しするのに1千字書くのに30分ですむが、考えながらでは倍の1時間かかる。したがって下書き用紙に書いて、それを解答用紙に清書するような十分な時間はない。試験終了の午後4時には夕闇が迫り、あたりが暗くなっていた。

 12月15日発表があったが、残念ながら不合格。やはり阪大と同様に適性試験の成績が影響したのだと思う。募集定員30名に対して44名が二次合格。このうち41名が第三次面接を受け、37名が合格している。その後一橋大学が発表した未修合格者の成績データによると、適性試験の平均点72点、最低点60点、TOEIC平均点785.4点、最低点450点であった。やはり適性試験で高得点を取る必要があった。

5.神戸大学 一次合格、二次 不合格
2004年12月5日(日) 小論文試験の日

 神戸大学の選考試験は、一次試験と二次試験によって行われる。一次試験は100点満点で、内訳は適性試験60点、学業成績、語学、適性調書40点。但し1990年以前の大学卒業者の場合は、学業成績は判定基準にならないので、語学の相対的比率が高くなると考えられる。未修の出願者295名で248名が一次に合格した。2次試験の小論文は100点満点で一次試験と総合して合否が決まる。
 試験開始1時間20分前に試験場に入る。すでに20名程度が着席、一橋大学より出足が良い。開始時には席が殆ど埋まり、欠席者も10名前後のようだ。DNCの受験票を忘れたのは5名程度で、関西の受験生は関東より緊張感を持って臨んでいるようだ。

 試験問題のテーマは人工妊娠中絶で、10個の資料文(A4で16ページのボリューム)を読み、中絶反対の立場から1600字以内で述べるという内容。定石通りに、要約をして賛否に分類する。賛否不明のものは保留とした。賛成派の根拠は妊婦、母親の選択権、自己決定権であり、反対派の根拠は胎児の生存権である。母親の自己決定権によって人工妊娠中絶をすることは、意思表明できない胎児の自己決定権を奪うものであることを反対論の根拠とした。この反対論の根拠は、構想を考える段階で思い浮かんだのではなく、要約をして書き進んでいるうちにひらめいたものである。

 一橋大でも経験したが、下書きをしていては書き上げる時間が足りない。試験時間3時間の内、読むのに40分かかり、20分で資料文の要約と賛否の分類を行い、残りの2時間を筆記に当てた。周囲を見ると残り一時間くらいで書き始めている受験生がいた。この人たちは終了時間を迎えても、かなりの余白を残していた。小論文の本番試験では、特に時間配分が大切だ。とにかく手を動かして要約を書きはじめれば、その流れに沿って欠き進んでいけば結論の根拠も見えてくるのに、と思う。

 なお、この問題の論点である「自己決定権」は、吉岡先生の「社会科学系・12のモデル」に詳しく解説されており、あらためて、この参考書の価値を認識した。また、土屋恵一郎の「正義論/自由論」には、人工妊娠中絶問題が詳しく取り上げられている。

 12月16日、午後二時に正門前掲示板に合格発表された。番号はなかった。ところが翌日、速達が届き追加合格の候補者であるとの通知を受け、首の皮一枚がつながった。少なくとも追加合格者の中に入ったことは、小論文はまずまずの出来であったと考えたい。1月7日の一次追加合格発表まで諦めずに待つことにする。

 1月7日に追加合格の発表があったが、未修コースの追加合格はなかった。年末に、京都の北野天満宮へ合格祈願にいったのだが、残念ながら菅原道真公には願いが届かなかったようだ。定員30名に対して、二次合格者は52名であったので、30名程度京大や阪大との重複合格がなければ難しい。
 
7.全体をふりかえって

 以上のように、最終的に合格したのは関西学院のみであった。小論文が2問あり200点、書類選考100点の配点であり、適性試験のウェイトが300点中65点と低かったことが有利に働らき合格に寄与したと自己分析している。これに対して、神戸大は小論文100点、書類選考100点の合計200点の内、適性試験は60点でありウェイトが関西学院より高かった。やはり適性試験も平均点を上回らなければ、国立は無理のようだ。締めくくりとして、志望校の選定、適性試験と語学力、小論文という三つの点について、私がどのように考え、どのように行動したかを記録しておく。

