2022年 慶應大学法科大学院 未修  合格再現 Sさん

 慶應大学法科大学院の再現答案です。
 構成は試験場で書いた通りに再現しましたが、言葉遣いなどは多少違っているかもしれません。
 私は外国人なので、日本語の壁が多少あり、不自然なところがあったら、気軽に読み飛ばしてください。皆さんの参考になれば幸いです。


【問1
「フェイクニュース」という用語はどのような問題点を有しているのか。問題文の論旨を要約しなさい(600字以上800字以内)。

「フェイクニュース」という用語の問題点は以下の二つにまとめられる。政治的な利用によって報道の自由が制限されるという懸念と、定義の不明確によって情報全般に対する不信が増加し、かえって偽情報・陰謀論が信じられるということ。
 まず、「フェイクニュース」は事実でないことを指すため、それを使うと情報そのものが否定される。だから、政治的に利用されると、政治家や権力者にとっての都合の悪い情報を否定することができる。そのきっかけは、トランプ氏が米国のマスコミを「フェイクニュース」と呼んだり、頻繁に攻撃したりすることにある。例えば、大統領選介入に関する質問に対して、彼は「フェイクニュース」を理由として回答を拒否し、記者の質問権利を奪って記者会見場から追いだそうとした。その後、「フェイクニュース」という言葉は世界中に広がり、国家元首や政治家がそれを報道機関を攻撃する目的で恣意的に利用するようになった。その意味で、政府や当局は自分の都合よい方向に「フェイクニュース」を定義し、言論・報道自由に制限をかけることになりかねない。
 確かに、「フェイクニュース」という用語の一般化によって、オンラインで拡大された偽情報・誤情報が認識され、対策を促す効果が一定程度ある。しかし、「フェイクニュース」といっても、その目的によってさまざまに種類が存在する。その分類をせずに、「フェイクニュース」に一くくりすると、事実に基づいた情報であるかの判断は難しくなり、メディアに対する不信が高まる。とくに、「フェイクニュース」が主要メディアに関連付けられる傾向が強く、社会には「信頼できる情報源」のコンセンサスがなくなる。そこで、「マスメディアが報道しない事実」と標ぼうする偽情報・陰謀論は、かえって信頼度が高くなる。とすると、「フェイクニュース」の使用は逆に「フェイクニュース」の広がりを助長させることになるのだ。(790字)

【問2

問題文の論旨を踏まえつつ、日本におけるオンライン時代のメディアリテラシー教育はどうあるべきか、あなたの見解を記しなさい(1200字以上1400字以内)。

 日本におけるメディアリテラシー教育は、従来、マスメディアが発信する情報の意図を批判的に読解することに重点を置いてきた。しかし、オンライン時代では、メディア環境がかなり変化した。情報発信のコストが低下して情報が瞬く間に広がり、パーソナライズニュース化によって好みに合わせて情報取得して自分の信念が増強される。
 これをうけ、日本のメディアリテラシー教育では、デジタル情報の信頼性を評価する能力を育てるべきだ。例えば、実際にジャーナリズムの現場に用いられる手法を取り入れることが考えられる。具体的には、異なるサイトで様々な情報を比較して検証し、検索エンジンに表示されるコンテンツの順位にこだわらず、次のページのリンクも参考するなど。実際、この手法は、近年欧米のメディアリテラシーのカリキュラムに使われ、学生がインターネット上のコンテンツの信頼性を評価する能力が向上したという。ただし、まず教育現場のデジタル情報の信頼性を評価する能力をアセスメントする必要がある。ある手法を導入する前に、現状把握したうえで、より建設的に検討することができるからだ。
ま た、「情報を疑う」という批判的思考を重視するアプローチは、メディアリテラシー教育の主流であるが、絶対視すべきではない。なぜなら、教育に「疑う」ことを過度に教えると、既存メディアへの不信につながるからだ。そこで、「マスメディアが報道しない事実を伝える」と唱える陰謀論などは、かえって信頼性が高いように見える。それどころか、むやみにメディア情報を疑うスキルを教えると、社会の分断化にもつながる。なぜなら、ネットの「エコチャンバー」によって自分の信念が強化される傾向があって、過剰なメディア情報への懐疑はさらにそれを強化するからだ。こうした「疑う」態度は、リベラルな社会の加速によって進み、社会を分断化させて破壊する力がある。今年米国の連邦議会乱入事件では、すでにその一端が見える。だから、日本のメディアリテラシー教育を推進するにあたっては、この点に留意すべきだ。
 実際、「メディアリテラシー」は包括な概念であり、批判的な思考だけではない。ユネスコの定義によれば、メディアリテラシーには、メディアの機能・役割への理解、メディアコンテンツの分析、民主的議論や情報発信などのスキルが含まれる。となると、偽情報を見分ける能力とメディア情報を批判的に読み解くだけでは、メディアリテラシー教育として不十分であり、民主的なプロセスなどを教育に入れる必要がある。例えば、多様な議題に対して、討議の場を設け、学生の積極的な議論を求めること。そこで、自分と対立する考え方にも接触でき、自分の関心以外にも広範的な話題を思考する機会も与えられる。これでは、インターネットでの「エコチャンバー」現象への対策につながるだろう。
  そもそも、「フェイクニュース」という社会問題は、オンライン時代において、民主主義と言論の自由が矛盾する構図にある。ネットでの自由を無制限に許せば、「フェイクニュース」が氾濫し、社会が分断して民主主義が機能不全になる。しかし、そこでの問題は、真の民主的な議論が欠けていることだ。したがって、オンライン時代のメディアリテラシー教育においては、情報の信憑性や批判的思考にとどまらず、民主的プロセスの教育を重点に置くべきだ。(1,374字)