11年 一橋大学法科大学院  合格再現答案 Aさん

 一橋大学法科大学院の再現答案です。
 再現答案に関して、内容や構成は書いた通りだと思いますが、細かな書き方などについては異なるかもしれません。
 皆さんの参考になるとうれしいです。



平成22年度 入学選抜試験 問題文


問1

 著者の考え方は、優生学を用いて効率的に社会の発展を目指す。優生学によれば、たとえ劣性遺伝子を持つ人の権利や利益を排除したとしても、優性遺伝子を後に引き継ぐことが社会の効率的な発展につながるのであれば、その考えを採用すべきなのである。
 それに対して、平等に権利を守るべきだという批判が考えられる。なぜなら、著者の考え方では、劣性遺伝子を持つ人々の子供を持つ権利や、自分の意志で生む権利などが不平等に阻害されるからである。この批判の基盤には、普遍かつ同一の性質をもった個人像がある。人々は、みな平等であるために、その処遇に差異をつけてはいけないのである。
 しかしながら、批判者の意見では効率的な社会の発展は望めない。なぜなら、その意見の前提である個人像は、現実と余りにも乖離しているからである。人々は、その生まれ持った性質や能力、環境など様々な要素によって、不平等に順位づけられている。つまり、普遍同一的な個人など存在しないのである。このように、批判者は主張の前提となる個人像を余りにも抽象的に捉えすぎているため、その主張は現実に適用できるほどの正当性を持たない。人々が持つ社会の発展への貢献度が異なることを前提に、もし実際に社会の効率的な発展を目指すならば、批判者の主張する平等な処遇は非合理だろう。むしろ、貢献度が高い人間、即ち優性遺伝子を持つ人々の処遇を厚くし、貢献度が低い人間、即ち劣性遺伝子を持つ人々の処遇を厚くする著者の考え方が採用されるべきである。(627字)

問2

 著者の結婚論は、優生学に基づき効率的な社会の発展に資することを目的とする。優性遺伝子を持つ人の遺伝子を後世に引き継ぎ、かつ劣性遺伝子を持つ人の遺伝子を後世に残さないために、優性遺伝子を持つ人々にのみ結婚を許可する。
 しかしながら、この考えは間違っている。なぜなら、社会において守られるべき最低限の価値が、著者の結婚論では守られていないからである。最低限の価値とは、生命や自由等といった個人の利益を指す。近代契約説によれば、個人は社会に対して自らの生命や自由を確保することを期待する代わりに、社会に対して一定の大きな権限を与える。つまり、社会は個人の生命や自由を確保しなければ、社会の正当性を持たないのである。
 たしかに、著者の結婚論は効率的な社会の発展を生むかもしれない。しかし、だからと言って、社会を成り立たせている要素を無視してはならない。したがって、求められる結婚論とは、社会を成り立たせる要素、即ち守られるべき最低限の価値を守りながらも、社会の発展を目指すものである。利益は相反させるべきではなく、相互の利益を尊重することが大切である。それは、ロールズの重なり合う合意という言葉からも説明できる 。
 以上を持って、著者の結婚論は否定せざるを得ない。著者の結婚論は、現代社会の性質を無視しており、個人と社会との間にある契約に真向に反対する。このように社会の成立条件を無視するような政策は採用するべきではないのである。(607字)