(1)志望校の選定

 ロースクールであれば、どこに入学しても良いわけではない。新司法試験の合格定員は約3000名、これに対してロースクールの入学定員は国公立約1800名、私立約3200名で合計約6000名である。半数は不合格となる計算だ。上位3000名に入るには、レベルの高いロースクールを選ばなければならない。しかも、レベルの高いロースクールであれば、優秀な学生に囲まれ切磋琢磨できる環境を期待できる。だから、ただロースクールに入ればよいのではなく、レベルの高いところに入らねばならない。新司法試験のロースクール別合格者の実績数は当然ながら出ていないので、選定の基準がない。そこで、現行司法試験の合格者ランキングを目安にするのが一つの方法であると考えた。

 現行司法試験では、二桁以上の合格者を出している上位校20校合格者で全体の9割を占めている。この20位までのロースクールの定員合計は、ほぼ3000名。上位20校の学生がすべて100%合格するわけではないが、それ以下に比べて高い確率で新司法試験に合格できると期待できる。もちろん自分自身の努力も大切だが、教育環境も同じように重要な要素だと思う。

(2)適性試験の第3部・語学力

 次に志望校がどのような基準で選考するのかを調べる必要がある。選考基準を満たすに必要な効率の良い勉強をするのが望ましい。第一次選考は書類選考だが、この評価項目は適性試験、語学力、志望理由書、学業成績が主なもので、ロースクールによって組合せが異なる。予備校が出している一般的なガイダンス書ではなく、自分自身でロースクール毎に評価項目と配点を整理して、学習の重点を何処におくか決めるべきだろう。

 DNCの適性試験は第一部:推論・分析力、第二部:読解・表現力で各50点であるが、これに加えて、実は、第3部:語学力がありその配点は30〜40点あると考えても良いと思う。これから受験を考えている人に対して、特に英語の学習をおろそかにしないようにといいたい。なぜなら、英語の能力は勉強しただけ伸びるし、語学力として蓄積するからだ。国際化の時代にも必要な能力であることはいうまでもない。

 第一部の推論・分析力はド・モルガンの法則、対偶・逆・裏、統計などのデータ解析や理科的問題は別にして、特に空間や位置関係のパズル問題はいくら練習しても、限られた時間内で解けない場合があるので、安定した成績をとるのが難しい。またパズル的問題が解けたからといって実用性は疑問で、将来につながるとも思えない。なので、手を抜いたが25点とれた。もちろん、国立の上位校は、適性試験で高得点を取らなければ、合格は難しいのだが…。

 これに対して、英語は勉強した分だけ確実に実力が向上し、将来の学習や仕事の面で役立つので、勉強時間が限られている社会人は、TOEIC最低700点を目指す方が全体の得点アップのためには効果がある。さらに適性試験は一年一回の一発勝負であるのに対して、TOEICは殆ど毎月受験機会があり、敗者復活できることもお得だ。

 英語で得点することの重要性について具体例で説明すると、関西学院未修一般の場合、適性試験65%、学業成績35%の比率で評価した後、TOEIC700点以上のものは一定点数を加点する。適性試験の上位20%である65点と平均点52点の13点差は65%のウェイトによって8.45点の差に縮減される。一方TOEICの加点点数は不明であるが、10点加点されると仮定すると適性試験の約15点に相当し、適性試験平均点のものでも十分に挽回できる可能性がある。

 国立大学について一次選考の評価基準を見ると、東京大学は配点を公表していないが適性試験、外国語能力、学業成績であり、一橋大学は適性試験75%、語学能力25%、神戸大学は適性試験60%、外国語、学業成績、法曹適性調書全体で40%としている。

 一橋大学に当てはめると、先に見た適性試験の13点差は9.75点差に縮減される。一方、TOEICの点数の加点を推定してみる。TOEICで900点以上は殆どいない一方、700点以下は多数いるので加点されないだろう。そこで、700点から900点の間で比例配分的に加点されると仮定すると、850点であれば20点以上期待できるので、適性試験が平均点であってもTOEICが高得点であれば挽回は十分可能である。適性試験がいくら高得点でも、語学の成績が標準以下であれば、語学成績の良い受験生に逆転される可能性がある。もっとも適性試験上位者は語学能力も優れていると思われるので、語学成績が良いというだけでは最終的な合格には結びつかないかもしれないが…。
 
(3) 小論文の勉強の仕方

 次に小論文については、各志望校がどのような問題を出しているかを調べて、効率よく勉強しようと試みた。問題文は各ロースクールのホームページに公表されている場合がある。そうでない場合は、本屋で予備校の過去問参考書を立ち読みして傾向を把握することができる。予備校の本には模範解答が出ているが、必ずしも模範とは言えないので、問題文を吉岡先生に送り、自分で書いた答案を添削してもらうようにした。

