11年 中央大学法科大学院  合格再現答案 Hさん

 中央大学法科大学院の試験で書いた再現答案です。
構成メモと記憶を頼りに可能な限り再現したつもりですが、皆さんの参考になれば幸いです。



問題文は大学側でも公開しておりません。


問1

 文中における「重いお金」とは、パプアニューギニアのトーライ人において用いられてきた貝殻通貨タブのことをいい、「軽いお金」とされる法定通貨キナと対比される。タブとキナとは価値代表物として物との交換に用いられるという点で共通する。しかし、キナが単に通貨として物との交換に使用され、それ自体には価値がないとされるのに対し、タブはそれ自体に価値があるとされ、社会的権威を表すものとされる。タブを集め、ロロイといわれる輪をつくり、ロロイを貯蔵すればするほどそれを持つ者の社会的権威を表す。通貨そのものに価値を認めるか否かが両者の違いである。
 キナはあくまで価値代表であって、そのものに価値があるわけではないため、「軽い」。他方、タブはそれを持つこと自体に価値が見いだされるため、通常お金では表せない「重い」価値をも表すことができる。その結果、文化や伝統、土地など人の一生に関わるお金では表せない「重い」価値を表すことができるようになる。通常お金で価値を表すことができないものの価値を表せるという点で「重い」お金であり、単に通貨として扱われる「軽い」お金とは異なるのである。
 もっとも、タブそれ自体はキナと交換することができる。トーライ人はそのことを否定しないし、公の交換レートも定められている。お金で表せない「重い」価値を表す「重いお金」は、「軽いお金」で価値が表せるものであるのだ。

問2

 貝殻通貨タブと地域通貨との共通面は、法定通貨とは別に存在するが、法定通貨と同様の働きをする面である。すなわち、価値代表物としてその通貨を用いてものの売買をおこなったり、税を支払ったりすることができる働きである。特定の地域や場所に使用範囲は限定されるが、これら二つの通貨は一般の通貨と同じく、ものの価値を代表しているのだ。
 しかしながら、これら二つの通貨は、通貨そのものの価値の軽重という点で、相異なる性質をもっている。すなわち、貝殻通貨タブは法定通貨と比べて「重い」価値を持つのに対し、地域通貨は「軽い」価値を持つことが想定されているのだ。以下順に論じる。
 問1で述べたように、貝殻通貨タブが「重い」価値を有しているのは、人々が通貨・貨幣そのものに価値を認めているからである。タブは法定通貨である「軽い」お金ではあらわせない価値をも表せる通貨として「重い」価値を持つことが期待され、文化や伝統に密接なかかわりを持っている。法定通貨というお金を超える「重い」働きをはたすことが求められているのである。
 他方、地域通貨はタブのように「重い」価値を持つことは期待されていない。それどころが、法定通貨に比して「軽い」価値を持つことが期待されているといえる。ここに、「軽い」通貨とは、現金・法定通貨の持つ心理的な障壁を取り除いた通貨のことである。元来、日本においては法定通貨・現金は他のものに比して「重み」を持っているとされ、気軽に他人に贈与したりすることは贈与者にとっても、受け取る者にとっても「重い」ものとされてきた。それゆえ、地域通貨はその「重さ」を取り除く「軽い」通貨としての働きが期待されているのである。現金ならば渡すことに気が引けるが、地域通貨のように「軽い」お金ならば渡す側も受け取る側も心理的負担をあまり感じず、通貨の受け渡しが容易になる。そしてその「軽さ」が地域活性化や他人との交流の促進につながることが期待されているのである。
 以上のように、貝殻通貨タブと地域通貨とは、通貨・価値代表物としてものとの交換等に用いられる点では共通するが、法定通貨と比べた際の価値の重みが逆であるという相違があるといえる。

コメント  
 〈形式面について〉 試験時間は90分、解答用紙はA3用紙(両面印刷・横書き)でした。ペン書きに加えシャーペン、鉛筆書きも可であり、解答欄にマス目はありません。オモテ面にはおよそ30行の横線が引かれており、上15行分が問1のためにあてられています。裏面も同じく30行ほどの横線が引かれていました。
 字数指定は問1については〔15行以内〕という指定がありましたが、問2に関しては特に字数制限はありませんでした。  
 〈内容面について〉 まず、課題文にざっと目を通したところ、貝殻だとかパプアニューギニアだとか見慣れないワードに一瞬面食らいましたが、問1については「説明しなさい」という問いの通り、課題文読解・要約を行えばいいと考えました。課題文の要点を抜き出し、問いに素直に答えようと心がけました。問2については、どこまで文中の話を展開するか、自分の考えをどこまで織り込むか悩みましたが、結果としては課題文の読解・再整理を展開するにとどめ、あまり自説を展開することはしませんでした。その理由は、問1であえて「重い」という言葉を用いて貝殻通貨の意味を問うたにもかかわらず、問2においてそれとは離れ地域通貨の今後の意義や価値などの点を問う趣旨ではないと考えたからです。単純に両者の違いを見抜き、対比することが求められたと思います。私は、通貨としての「重さ」や「軽さ」が決定的に異なると考え、よってその対比を論の中心に据えたつもりです。
 再びこうしてワープロで文章におこしてみると、同じ意味のことを何度か反復しているだけの部分や、説明が足りない部分、言い回しがくどい部分や対比が甘いなぁと感じる部分が多々あり、反省しています 。