04年度 適性試験体験記 ●●

阿藤 俊一(ボカボ数理担当スタッフ)

法科大学院適性試験第1部の解説者としても
活躍する太田君に6月の試験の様子をレポート
してもらいました。難化したといわれる適性試
験にどう取組むべきか…来年の受験者必見です

■受験場は青山大学

 ぼくの受験したのは青山学院大学。渋谷の坂を上がって教室に入ると、いささか緊張した面もちの受験者がもう8割方集まっている。学生っぽいラフな格好が多いが、社会人と思われる人も。入室時刻に遅刻した者も若干いたが、問題なく受験できたみたい。鉛筆や受験票などを忘れてきた受験者もいたようだけど、係の人がてきぱきと対応して、大した混乱も生じなかった。
 
ベルが鳴るとあとは静寂が支配する90分。鉛筆が走る音だけが聞こえる。頭を抱える者、首をしきりと振っている者、メモを取る者など…時間が速く過ぎ去る。周りの人は解説を考えながら悠長に解くなんてできないのだから、当然みんな必死。試験終了間際まで鉛筆の音がとぎれることはなかった。
 第1部試験が終わってからの休憩時間は、校舎の外で一服する者、知り合いを探して試験の感想を話す者などがいたが、まだ試験中ということもありピリピリした雰囲気がある。
 第2部試験でも試験場の様子は第1部と変わらない。僕はわりとゆっくりと丁寧に読み進めていても時間が余ってしまったのだが、かなりの人が時間ぎりぎりまでかかったようだ。
 休憩時間と試験が終わった直後に近くにいる受験者と話すと、「難しかった」「時間が足りなかった」と言う。後日、何人かの友人に聞いてみても同じような反応だった。だが、それもそのはず、今回の試験では昨年度の試験に比べ平均点が10.33点下がっているとか…。試験全体としては明らかに難化したということか。だけど、僕の印象は単純に難しくなったというのとは違う。問題の質が変わったのだと思う。

■第一部は難化したか

 まず、第1部推論・分析力試験では多くの受験者から「難しかった」という声が聞かれた。実際、平均点が3.57点下がっている。でも、推論・分析力が受験者にとって難しく感じるのはいつものことだし、4点弱下がっていても、急激な難化とは言いにくい。それより、そんな印象が強いのは、昨年度との出題傾向の違いにあると思う。
 出題数からみてみると、昨年度の全14問に対して、今年度は全10問。大問の数自体は大幅に減っており、その分昨年度よりも時間を食う設問が多い。設問数は21個と変わらず。つまり、昨年度よりも一つの問題設定でより深く考えさせる問題が多かったわけだ。しかし、こうした出題数の変化が、試験結果に大きく影響しているとは思えない。単純に言って、大問1問あたり昨年の1.4倍時間を割けるのだから、少々複雑な問題設定でも十分こなせる量である。受験者の時間配分を多少狂わせた程度であろう。

■内容の違いが原因

 むしろ内容の違いが受験者をとまどわせたのではないか。内容面では今年度の傾向は去年と明確に違っている。まず、今年度は昨年度にあった統計・実験に関する問題がなくなった。第2問は統計のように見えるが、実は統計的知識を必要としない計算問題である。その分、与えられた定義と条件から論理的に推理していく問題が大幅に増えている。第3問・第4問・第8問・第10問がそれである。一方で、論理記号を用いた演算だけを行う問題の比重が減っている。一見、論理に関する知識の重要性が減り、パズル的な問題が増えたようだが、実はそうではない。
 逆に上記の第3問・第4問・第8問・第10問では、形式論理の知識がないと条件を理解することが(すなわち問題を把握することが)そもそも不可能になっている。「ベン図におとせば、論理に関する問題はとれる」と安易な参考書はよく解説しているが、今回はその裏をかかれたわけだ。ベン図解法ばかりを練習していた受験者は相当苦しんだはず。論理記号の持つ意味を理解した上で、さらにそれを条件の把握や条件間の関係の把握に役立てられるというレベルでないと解けない問題が多かったのだ。つまり、今年度の推論・分析力試験では昨年度に比べ、より実践的な論理の理解が求められていると言ってよい。

■むしろ基本に戻っている

 だから、第1部試験を単純に「難化傾向」と決めつけるのは間違いだ。昨年度必要であった統計・実験に関する背景知識や、選択肢の反例を探すのに必要だった「ひらめき」の比重が大幅に減っているからだ。今年度の問題は、問題の条件さえ理解できれば、答えはむしろ簡単に出てくるのがほとんどである。その意味でこれらは昨年度とは違う「易しさ」を持つ。他方で、過去問に登場する個々の出題形式に単純に当てはめて解決するというような対策では得点に結びつかない。推論・分析力試験で要求されている、論理の理解や諸条件の整理能力が徹底的に問われているのだ。基本をないがしろにして、過去問対策に走ってはいけないということだろう。

■第二部は論理性が強まっている

 次に、第2部の読解・表現力では、こちらも「難化した」という受験者の反応もあるけれど、第1部について聞かれたほどの「悲鳴」はそれほどなかった。ぼくの印象としても第1部ほどではない。しかし、結果から見ると、平均点は昨年度から6.76点下がっており、データから見ると「難化した」と言えるのはむしろ第2部の方なのは少し不思議な感じがする。たぶん、昨年度の出題数全10問に対して今年度は12問と、問題量が増えたことが、影響しているのだろう。文章の難易度は昨年より難しいものも易しいものもあって一概には言えないのだが、単純に読む量が増えていることで、平均点が下がったみたい。
 もう一つの注目すべき変化は、出題内容の違い。第3問・第4問・第9問は、読解と言っても書かれている文章から論理的に推論できるものや、文章の内容と整合的な解釈を問われる問題で、昨年度であれば第1部の問題として出題されてもおかしくない。文章題の中の論理構造を見抜く設問は、これからの一つの傾向を表すと思う。逆に、昨年度にあった時系列に関する問題が今年は消えている。つまり、文章の内容を単純に切り貼りして整理するようなルーティンで、解ける問題はもはやないわけ。その意味で、今年度の読解・表現力では昨年度にもましてより精確な読み取りが要求されていると言ってよいだろう。

■対策をどうするか?

 以上まとめたように、全体の平均点を下げたのは出題傾向の変化によるところが大きいと思う。本来の分析力や読解力を問うており、表面的な問題形式のみに着目した対策をしづらくさせている点では、むしろ良問が多くなっているように思う。ただ、まだ2年目で、点数調整などの理由からも出題の形式・内容ともにいまだ手探り状態な部分もあるだろう。受験者側の対策としては、まず第1には基本的な論理の理解や読解の方法をしっかりおさえる。あとは多様な問題・文章を演習して、応用力を養成するべきであろう。まちがっても個々の問題形式に山を張って、個別に対策を立てておくようなバラバラの対策を立てては行けない。基本をおさえて、演習でそれを応用して解いていくような地道な練習が、今後、得点アップにつながる王道であろう。

 今回の試験は平均点も下がったので、受験者の皆さんにとっては、そうとうストレスが強かったみたい。ぼくは、今回の試験は去年と味わいが違って楽しめた方だ。ただ、どう解説したらいいかといろいろ考えているうちに、後ろの方では時間がきびしくなった問題がある。試験中にはああだこうだ考えずにひたすら解かないといけないね。