 出題される課題文のテーマは、私立の場合、比較的現代の日本社会固有の問題が多い。たとえば、外国人労働・公共投資・景観権・英語の第二公用語化などである。これらのテーマに対応するためには、文芸春秋社の「日本の論点」によって知識と論点把握ができる。尤も「日本の論点」はボリュームが大きいので、「現代用語の基礎知識、学習版」(自由国民社)でもある程度知識の吸収ができる。これに対して、国立の場合は時間軸も空間軸も範囲が広いテーマが問題に取り上げられる。すなわち地球規模、しかも時間軸は戦後あるいは20世紀という長いスパンの問題が出されることが多い。このためには、社会科学系、人文科学系の勉強によって十分な知識を蓄積しておくようにした。これらの知識は、単なる法律人間に陥らずに幅広い分野への知的好奇心の醸成に役立ち、入学後にも活きてくると考えた。もちろん単なる知識の吸収だけでなく、要点を読み取る訓練にもなった。

 参考までに、私が10月から国立の試験のある11月末までの間に読んだ本を以下に列挙する。
●東京大学出版会「知の技法」「知のモラル」「知の論理」
 あらやる学問分野からの記述は知的興味をかきたててくれる。
●東京大学公開講座「時間」「異文化への理解」「未来」
 特定のテーマに異なる学問分野からの多面的な分析がなされる。
●東京大学出版会「20世紀のシステム」(全6巻のうち3巻まで)
 法律を学ぶためには、広い視野と時代の流れをしる必要がある。
●長谷川恭男「憲法と平和を問い直す」(ちくま新書)
 憲法改正論議に欠けている視点は立憲主義であるという。吉岡先生の推薦。
●橋爪大三郎「人間にとって法とは何か」(PHP新書)
 社会学者の法律論、正しい法感覚を磨く最良のテキスト(カバー)
●碧海純一「法と社会」(岩波新書)
 法学入門書
●佐和隆光「市場主義の終焉」(岩波新書)
 市場主義改革と「第三の道」改革により公正な社会の実現をめざす
●見田宗介「現代社会の理論」(岩波新書)
●丸山真雄「日本の思想」(岩波新書)
 日本の思想のあり方を浮き彫りにした文明論敵考察。
●川島武宣「日本人の法意識」(岩波新書)
 法社会学の古典、西欧諸国の法律に倣って作られた法体系と国民意識のずれ。
●サイード「オリエンタリズム」(平凡社)
 西欧キリスト教文化がイスラムのイメージを作った経緯の分析だが、難解であるた
 め上巻の半ばでギブアップ
●難波江和英、内田樹「現代思想のパフォーマンス」(光文社新書)
 吉岡先生の推薦、現代思想をツールとして使いこなす技法を実演(前書より)
●土屋恵一郎「正義論/自由論」(岩波現代文庫)
 不平等問題、宗教、同性愛、妊娠中絶など具体例がある
●石弘之「地球環境報告?」(岩波新書)
 元朝日新聞記者で環境問題が専門。現在は在アフリカ駐在大使
●イェーリング「権利のための闘争」(岩波文庫)
●ベッカリーア「犯罪と刑罰」(岩波文庫)
 刑法の古典的名著、罪刑法定主義を述べている。
●渡辺洋三「法というものの考え方」(日本評論社)

 このほか「東大教師が新入生にすすめる本」(文春新書)は、長らく学問の世界から遠ざかりビジネスの世界に生きたものに対して、何を読むかについてのヒントと指針を与えてくれた。

 そして何よりも、試験の1週間前に吉岡先生の「社会科学系小論文のトレーニング」(Z会出版)を復習し、さらに試験当日の朝にポイント部分を再度読めば、試験対策は完璧である。私は、試験場への電車の中でも読めるように、要点カードを作成した。予備校が競って予想答練の的中を宣伝しているが、それは偶然そうなっただけである。「社会科学系小論文のトレーニング」に書かれた「12の理論モデル」を頭に入れておけば、応用力によってどのような問題でも対応できると思った。

 もう一つ加えることがある。神山睦美は「思考を鍛える論文入門」(ちくま新書)で「弱い立場に置かれた者、抑圧された者の側に立って考えるということは、思考にとって不可欠の条件」といっている。問題文をまえにして、どのような視点、立場で書いてよいか判断に悩む時は、弱いものの立場に立てば解答の糸口が見えてくるものである。
 
 次回は「入学までの過ごし方」について報告する。

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