25年 早稲田大学法科大学院 未修 合格再現 Yさん

早稲田大学法科大学院の合否が発表され、無事、合格することができました。 この結果はひとえに先生のご指導の賜物であり、改めて感謝申し上げます。この再現答案が次に続く皆さんのお役に立てられれば嬉しいです。

言語と思考は果たして表裏一体なのか、それとも言語抜きの思考もあるのか、というテーマでした。

問1
 遺伝的多様性保全のため、アカゲザルとニホンザルの交雑種を殺処分するという行為は、許容されるべきでない。なぜなら、環境倫理学の根本は自然を絶対視して自然や生態系保全を訴えるものではなく、自然と人間との関係性である「環境」の調和を追求することにあるからである。
 そもそも課題文Cにおいて外来種と在来種の交雑種は駆除されるべきだ、と述べられているのは、「全体的な環境倫理学」の下、生態系のバランス保全が最重要の課題であるとしているからである。その生態系保全には「生物多様性」の保護も含まれ、今回のケースではサルというひとつの生物種が長い年月をかけて環境変動等に順応し、分化してきたことで生まれたアカゲザルとニホンザルの両種が、人間の影響で再び交雑しては蓄積された遺伝的多様性が均質化してしまう。それを防ぐためには交雑種の殺処分もやむを得ないということである。
 しかし、このような自然保護や生態系保全の主張は、環境倫理学の理論としては不十分である。環境倫理学の究極目的は、人間と自然の関係である「環境」の調和を図るものであり、人間と自然との関係を断絶し、また自然の影響を取り除くことではない。環境保護や保全といった活動も人間が自然に対して働きかける行為以外の何物でもなく、人と自然との安定的な関係性を探ることが環境問題解決への足掛かりであり、人間対自然という誤った二項対立構造は克服されなければならない。したがって、生態系保全の名のもとに人間の影響を自然から排除するために行われる外来種と在来種の交雑種の殺処分は、許容されるべきでない。 

問2
(1)
 地球規模の食糧危機によって多くの種が食べつくされ絶滅することを防ぐため、遺伝子操作によって効率的な食糧生産を行うことは有用である。なぜなら、効率的な食糧生産によって人々を飢餓のリスクから解放することができるからである。
 既存の環境では、いくら生産を効率化したところで、食糧の収量には限界がある。しかし遺伝子操作によって、たとえばそもそもの収量の限界を大幅に増加させることができれば、より多くの食料を生産でき、食糧危機を解決することができる。したがって、遺伝子操作による効率的な食糧生産を行うべきである。

(2)
 地球規模の食糧危機によって多くの種が食べつくされ絶滅することを防ぐため、遺伝子操作によって効率的な食糧生産を行うことは有用である。なぜなら、食糧生産の効率的な生産が可能になることにより、動物たちの苦痛を軽減させることができるからだ。
 例えば、現代においても、フォアグラの生産などは批判を受けている。フォアグラの生産にはガチョウが脂肪肝になるほど大量に餌を与える必要があり、満腹で餌を食べなくなると生産性が落ちるため、消化器官までチューブを使って直接送り込む強制給餌がしばしば行われており、このような生産方法は多くの苦痛を伴うことが指摘されている。このような強制給餌以外にも、成長速度を急速に早めるホルモン剤を使用や、より多くの子供を産ませるための強制交配など、家畜の生産性向上は家畜の苦痛の上に成り立っている。仮に遺伝子操作によってもともと食欲旺盛な家畜や、成長速度が速く多くの子供を産めるような家畜を開発できれば、苦痛を伴う強制給餌や交配といった手段を取らずに済み、家畜の苦痛を軽減したうえで食料生産の増加が可能となる。そのような点において、遺伝子操作による効率的な食糧生産は認められるべきだ。

(3)
 地球規模の食糧危機によって多くの種が食べつくされ絶滅することを防ぐため、遺伝子操作によって効率的な食糧生産を行うことは有用である。なぜなら、多くの種の動植物を人間の食べつくしによる絶滅の危機から守ることができるからだ。
 すべての個体的生物は、独自の善を持ち、そこには内在的価値・固有の価値・固有の尊厳を持っており、人間が食べる食糧がないからと言って食べられ、絶滅させられることを正当化することはできない。そこで遺伝子操作を用いた食糧生産をすることで人間に食料が行きわたれば、多くの動植物は人間による食べつくしを免れることができ、慎重な遺伝子操作により種の保存も可能である。したがって、遺伝子操作による効率的な食糧生産は認められるべきだ。

(4)
 地球規模の食糧危機によって多くの種が食べつくされ絶滅することを防ぐため、遺伝子操作によって効率的な食糧生産を行うことは認められるべきではない。なぜなら、遺伝子操作の容認は、生態系の破壊につながるからだ。
 ある生物種の遺伝的多様性は、長い年月をかけて環境の変化や厳しい自然界の競争に耐え、その積み重ねによって生じるものである。たとえ慎重な遺伝子操作を行って既存の種を保存できたとしても、その後に在来種と交雑して本来なら自然界には存在しえない未知の遺伝子を持った生物が誕生してしまう可能性があり、長い年月をかけて築き上げられた生物の多様性は失われることとなり、その危険性は計り知れない。むしろ食欲旺盛で繁殖力に富むように改変された遺伝子を持つ動物が、在来種を飲み込み、絶滅に追いやってしまう可能性すらある。したがって、遺伝子操作を用いた食糧生産は、自然界には存在しない未知の遺伝子を持つ生物の誕生につながり、生態系を破壊しかねず、容認すべきではない。

以上